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第22話 闇に消える悲鳴

 荒い息が、ダンジョンに響いていた。

 闇の中から現れたのは、片腕を押さえた冒険者だ。

 片目は潰され、鼻からは出血した跡、加えて泥だらけで、骨折したとおぼしき足を引きずっている。


「くそぉぉぉぉおお!!」


 アスキンは獣のように吠えた。

 五体はボロボロでもまだ元気だけは、有り余っているらしい。

 とはいえ、彼を動かしているものは、恨みや執念といった負の感情だ。


 仲間を使い、人質まで取ったというのに、新米冒険者に負けてしまった。

 一体どのツラ下げて、冒険者として復帰すればいい。

 いや、もう冒険者としてなど無理だ。


 アストリアたちが被害届をギルドに出せば、たちまちお尋ね者になる。


「こうなったら、また仲間を集めて野盗にでもなるか?」


 アストリアが言ったようにダンジョンにいる敵は、魔物だけではない。

 荷物を狙った冒険者崩れの野盗は、どのダンジョンにもはびこっている。

 人間に襲われるなど、決して珍しいことではないのだ。


 ともかくアスキンは第1層へと引き返しつつあった。

 今はこの傷を癒すのが先決だ。

 止血は済んでいるが、かなり血を流し過ぎた。


「くそ……。叫んだが、頭がぼうっとしてきやがった」


 その時であった。

 アスキンは反射的に足を止めた。

 敵の気配を察したかといえばそうではない。


 冒険者としての勘というヤツか。

 魔物の巣に迷い込んだ時の異様な怖気。

 いや、もっとシンプルに言うなら、身体中が猛烈に危険を発していることに気付いた。


「なんだ?」


 顔を上げる。

 2つの赤黒い光が、まるで闇に紛れるように浮かんでいた。

 直後、鼻腔を衝く臭気に、アスキンは恐怖する。


「なんで――――――」


 なんで気付かなかった……。


 そんな無念を残したまま、アスキンは闇から伸びてきた手に捕まる。

 全身を覆うような巨手はアスキンを包み込み、声――いや息すら奪う。

 圧倒的な膂力に逆らえず、冒険者の悲壮な悲鳴だけが手の中から聞こえてきた。


 巨手はゆっくりと大きく開けた口元へと向かう。

 ぱっくりと開いた赤い口内。

 それは罪人を戒める釜ゆでを想起させる。

 だが、行われたのは釜ゆで以上に、残酷な行為であった。


「やめろぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」


 手から口へと人間がこぼれる瞬間、断末魔の悲鳴が聞こえた。

 しかし訴え虚しく、アスキンの身体は口内へと消えていく。


 ゴキッ! ボキッ! グシャッ! ガキッ! ゴッ! グッ! ゴンッ!


 およそ咀嚼音とは思えぬ不快な音であった。

 ともかくその魔物はあっという間にB級冒険者を攫い、丸飲みにする。


『プッ!』


 突然、何かを吐き出す。

 地面に転がったのは、アスキンが装備していた『守護印(アミュレット)』である。

 ダンジョンの薄暗がりでも、宝石の部分が鈍く光っている。


 魔物は長く鋭利に伸びた爪の先で、指輪の形をした『守護印(アミュレット)』を摘んだ。

 それを掲げると、大きな双眸と先ほど人を丸飲みした口が大きく開く。

 表情こそ気に入ったように見えたが、魔物はごくりと再び飲み込んでしまった。


 そのまま何事もなかったように歩き出す。

 繁茂した光苔が怯えるように強く光を放った。

 その瞬間、照らされたのは巨大なゴブリンである。


 大きな腹と手に持った巨大な石斧を引きずりながら、ホブゴブリンと呼ばれる魔物は、第1層を目指していた。


今日は夜にも投稿する予定です。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
相方のS級なら片手間で 主人公なら無傷で捕獲出来るのに?
ここは主人公たちの手で葬るべきじゃないかな 甘さを拭う餌に最適な悪党だった
[一言] 巨人……駆逐しなければ
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