第132.5話 明かされる秘密
※ ごめんなさい。132話の内容を間違って、次話の133話の内容を掲載していました。
2025/10/21 17:05から修正しましたので、改めて132話をご覧ください。
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「あなたの闇魔法は僕には通じません。どいてくれますか? 今、あなたに構ってる余裕なんてないんです」
今の僕に漆黒の鎧を装備した騎士など目に入っていなかった。
倒すべきは、その向こうにいる巨躯の男だ。
あの男を倒すまで、もう何も目に入らない。
それがアストリアを裏切った人間でもだ。
「ふ、ふざけるな! ふざけるなよ、小僧!!」
ダイムシャットは激昂する。
漆黒に彩られた聖剣を掲げると、魔力を込める。
僕を威嚇するように動かしながら、ダイムシャットはさらに吠えた。
「良かろう。元『円卓』として、そして陛下に仕える【剣師長】として、貴様の相手になってやろう」
「気を付けろ、ユーリ。ダイムシャットはただの騎士ではないぞ」
アストリアの忠告を受けなくても、構えた姿を見てわかった。
大剣を握ったダイムシャットから、きちんと殺気を感じる。
それまでヴァルトしか見えていなかった僕の目に、ようやくダイムシャットが敵として映る。
状況はさらに変わる。
剣帝ヴァルトの前に、元『円卓』の騎士たちが集結する。
主を守るように陣形を組むと、僕や周辺に集まった戦士たちを威嚇した。
その顔には、ダイムシャットが作り出す仮面がつけられている。
(そうだ。今のうちに仮面を……)
鍵魔法を【開け】しようとした時、僕の手は止まった。
指先に濃い殺気が纏わり付くのを感じる。
まるで警告だ。その先以上に指先を伸ばした刹那、指ごと身体を真っ二つに切られる。
殺気とともに、強い敵意が僕を固定させた。
「ン~~。やめろ、ダイムシャット」
ダイムシャットの表情が声を聞いて、明らかに引きつる。
全体を【閉めろ】したように、僕もアストリアも、そして元『円卓』の騎士たちも固まった。
自然と僕たちの視線は、城の側で倒れたヴァルトに向けられる。
巨躯がふわりと浮き上がるように立ち上がった。
怒り心頭かと思えば、そうではない。
ヴァルトは少し目を細めたあと、短い命令を発する。
「アラム、回復しろ」
淡い緑色の鎧を着た騎士が、ヴァルトの頬へと手を伸ばす。
回復するかと思いきや、手を止めたのはヴァルトだった。
「そうではない」
「では、どういう風に?」
「すべてだ」
「畏まりました」
アラムと呼ばれた騎士は再び翻り、杖剣を掲げる。
【天宮を癒す円環】
魔力が一気に周囲へ拡散される。
みるみる傷付いた城の外装が綺麗になっていった。
オルディナによって空いた穴もふさがり、その聖剣もまた修復され、ゲヴェイムの手元に戻ってくる。
戦士たちによって打ち倒されたスケルトン軍団も元通りに復活し、僕たちを取り囲む。
最後にヴァルトの頬の傷は癒やされ、元の顔へと戻る。
「見事だ」
「おそれいります」
アラムはそっと杖剣を下ろす。
一方、僕は愕然としていた。
あれほど策を駆使し、大勢の人の命の上に、今この状況があるというのに、アラムさんの聖剣の力によって、あっという間にひっくり返ってしまった。
聖剣オルディナだけでも脅威なのに、スケルトンたちまでいる。
なんの冗談かと笑いたくなる。
「ふはははははははははははははは!!」
笑ったのは、ダイムシャットだった。
自ら先頭に立ち、顎を上げて、僕たちを見下ろす。
「勝ったと思ったか。愚か者どもめ。お前らが城を壊そうが、聖剣を折ろうが、我らにはアラムがいる。そして、その後ろには剣帝陛下が控えておられる。無駄なことはやめろ。お前たちに万に1つも勝ち目はない」
「黙れ、ダイムシャット。お前はキャンキャンキャンキャンとうるさいんだよ」
「し、失礼しました、陛下」
ダイムシャットは再び凍り付く。
ヴァルトはゆっくりとこちらに近づいてくる。
僕はアストリアを背にし、アストリアはいつでも攻撃できるように備える。
いよいよ攻撃かという時、ヴァルトは言った。
「ユーリと呼んでいたな、アストリア」
「彼の名前はユーリ・キーデンス」
「こいつはお前のなんだ?」
「え?」
「ユーリはお前のことを花嫁といった? 相違はないか」
「ちが…………いや――――」
アストリアは首を振る。
それはヴァルトの質問について、否定したわけではない。
まるで自分の中に浮かんだ想念を振り払うような仕草だった。
「ユーリは私の仲間だ。大切な仲間だ」
戦場とわかっていても、少し頬が熱くなるのを感じた。
花婿でも、恋人でもなかったけど、「大切な」という言葉に、アストリアの信頼が籠もっているような気がして、かなり嬉しかった。
「大切な、か……」
ヴァルトにその意味合いが通じたのかわからない。
しかし、匂い立つような殺気が薄れていく。
とうとう僕たちに背を向け、剣帝ヴァルトは城に向かって歩き出す。
「陛下! どうされたのですか?」
「しまいだ」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンン!!
