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第124話 父さんの話

☆★☆★ 昨日コミカライズ更新 ☆★☆★


シーモア様にて先行配信しておりますコミカライズ(単話版)が、昨日更新されました。未読の方はぜひ読んでください。週末の娯楽によろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

 僕が3歳の頃だ。

 他人の家の壁に大穴を開けてしまった。

 その頃の僕は、宮廷鍵師という職業がどういうものか知らず、父さんの部屋に忍び込んでは魔導書を自分なりに解釈して、こっそり魔法の練習をしていた。


 ただ僕はまだ3歳だ。

 鍵魔法は他の魔法と比べれば、構造も呪文も簡単とはいえ、できるはずもない。

 父さんも母さんもたぶんそう考えていたのだろう。

 こっそり忍び込んだことを強く咎めることはなかった。


 小さいなりに理由もあった。

 仕事が忙しくて、なかなか家にいない父さんの手伝いをしたかったのだ。


 そんな時に事件は起きた。

 突如、街中にできた大穴に通りを歩く人々は絶句する。

 横で友達がビービーと泣いていた。


 みんなの視線を見て、僕はその時ようやく自分がやったことの重大性を知る。


「魔女だ……」


 まるで「人殺しだ」という同じ調子で聞こえた声に、たまらず僕も泣きそうになった。

 みんなが冷たい視線を送るなら、1人近寄ってくる人がいる。

 なんと父さんだった。


 いつも夜遅く帰ってくる父さんが、昼間の王都の中心に現れたのだ。


「父さん……」


 ヒーローの登場にホッとしたのか。

 僕の目から堰が切れたように涙がこぼれる。

 父さんはそっと優しく僕を抱きしめた。

 その父さんの顔は、とても悲しげだ。


「ユーリ……」


「あのね。あのね。おじさん。ユーリは悪くないんだよ」


 近くで泣いていた友達が突然立ち上がった父さんに言った。

 元々は友達が犬に襲われているところ、助けようとしたのが発端だった。

 無我夢中で鍵魔法を使い、気が付けば家に大穴を開けていた。


 その犬は少し距離を取り、木の陰に隠れて申し訳なさそうに伏せていた。

 父さんは犬の表情を見るなり、笑う。

 僕の肩をポンと叩くと、こう言った。


「ユーリ、よくやった」


 その言葉でどれほどの不安が打ち消されただろう。

 これも父さんの魔法なのかもしれない。その時、僕は本気でそう思っていた。


 父さんは僕の頭に手を置く。

 何やら魔法を唱えていた。

 すると、父さんはすぐに笑顔になった。


「ユーリ、魔法は人を守るための力だ」


「うん」


「お前にどうしても守りたいものができた時、こう言うんだ」


 父さんが教えたのは、とても短い鍵魔法の呪文だった。


「それだけ……」


「ただし。この鍵魔法は特別だ。本当に、お前はどうしても守りたい人ができた時に使うんだ」


「わかった」


 僕の返事に満足したのか。

 父さんは僕の頭を撫でる。

 すると、自分の家に戻らず、また王宮へと戻っていってしまった。



 ◆◇◆◇◆



 作戦の概要はさほど難しいことじゃない。

 アストリアに全力で【風砕(エア)螺旋剣(リーズ)】を撃ってもらう。

 だが、あの魔法には一定時間の溜めが必要だ。

 アストリア曰く、20秒が必要らしい。


「その間、俺とユーリで嬢ちゃんを守るって感じだな」


「いえ。ノクスさん、1人でお願いできますか?」


「なぬ?」


「この方法は僕も初めてです。はっきり言いますが、何が起こるか(ヽヽヽヽヽヽ)僕にすらわか(ヽヽヽヽヽヽ)りません(ヽヽヽヽ)


