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第123話 諦めたらダメだ!

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★


先行配信しているシーモア様にて、

単話版第8話、第9話が配信開始されました。

馬鹿息子(笑)が痛い目……げふんげふん、活躍してるので、ぜひ読んでくださいw


挿絵(By みてみん)

「ご、ごり押しじゃないですか!!」


 ヒュドラ・マキシマの倒し方を聞いて、思わず叫んでしまった。


 あんな大きな魔獣を消し飛ばすぐらいのことなら誰でも思い付く。

 というか、僕だってそれぐらいは考えていたんだ。

 だけど、それは無理だ。


 何故なら、ここはダンジョン……。


 仮に大出力の魔法を撃てば、崩落の可能性がある。


 しかも、すでにヒュドラ・マキシマが中層のあちこちにブレスを放ったおかげで、間違いなく地盤に緩みが出ているはず。そんな中で大出力魔法を撃てば、僕たちが生き埋めになるだけだ。


「確か英雄譚では、お前たちは爆薬を使ったと記憶してるが」


 どうやらアストリアもノクスさんの英雄譚を知っているらしい。


「だから、なんでお前らはそんなに詳しいんだよ。ああ。そうだよ。俺が銀剣でブレスを防ぎまくりながら、奴を誘導し、特大の爆薬で奴を吹き飛ばしたんだ」


 確か火の聖霊イラの加護も受けたと英雄譚にはあったけど。


「だが、ここにはあいつを吹き飛ばせるぐらいの爆薬はない。あっても、最初に言ったとおり、ここはダンジョンだ。大出力魔法と同じ結果になるぞ」


 やはりヒュドラ・マキシマを外に誘い出すしかない。

 でも、どうやって……? 餌で釣るとか……? 

 そんなマヌケな魔獣とは思えないけど。

 そもそも上にはたくさんの冒険者がいる。

 もっと多くの被害が……。


「あっ……」


 その時、僕はある重大なことに気づいた。


「ノクスさん、僕たちが中層に入って今、何分ですか?」


「おそらく20分は経ってると思うが……。そうか。冒険者か!」


「はい!」


 もうすぐ中層に下りる階段が解放される。

 冒険者たちがなだれ込んでくるはずだ。


「まずい。あの中に、あのブレスに対応できる冒険者なんていないぞ」


「早く仕留めないと被害が出てしまいます」


「仕留めるといってもな」


 ノクスさんはガリガリと頭を掻いた。


「ユーリ君、君ならあいつを止めることができるんじゃないか?」


「いや、それはやめておいた方がいい」


 アストリアの提案を聞いて、ノクスさんは首を振る。


「あいつの状態異常耐性は特別だ。俺もいろんな方法を試したが、結局最後はごり押しでしか倒せなかった」


 万能のように見えるけど、僕の鍵魔法には弱点がある。

 状態異常に強い種類、または対応する魔導具の加護を持っている相手には通じないということだ。以前、ホブゴブリンと戦った時も、偶然飲み込んでしまった魔導具のおかげで、僕とアストリアは苦戦を強いられることになった。


 ノクスさんの言うことが本当なら、全身を固定することは難しくなる。


「どの道……。あいつに近づくのは――――誰だ!?」


 ノクスさんは振り返る。

 僕とアストリアも反射的に武器を握った。


 人が立っていた。

 いや、人のシルエット――影というべきだろうか。

 とにかく全身が真っ黒で、異様というより他ない。

 ただそのシルエットには、見覚えがあった。


「まさかボイヤットさん……」


 やや小柄でふくよかな体型。

 頭に如何にも魔法使いといった帽子を被ったシルエットは、まさしくボイヤットさんに相違ない。

 違うところがあるとすれば、まるで生気を感じないところだろう。


 ボイヤットさんのシルエットが笑う。

 口を開けて、ニッと口角を上げた。


「見つけた」




「見つけた」



「見つけた」


「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」「見つけた」「見つけた」「見つけた」

「見つけた」「見つけた」「見つけた」「見つけた」「見つけた」「見つけた」


「見つけた!」


 次々とボイヤットさんのシルエットが現れる。

 気が付けば、僕たちは囲まれていた。


「これはなんですか?」


「何が起こってる!?」


「2人とも上だ!!」


 ハッと僕とアストリアは顔を上げる。

 見えたのは、7対の目。ヒュドラ・マキシマがこちらを見ていた。

 すでに口を開け、七色に光っていた。


「まずい!」


「2人とも離れるな」



 【閉めろ(ロック)】!!