鐘の音が戦場に響く。
その姿を確認することはできないが、音は城の上から聞こえる。
とにかく凄まじい音で、第1層まで聞こえてるのではないかと思う程だった。
音が響く中、スケルトンの軍団が城の中に引き上げていく。
ヴァルトと、今や【剣師】と呼ばれている元『円卓』メンバーも、軍団の陰に隠れながら、城の中へと入っていった。
残ったダイムシャットは僕たちを睨んだ後、「チッ」と舌打ちする。
黒のマントを翻して、城の中に戻っていく。
「終わったんですか?」
「ああ。戦いの時間は終わりだ」
制限時間があるとは聞いていたけど、すっかり忘れていた。
気が付けば、第9層の空は僕が見た無の層の色になりつつある。
「僕たち、勝ったんですか? 負けたんですか?」
「それは人それぞれが決めること――――ユーリ君」
視界が歪む。ホッとした瞬間、僕に襲いかかってきたのは猛烈な頭痛だった。
手から短剣がこぼれ、立っていられなくなる。
目の前が真っ暗になり、思考が強制的にシャットダウンしようとしていた。
典型的な魔力酔いだ。
父さんの封印が解かれ、じゃんじゃん魔力を使ったツケが来たらしい。
それでもアストリアの声が聞こえる。
僕の名前を必死に呼んでいた。
勝ったか、負けたかわからなけど……。
アストリアがヴァルトみたいな奴の元にいかなくて良かった。
それが僕にとって、何よりの勝利だった。
◆◇◆◇◆
外の喧騒が聞こえて、僕は目を覚ました。
そういえば、第9層は4つの日が繰り返すんだった。
『戦争日』の次となると、元に戻って『休息日』か。
なるほど。外が騒がしいわけだ。
少し頭が重いけど、頭痛は止んでいる。
魔力酔いは適切な処置をしないと、死に直結する。
おそらくアストリアか、ノクスさんが処置してくれたのだろう。
(……いや、ノクスさんはもう)
『戦争日』では色んなことがあった。
聖剣オルディナによる無の層からの光撃。その破壊作戦。
剣帝ヴァルトとも戦い、さらに『円卓』メンバーのアラムによる再生の能力。こうして並び立てるだけで、頭が痛くなるほど色んな経験をした。
それでもやはり思い出してしまうのは、閃光の中に消えていったノクスさんの姿だった。
当然悔しかった。
自分に力があればと思う。
「なんだ。ユーリ、泣いてんのか?」
不意に男の声が聞こえた。
懐かしい声だった。
「そうか。そんなに俺と会えて嬉しいのか。そうだよなあ。わかるぞ」
「だ、黙ってくださいよ」
そうだ。人が感傷に浸っているのに……。
ちょっと泣くぐらい構わないじゃないか。
僕だって人間だ。単なる鍵師なのに……。
って……。
「はっ?」
濡れた瞼を持ち上げ、僕はそっと横を見る。
特徴的な草色の髪。顎の無精髭は濃く、チクチクと痛そうだ。
人懐っこい顔はさらに緩んでいて、もはや馬鹿にされているような気がした。
「ノクスさん?」
「よっ! ユーリ。1日ぶりだな」
「僕、まだ夢を見てるんですか? それともここは天国?」
「天国? お前、まだ寝ぼけ――――あっ! その反応。さてはまだアストリアの嬢ちゃんに説明してもらってないな」
「説明って?」
パチパチと目を瞬かせる。
そんな僕の手を、ノクスさんは自ら腕を差し出し握る。
死人にしても冷たくなく、温かい。
何よりその感触は夢でもなんでもないことを証明していた。
「俺はアンブレイキングス――つまり不死者なんだよ」
「え?」
不死者?
「正確にはな」
ノクスさんは宿の窓を開ける。
ワッと街の喧騒が飛び込んでくる。
よくよく考えたらおかしいことだと気づく。
戦争日。聖剣オルディナの光撃に巻き込まれたのは、ノクスさんだけじゃない。
この街にいる全員だ。
なのに――――。
「わかったか。お前とアストリアの嬢ちゃんを除く、この街の……いや――――」
『剣墓層』で活動する者すべてが不死者なんだよ。







