第125話 鍵師、覚醒(前編)
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
先行配信しているシーモアにて、
『宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される』単話版第8話、第9話が更新されました。
週末の娯楽にぜひ読んでくださいね。
第9層に来てから少し不思議に思っていた。
地層世界エドマンジュは、層の数字が高ければ高いほど、濃い魔力が立ちこめている。
そのため第1層では再現できない大規模魔法が使える。
それは単純に出力される魔力量が、層そのものに満ちていないからだ。
翻せば層の数字が高ければ、冒険者は強くなる。
もちろん、その分魔獣や層固有の種族も強くなるのだけど。
アストリアの【風砕・螺旋剣】の威力は顕著だ。
第1層ではホブゴブリンを倒すのがやっとだった。
けれど、今その威力は地形そのものを変えかねない。
……では、僕はどうだ?
確かに僕は宮廷鍵師だ。
鍵魔法という特殊な魔法しか使えない。
魔力が強くなったからといって、鍵魔法自体の魔力使用限界を超えて、使用することはない。
ダイムシャットとの戦いで、少しその恩恵を感じたことはあったけど、やはり目に見えて劇的とまではいかない。
それが僕の――いや、鍵魔法、鍵師の限界なのかと思っていた。
けれど、僕は思いだした。
あの時の父さんとの思い出を……。
その時交わした父さんとの誓いを……。
本当に、お前はどうしても守りたい人ができた時に使うんだ。
「父さん、使わせてもらいます」
鍵師よ、開け……!!
頭の中にかかっていた僕の鎖のようなものが外れた気がした。
瞬間、足や手、頭、肌を通して、魔力が上ってくる。
雷撃のように身体の中で何周も巡ると、満ち満ちていくのがわかった。
(やはり父さんは天才だ)
僕の魔力が暴走しないように、使用できる魔力を制御していた。
自分の鍵魔法を使って……。
何よりこの力はこう言っているように感じた。
『鍵魔法には無限の可能性がある……』
諦めない。
鍵師としては、魔法を使う者として、一職人として……。
僕は救ってみせる!
「ダンジョン――――」
【閉めろ】!!
僕は両手で地面を叩いた。
身体の中に充満した魔力を、鍵魔法として変換して解き放つ。
魔力が光の速さで走り、そして黄金色に光る。
気がつくと、ダンジョンは黄金色の城のように輝いていた。
「な、なんじゃこりゃ!!」
「これが……。ユーリ君の――――」
ノクスさんと、アストリアは呆然とする。
その中で【風砕・螺旋剣】の青い光跡が進んだ。
ダンジョンの外壁に着弾する。
爆発と衝撃がダンジョン内の空気を揺らす。
しかし、黄金色に光るダンジョンはまったくの無傷だった。
やがて収束した青い光は消え、ダンジョンの輝きも消失する。
まるで夜が訪れるように暗い中層のダンジョンの姿が露わになった。
「やった……」
派手に喜ぶことなく、ノクスさんは腰が抜けたようにその場に座った。
続いてアストリアも聖剣を突き立て、屈む。
「やったな、ユーリ。凄いぜ、お前。まさかダンジョンそのものを固定しちゃうなんてな」
「ああ。私もノクスに賛成だ。すごいよ、君は」
「僕だけの力じゃないですよ」
ノクスさんの防御力と忍耐力。
アストリアの圧倒的な攻撃力。
そして僕の鍵魔法。
何かが1つでもなくて、また掛け違えていれば、この勝利はなかっただろう。
これは僕たちの勝利だ。
「おーい。ノクス!」
手を振って近づいてきたのは、冒険者だ。
どうやら、そのうちの1人はノクスさんと顔見知りらしい。
「やっと後続が来やがった。あいつら、ビックリするぞ。……俺たちだけで、ヒュドラ・マキシマを倒したなんてな。なあ、ユーリ」
ノクスさんが振り返る。
すると、アストリアは「しー」と口元に指を立てた。
その時、ノクスさんの声が僕には聞こえていなかった。
急激な睡魔に襲われ、戦場だった場所で寝息をかいて寝ていたからだ。
「よっぽど疲れたのだろう」
「だな。……それにしても、随分と幸せそうな顔だな。さっきまで生きるか死ぬかだってのによ」
「ああ。まったくだ」
「あれだな。枕がいいんだろうな」
ノクスさんはくすりと笑い、その場を後にする。
寝ている僕は知らなかった。
僕が頭を置いている枕のことを……。
ただとても気持ち良くて、いい匂いがした。
「お疲れ様、ユーリ君。君は勇敢で、そして何よりかっこ良かった」
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