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第128話 打ち上げ花火作戦??

昨日、『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される~封印していた魔王が暴れ出したみたいだけど、S級冒険者とダンジョン制覇するのでもう遅いです~』分冊版の10話と11話更新されました。


シーモア先行で読むことができますので、よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)


「はあああああああああ!! 風魔法で自分の身体を吹っ飛ばす!!」


 風の聖霊ラナンは僕の案を聞き終えて叫んだ。

 他の戦士たちも呆然としている。

 同じく聞いていたアストリアも、目を丸めていた。


 僕の作戦はこうだ。


 残っている戦士の中から風の魔法を使える人を募る。

 彼らにお願いし、風の魔法で空に打ち出してもらうというものだ。


 でも、これはまだ作戦の第1段階に過ぎない。


 第2段階として、僕はアストリアと一緒に打ち上がる。

 2人とも鍵魔法で【閉めろ(ロック)】している状態だ。

 だから、風魔法を受けても無傷で空に上ることができる。


 ここでアストリアだけ【閉めろ(ロック)】を解く。

 2弾目として、アストリアとラナンに無の層まで打ち出してもらうのだ。


「名付けて…………打ち上げ二弾花火作戦?」


「何が二弾花火作戦よ」


「悪くないネーミングだな」


「ええ! うそ! ダサダサでしょ!! アストリア、大丈夫?」


 満足げなアストリアを見て、ラナンは慌てる。


「な、名前のことはいいよ。ど、どうかな?」


 僕が質問すると、途端に黙ってしまった。


 なんとも言えない空気に、僕は「ごめんなさい」と頭を下げたくなった。


 でも、一見無茶でもこの方法しかない。

 他にもあるのかもしれないけれど、短時間ではこういう作戦しか考えられなかった。

 無茶なのは承知の上だ。


 それでも、僕は諦めたくない。


「あたしは賛成するわ。できるかできないかはわからないけど、これしかないんじゃない。それにムカつくのよね。上から見下されているように思えて」


 ラナンは今も光撃を続ける聖剣オルディナを睨む。


「俺らもいいぜ」

「ああ。あの厄介な奴がいなくなるなら願ったり叶ったり」

「でっかい花火を上げてやろうじゃないか」


 戦士たちは笑う。


 そして最後に、みんなの視線が向かったのはアストリアだった。


「アストリア……」


「やろう」



 我々で聖剣オルディナを破壊する……。



 ◆◇◆◇◆



 こうして打上第二花火作戦は始まった。

 とはいえ、時間はあまりない。

 アストリア曰く、第9層には8つの街があるそうだ。

 それぞれが戦力を保持し、群勢となって城を攻めようとしているらしい。


 すでに5つの街の戦士たちが全滅した。

 残っているのは、僕のいる街の人々を含めて3つの群勢しかいない。

 おそらくその2つが全滅すれば、全力をもって聖剣オルディナは僕たちを攻撃してくる。

 それまでに作戦を開始しなければならない。


「おーい! 風魔法を使える奴を連れてきた」


 全部で100人弱。

 思っていたよりも多い。

 その姿を見て、ラナンは「まあまあね」と評価したことからも、それなりの魔法を使える人たちなのだろう。

 1弾目の出力が大きければ、無の層に到達できる確率は高くなる。


 打上第二花火作戦は早速始まった。


「まずはあんたたちに加護を与えるわ」


 ラナンは率先して、集まった100人の術者たちに風の加護を与える。

 聖霊の加護に、術者たちは色めき立つ。

 続いて、魔力を込めるため深く集中した。


 僕とアストリアはラナンが引いた風の魔方陣の上に乗る。

 ここに風の魔法をぶつけ、さらにラナンの力で増幅し、僕たちを天高く打ち出すのだ。


「2人とも、もっと近寄って」


 ラナンから指示が出る。

 僕が立てた作戦なのに、いつの間にかラナンに現場監督ポジションを奪われていた。

 人前に姿を現してからはやりたい放題だ。

 意外と出たがりなのかもしれない。


 僕とアストリアは1歩近寄る。

 しかし、現場監督ラナンから許しは得られなかった。


「もっとよ。もっと!」


 もう1歩踏み出す。

 すぐ前にアストリアがいる。


 あまり今こういうのも不謹慎だけど、アストリアって結構胸が大きい。

 今、それは硬いブレストアーマーの下に収まっているけど、それでも触るのは憚られた。

 僕は仰け反るような形で立っていると、ラナンが僕の頭を叩く。


「あんた何をやってんのよ。もっと密着しなさい」


「み、密着?」


「抱き合えって言ってるの!」


「だだだだ、抱き合う!!」


 思わずアストリアを見つめた。

 目が揺れている。耳もほんのりピンクになっていた。


 い、いいのかな。


 別に初めてってわけじゃない。

 ただ改めて言われると……。


「役得だと思いなさいよ」


 ラナンは僕の背中を叩く。

 つんのめると、自然と手が動き、僕は彼女を抱きしめていた。

 ごめん、と反射的に離れようとしたが、そっと今度はアストリアから腕を伸ばし、僕の腰を支えた。


「あ、アストリア……?」


「作戦のためだ。他意はない。そうだろ?」


「う、うん」


 けれど、やっぱりドキドキする。

 鎧越しだけど、どうしてもアストリアを感じてしまう。

 腰の華奢さ。引き締まった筋肉。懐かしい森の香り……。


 すごくホッとする自分がいる。

 同時に改めて思う。


 やはり僕はアストリアが好きなんだ、ということ……。


「カウントするわよ」


 ラナンが手を広げる。

 カウントごとに、その指は1本ずつ折り畳まれていった。


「3、2、1……」



 発射!!