 直後、ブレスが放たれた。

 何もかも破壊するブレスに、僕の鍵魔法は対応する。

 それでも周囲はそうはいかない。

 ブレスの衝撃で捲り上がった地面ごと、僕たちは吹き飛ばされる。


 幸いなんとか無傷で着地できたが、再びあの声が聞こえた。


「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」


 シルエットのボイヤットさんが、僕たちを指差していた。


 これは探査系魔法の一種なのだろうか。

 少なくとも僕には覚えがない。


 1つ言えることは、ボイヤットさんとヒュドラ・マキシマには、何らかの関係があるということだ。


 事実、ヒュドラ・マキシマは巨躯を翻してきたやってきた。

 再びブレスを吐く体勢になる。


「全身――――」



 【閉めろ(ロック)】!



 僕はまたアストリアとノクスさんの身体を【閉めろ(ロック)】する。

 それを見たシルエットのボイヤットさんが手を掲げた。

 すると、僕たちの周りに魔法陣が浮かび上がる。


魔解呪刻(デコード・スコア)


 僕は鍵魔法が解除されてしまう。


 まずい。貼り直さないと……。


 遅い……! 次の瞬間にはヒュドラ・マキシマのブレスが迫ってきた。


「2人とも俺の後ろに!!」


 ノクスさんが銀剣を掲げる。

 ヒュドラ・マキシマのブレスに叩きつけるように、そのブレスを切り払った。


「はっ! 7首トカゲめ! 調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」


 ノクスさんは苦笑いを浮かべる。

 目の前で超高温を受けたのだ。

 無事なはずがない。実際、ノクスさんの身体はみるみる赤くなっていた。

 持っている銀剣も溶けかかっている。


「とにかく奴の首を斬って、時間を稼ぐ!」


 アストリアが再び飛び立つ。

 1人逃げたわけじゃない。

 おそらく聖剣でまたヒュドラ・マキシマの首を斬ろうとしているのだろう。


「ギャッ!!」


 一定の高度まで達した時、アストリアは悲鳴を上げる。

 現れたのは、雷の属性を付与された網だ。

 どうやら、闇属性の魔法でヴェールのように包み、網状になった魔法を隠していたらしい。


 やったのは、ボイヤットさんのシルエットだ。


 間違いない。

 ヒュドラ・マキシマとボイヤットさんは連係している。


「アストリア!」


「大丈夫だ。しかし――――」


 アストリアは一旦着地する。


 痛みに耐えながら、威嚇するように周囲を見つめた。


「見つけた」 「見つけた」

「見つけた」 「見つけた」

「見つけた」 「見つけた」 「見つけた」

「見つけた」

「見つけた」 「見つけた」

「見つけた」 「見つけた」

「見つけた」 「見つけた」 「見つけた」


 僕たちはボイヤットさんのシルエットに囲まれていた。


「なんだ、ありゃ!」


 ブレスに高温に耐えながら、ノクスさんは悲鳴を上げる。

 ヒュドラ・マキシマの首の1つが、ぐるりと動き、人間でいうおでこの辺りがもぞもぞと動く。皮膚が張り出すと、それは人の形になった。


「ボイヤットさんだ」


「馬鹿な! 人間とユニークモンスターが融合してる」


 アストリアは叫んだ。


 ボイヤットさんは何も変わらない。

 不敵に笑い、そしてヒュドラ・マキシマ自体も喉を鳴らす。

 それは明らかに笑い声だった。


「笑ってやがる。ユニークモンスターな上に、魔法まで使えるって……。反則だろ」


 ノクスさんは銀剣を地面に突き立てながら、舌打ちした。

 アストリアの顔も暗い。グッと奥歯を噛んで、悔しさを露わにしている。


 まさに満身創痍だ。

 僕たちのチームは崩壊しかかっている。

 さらに、あと数分もすれば他の冒険者がやってきて、さらなる被害を生むかもしれない。


「一か八か、やるしかないな」


 アストリアは自分の聖剣を握り直す。


「【風砕(エア)螺旋剣(リーズ)】を使う」


「おい。でも、そんなことをしたら」


「地上の被害が出るよりマシだ」


「…………確かにな」


 つまり、アストリアが選んだのは生き埋め覚悟ということだ。


「ダメです」


「ユーリ君?」


 そうだ。諦めたらダメだ。

 絶対に……。僕は誓った。

 アストリアの仲間『円卓(アヴァロン)』のメンバーを助ける、と……。

 そして10層へ行き、エドマンジュの魔力の源泉を探す、と……。


 そのために僕は冒険者になった。


 そしてその選択によって、困らせてしまった人もいる。

 当たり前のように顔を合わせていた家族とも別れた。


 でも、僕はそういう人たちに手を振って、自分の我が侭を通した。


 だから簡単に諦めるわけにはいかない。


 たとえ、絶体絶命であっても……。


「アストリア、【風砕(エア)螺旋剣(リーズ)】を撃って」


「おい。ユーリ!」


「大丈夫です、ノクスさん。僕が救ってみせます。アストリアも、ノクスさんも、冒険者の皆さんも……。そして――――」



 このダンジョンも……。


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