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第131話 我が美しき花嫁

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★


シーモア様限定で配信中。

最新話12話、13話が更新されました。

ぜひ読んでくださいね。


挿絵(By みてみん)

 我の名は剣帝ヴァルト……。第9層の主である!



 名乗りが戦場に轟く。

 しかし、その名乗り以上に驚かせたのは、ヴァルトの存在感だ。


 見上げるほどの長身の体躯。

 黒鉄の肌。およそその鍛え抜かれた身体は、一般的な鍛錬では追いつかないぐらい絞り込まれている。

 実際、彼の装備と言えば、分厚い兜と鉄製のビラがついた腰蓑ぐらいだ。

 それだけで、ヴァルトの身体が全身凶器であることが窺える。


 猛禽のような深紅の瞳に、口幅の広い唇。

 どこか人間というよりは、動物や昆虫じみた印象がある。


 何より圧倒されるのは、漆黒の大剣だ。

 ヴァルトと比べて大きく、まるでバランスが取れていない。

 まるで溶岩からそのまま削り出したような代物で、刃面こそ鋭利であるものの、あれでは斬るのは難しいだろう。


 一見すると、大柄な奴隷剣闘士に近い。


(なのになんだろう? この常に頭を押さえ付けられているような感覚は……)


 恐怖とも、畏怖とも違う。

 まだ戦ってもいないのに、もう何か命を差し出し、許しを請うてるような……。

 どんなに己を奮い立たせても、敗北するイメージしか浮かばない。


 勝てるのだろうか。


 僕はこれに……。


「おいおい。戦場で止まるなんてどういう料簡だ」


 気が付けば、その圧倒的な気配が街の軍勢の真ん中に立っていた。

 僕と同じく戦士たちはハッと顔を上げる。

 剣帝ヴァルトが重そうな大剣に力を込めたのを見て、戦士たちは一斉に斬りかかった。


「おせえよ」


 パッと鮮血が散った。

 何百という人間の頭が、一瞬にして胴体から離れて行くのを目撃する。

 勢いよく噴き出した血は、中心にいた剣帝ヴァルトを濡らす。

 ヴァルトはその血をペロリとなめた。


 そしてまた戦場から消える。

 次に立っていたのは、城とは反対方向だ。

 まるで退路を断つように戦士たちを待ち構える。

 同時に剣を構えた。


 それを見て、戦士たちはおののく。


「まだ止まってやがるな。女神様のパンティーでも見えるのか?」


 ハッと笑うと、剣帝ヴァルトは漆黒の大剣を力任せに払った。


「全体――――」



 【閉めろ(ロック)】!!



 黄金色に魔力が戦場全体に広がる。

 僕は戦士たちの身体を固定した。

 次の瞬間、ガキィンと剣帝ヴァルトの大剣が弾かれる。


「なんだ?」


 最初わからなかったらしい。

 ヴァルトは何度も剣を振り、そこかしこにいた戦士を傷付けた。

 だが、返ってくるのは硬質な音だけだ。


「我の剣が通らないだと」


 剣帝ヴァルトは一旦斬るのをやめて、辺りを窺う。

 狼が獲物の匂いを探し求めるように鼻を動かす。

 そして、黒鉄の巨躯が僕の方を向いた。


「お前か……」


 深紅の目をカッと開く。

 地面を軽く蹴った次には、もう僕の前に立っていた。

 同時に大剣を振り上げる。


「お前か!!」


「全身――――」



 【閉めろ(ロック)】!!