 術者たちが一斉に魔方陣に向かって風の魔法をぶつける。

 その風はさらにラナンが描いた魔方陣によって何倍もの威力に増幅する。

 魔力が溜まり、その力の解放を感じながら、僕は叫んだ。


「全身――――」



 【閉めろ(ロック)】!



 次の瞬間、収束した大気は真っ直ぐ空に向かって撃ち放たれた。

 同時に僕たちも空へ向かって飛び出す。

 速い! みるみる景色が変わっていく。

 気が付けば、僕たちは雲を貫通し、第9層の赤い空に現れる。


 雲以外何一つ見えない光景に、唖然とする。

 すでに足元にあるはずの大地は見えず、微かに赤い荒野の色が見えるだけだった。

 こんなことでもなければ、一生見られない光景だ。


 けれど聖剣オルディナまでの距離はまだある。

 輪郭ぐらいは見えるかと思ったけど、まだ星の明るさとさほど変わらない。


 速度が落ちてきたので、僕はいったん鍵魔法を解く。


「すごい……」


「感心してる場合じゃないわよ。思ったより高度が取れてないわ」


 ラナンがアストリアの身体の中から現れて言う。


「だ、大丈夫」


「大丈夫じゃないけど、予定通りよ」


「ラナンが風魔法で飛ばしてくれるらしい」


「私たちはエドマンジュから離れると、どうしても力が減衰するのよ。……ああ。そうだ。心配しなくても、アストリアには1発撃たれるぐらい力は残しておくから……。というわけで――――」



 あとは2人でごゆっくり……!!



 ラナンは風魔法を放つ。

 その風は優しかったけど、下降気味だった速度が復活する。

 ぐんぐんと再び高度が上昇する。

 次第に周りの景色が変わってきた。

 絵の具を加えたように赤い空に、黒色が混じり出す。


(不思議だ。太陽がいつの間にか消えてる)


 まだ夜でもないのに、その暗さがやってこようとしていた。


「君は勇敢だな」


 突然、アストリアが言った。


「こんな作戦、考えもしなかった」


「褒めるような作戦じゃないです。この作戦には無茶しかないはず」


「それでも君は実行しようとしただろう。たとえ私が反対したとしても」


「それは――――」


「それだけじゃない。君は多くの人を守ろうといつも考える。たぶん英雄とは、君のようなことを言うのだろうね」


「僕が英雄……」


「そうだ。それに比べて私は臆病だ。仲間のことしか考えられない」


「そうでしょうか」


「え?」


「僕に『円卓(アヴァロン)』の救助を依頼した人は、とても苦労していました。そりゃそうです。未踏階層の第9層まで潜った冒険者なんて誰も助けたがらないでしょう。ギルドだって、違うパーティーで再起しては、と提案していました。実際、誘われているのを見たことあります」



 でも、彼女は決して首を縦に振らなかった。



「懸命に『円卓(アヴァロン)』のメンバーが生きていることを訴え、仲間の助けに行くと意見を曲げなかった……。それと比べたら、僕の無茶なんて些細なことに思えるんです」


 そうだ。


 冒険者でもない宮廷鍵師の手を引き、アストリアは第9層へ行き、『円卓(アヴァロン)』を救出すると、みんなの前で豪語した。


 その勇敢さに比べれば、僕がやっていることなんてちっぽけなものだ。


「その者の名前は?」


「すみません。教えられません。……でも、アストリアはわかってると思います。英雄の定義を……」


「英雄の……、定義…………」


 アストリアはぽつりと呟く。


「アストリアもなれますよ」


 だってもう……。

 あなたはみんなの英雄なんだから。


「そろそろだな。無の層の対策あるんだな」


「はい。勿論です」


「わかった。……君を信じよう(ヽヽヽヽヽヽ)ユーリ(ヽヽヽ)


「アストリア……。今――――」


 アストリアから手を離す。


 僕は無の層へ。


 アストリアは下降していく。

 その手には、聖剣エアリーズが握られていた。


 僕は全身を【閉めろ(ロック)】する。


 顔を上げると、暴風が見えた。

 アストリアの聖剣エアリーズに濃い大気の塊が渦を巻いていた。

 本来なら青く光るほどの熱を伴うのだけど、出力を絞っているらしい。


「行くぞ……」


「はい!」


 空中でアストリアはゆっくりと構えながら、暴風を纏う聖剣を振り下ろした。



 【風砕(エア)螺旋剣(リーズ)】!!



 渦を巻いた風が僕に迫ると、あっという間に飲み込まれた。

 引き裂かれるような暴風の中で、身体を固定した僕は何もできない。

 はっきり言って怖い。いつこの渦から弾き出されるかわからないからだ。

 でも、今はこの風を信じるしかない。


 黒い空が迫ってくる。

 風の渦に揉まれながら、僕はあるものを目の端に捉えていた。


 もうそれは光点なんかではない。

 聖剣オルディナの姿が、はっきりと見えていた。


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