「おいおい。大丈夫なのかよ、それ」


「待て! 来るぞ!!」


 忘れてはいけない。

 すでに僕たちはボイヤットさんの影と、ユニークモンスターのヒュドラ・マキシマに囲まれていること……。


 僕は顔を上げる。

 赤い炎が雨のように落ちてくるのが見えた。


 反射的に【全身固定】を使おうとしたけど、その炎をすべて切り払った人がいる。

 ノクスさんだ。銀剣を扇のように振り、炎を吸収する。

 さらにボイヤットさんの影に向かって、魔法を反射した。

 影はあっさり消滅する。


「どうやら、魔法攻撃が通じないってわけじゃないみたいだ」


 多分、第1層でサリアの扉から噴き出した黒い塊みたいなものだろう。

 考えてみれば、ヒュドラ・マキシアの魔力はサリアに匹敵するほどの力を持っている。

 僕たちは今、魔王と戦っているのも同然なのだ。


「これならいけるかもな。後はお前次第だ、ユーリ」


「はい。任せてください」


「ユーリくん」


 アストリアが僕の腕を掴む。

 強く引っ張ると、僕の顔を自分の顔に近づけた。


 思わず心臓が鳴る。

 戦場でのアストリアの表情は苛烈で険しい。

 でも、それでも凜々しかった。一瞬、惚けてしまうほどに。


「心の奥底では君のことを信用できていない、私は。すまない」


「謝ることじゃ……」


「だが、私は君の企みが失敗しようとしないであろうと、【風砕(エア)螺旋剣(リーズ)】を撃つつもりだ」


「アストリア……」


「君を信用できていない私が言うのもなんだが……。君にこの戦場での勝敗を委ねる」



 勝とう……、ユーリ君。



 過去でも、未来でもアストリアはアストリアだ。

 気高く、そして美しい。

 今ここにいるのは過去のアストリアだとしても、僕の思いは変わらない。


「はい。勝ちましょう」


 僕は短剣を構え、そしてアストリアは聖剣エアリーズを構える。

 同時に魔力を練る。途端、第9層の濃い魔力が喉の奥へと入っていく。

 身体の中に魔力が満ちていくのがわかる。


 精神を集中しながら、風が頬を撫でる。

 アストリアだ。第9層の大気、魔力がアストリアにも集まっていくのを感じる。

 凄まじい……。聖剣エアリーズに宿る魔力が解き放たれれば、ヒュドラ・マキシマは間違いなく消し飛ぶだろう。


 やっぱりアストリアは凄い……。

 改めて自分が組んでいたパーティーの強さに驚かされる。


 シュゴッッッッッッ!!


 空気を裂くような音が聞こえた瞬間、雷鳴に似た音がすぐ側で轟いた。

 七色の光の前に、ノクスさんが立っている。

 ヒュドラ・マキシマのブレスだ。

 ノクスさんは歯を食いしばって、僕たちの前で受け止めていた。


 銀剣が溶けかかっている。

 ノクスさんの顔が赤くなっていた。


「アストリア!」


 ノクスさんは叫ぶ。

 20秒が遠い。こんなに長い20秒は初めてだ。

 もうここまで来れば、ノクスさんの忍耐にかけるしかない。

 ブレスで消滅するか、ダンジョンが崩れて圧死するか、あるいは、勝利するか。


「ノクス!!」


 アストリアの声が響く。

 「どけ」とも「待たせたな」とも声をかけない。

 ただ一言「ノクス」という言葉だけで、ノクスさんは理解したらしい。


 互いに目でタイミングを見計らう。

 次の瞬間、ノクスさんはブレスの射線上から退避した。

 ほぼ同時に放たれたのは、膨大な大気が集まり超圧縮された青き光の剣だった。



 【風砕(エア)螺旋剣(リーズ)】!!



 ついにアストリアの必殺剣が放たれる。

 高熱、暴風を伴った一撃は、周囲の瓦礫とボイヤットさんを巻き込みつつ、ヒュドラ・マキシマのブレスを飲み込む。

 青い光はさらに進み続け、ついにヒュドラ・マキシマを捉えた。

 通常武器ではとても歯が立たない硬い竜鱗をものともしないで、【風砕(エア)螺旋剣(リーズ)】は巨躯を溶かし尽くす。


 ここで僕たちの引き分け以上が決まる。

 しかし、ヒュドラ・マキシマ――いや、その頭に浮かんだボイヤットは笑っていた。

 まさしくしてやったり(ヽヽヽヽヽヽ)とばかりに……。


 まるでアストリアに【風砕(エア)螺旋剣(リーズ)】を撃たせることそのものが、目的だったかのようだった。


 ヒュドラ・マキシマを飲み込んだ【風砕(エア)螺旋剣(リーズ)】は、そのままダンジョンの壁に向かって直進を続ける。

 そのまま直撃すれば、ダンジョンの外壁を抉り、その衝撃は岩盤を破壊するだろう。


 だけど、僕がさせない。

 僕には果たしたい約束があって、帰り待っている家族がいて、守りたい大切な人がいる。


「こんな地の底で終わるわけにはいかないんだ……」


 父さん、今こそあの呪文を使わせてもらいます。


鍵師よ(アン)――――」



 【開け(ロック)】!!


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