 咄嗟に僕は、全身を鍵魔法で固定する。

 次にやってきたのは、重く、腹にまで響くような衝撃と音だった。

 斬られることはなかったが、衝撃は内蔵を通って身体の中を駆け抜けていく。

 刹那、視界が歪む。身体が酔ったように力が入らなくなった。


 それでも僕は1度閉めた【閉めろ(ロック)】を緩めたりしない。

 いや、一瞬でも緩めれば、僕の身体は真っ二つになっていただろう。


「なんだ? 貴様は?」


 剣帝ヴァルトは笑う。

 まるでお気に入りの玩具でも見つけたみたいにだ。


 風を切り、蛇のように腕をしならせながら僕を切り裂く。

 幸い僕の鍵魔法は完璧。父さんがかけた封印を解いたせいか、【閉めろ(ロック)】の固定も強くなっている気がする。


 自分の斬撃をすべて弾かれても、ヴァルトは止めなかった。

 大剣の耐久度などお構いなく、僕を鞭打つように切り裂く。

 驚くのは、ヴァルトの腕だ。

 あんなに重い大剣を、自在に動かし、しかも片腕で僕を切り裂いている。


 いつの間にか戦場は静まり返っていた。

 聞こえるのは、ヴァルトが僕を切り裂こうとする音だけだ。


 一瞬の気の緩みも許されない。

 隙を見て、反撃しようという気さえ起こらなかった。

 斬撃の雨ではない。もはや滝だ。


「ン~~❤ ン~~❤ くははははは!! 面白いな、お前!! 我の斬撃をこれほど受けて、耐え抜いたのは初めてだ。ならば――――」


 ヴァルトはついに大剣を両手で持つ。

 足を広げ、大上段に大剣を構えた。


「これなら保つかな?」


 ヴァルトは振り下ろす。


 ギィィイイインンンン!!


 今まで聞いた事のない硬い音が響いた。


「ほう……」


 ヴァルトの表情は少し変わる。

 深紅の目は僕を舐めるように捉えた。


「強化系の魔法とは違うな。かといって地属性の魔法でもない。……【閉めろ(ロック)】と唱えたか。ふふふ……。アハハハハ……。まさか鍵魔法か。面白い」


 ヴァルトは僕の魔法を見抜く。

 思えば、鍵魔法をこうして見抜いた相手は初めてだ。


 すると、ヒュンと風を切り、空から何かが落ちてくる。

 続いて重たい音を立てて、大きな刃が赤い地面に突き刺さった。

 ヴァルトは愉快げに笑ったまま、柄だけになった大剣を捨てる。


「鍵魔法で己の身体を固定するとはな。そんな奴、我が知る限り2人目だ」


(2人目?)


 僕の他にも鍵魔法の使い手がいる?

 誰だろう。父さん? まさか……。

 父さんはずっと宮廷鍵師として働いていた。


 母さんは冒険者だって聞いたけど、父さんはそうではないはず。

 それも第9層なんて未踏破層に来るなんてあり得ない。


「ン~~? 興味を引いたか? 身体を固定されていても、我にはわかるぞ。そしてわかっている。お前が次に考えていることを……。お前はあくまで余の気を引く道化なのであろう。本命は――――」


 ヴァルトは振り返る。

 同時に青い光が炎のように戦場で伸び上がった。

 その輝きに照らされながら、ヴァルトは笑う。


「ン~~❤ なんと美しい……」



 【風砕(エア)螺旋剣(リーズ)】!!



 アストリアの声が響く。

 直後、その必殺剣は放たれた。

 高熱を帯びた圧縮された大気は赤い大地を滑り、そして青く照らす。

 真っ直ぐ戦場の真ん中で、僕を嬲っていたヴァルトに向かって行った。


 もはや一瞬だった。

 ヴァルトは回避もできずに、その高熱に包まれる。


 直撃だ。


 オルディナの光撃も、ヴァルトの斬撃も恐ろしい攻撃だった。

 だが、側で見たアストリアの【風砕(エア)螺旋剣(リーズ)】もまた、それらに恥じない攻撃力を持っている。

 自分でも何故彼女の攻撃に、覚醒前の僕が耐え切れたのかわからなかった。


 光が収縮していく。

 ゴゴゴゴ、と第9層の空気は震えていた。

 青く染まった大地は、また赤く、元の色に戻っていく。


 天地の色すら変えてしまう一撃……。


 しかし、ヴァルトは立っていた。

 直撃したのは間違いない。

 実際、黒鉄の肌には煤け、一部は赤くなっている。

 それでもその表情は子どものように笑っていた。


(嘘だろ……)


 愕然とした。

 実際、全身固定をしていなかったら、膝から崩れていたかもしれない。

 勝ちを確信した一撃だったはず。


 それがほぼ無傷なんて。


(ここまで強いのか。剣帝ヴァルトは……)


 ヴァルトはアストリアの方に身体を向ける。

 アストリアは構えたが、次に僕が視界に収めた時には、ヴァルトは彼女の横に立っていた。

 手を伸ばし、乱暴に彼女の首を持ち上げる。

 気道を抑えられ、呼吸ができなくなったアストリアはなすがままだ。


「久しいな、アストリア。いや――――」



 我が美しき花嫁よ……。


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