第11話 いつの間に仲良くなった!?
数日後――。
装備を調え、冒険者っぽくなった僕と、アストリアさんが宿の玄関に立っていた。
見送るのは、僕の母さんとフリルだ。
「じゃあ、行ってくるよ。母さん、フリル」
僕は手を振る。
すると、母さんもまた軽く手を振った。
「ああ。頑張っておいで。アストリアちゃんを助けてあげるのよ」
「う、うん……。善処するよ」
ややきつめのエールを送られる。
S級冒険者のアストリアさんを、僕が助けることなんてこの先あるのかな。
「お母様、短い間でしたが、お世話になりました」
実は数日の間、アストリアさんは僕たちと同じ部屋でずっと泊まっていた。
すぐにギルドに行かなかったのは、僕の装備を調えるのと、アストリアさんに鍛えてもらっていたからだ。
「いえいえ。こちらこそ。でも、寂しいわ。娘が出来たと思っていたのに」
「光栄です。……あの、息子さんは必ず私が責任を持ってお守りしますので、どうかご安心を」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫。あなたのことを信じているわ、アストリアさん」
「ありがとうございます」
「でも、よく考えたら、今の言葉……。まるで結婚のご挨拶みたいね」
母さんは「ムフフフ」といやらしく笑う。
こういうことに免疫がないアストリアさんは、すっかり顔を赤くしてしまった。
「ちょっと! 母さん!」
「別にわたしは一向に構わないわよ、アストリアさん」
「ぜ、善処します」
母さんも母さんだけど、アストリアさんも何を言ってるの。
動揺しすぎぃ!
「ほら。フリル……。あなたから何もないの? にぃにぃ行っちゃうわよ」
母さんの足の影に隠れていたフリルは、ひょこりと顔を出す。
すでにボロボロと泣いていた。
やっぱり泣いちゃったか。
フリルが寝てる時に、こっそり出ていった方が良かったかな。
すると、フリルは母さんの足から飛び出す。
こっちに向かって走ってきた。
やれやれ……。
フリルは相変わらず甘えん坊だな。
でも、最後ぐらい頭を撫でておかないと……。
「ねぇねぇ!」
ひしっとフリルが抱きついたのは、アストリアさんだった。
「え?」
呆然とする横で、フリルはアストリアさんの程良く膨らんだ胸に顔を埋めていた。
「ねぇねぇ! きをつけてね。こわかったらかえってきて」
「うん。わかった。ありがとう、フー」
アストリアさんはフリルを抱きしめる。
ここ数日、アストリアさんに対するフリルの評価が180度変わっていた。
最初はライバル位置だったのに、いつの間に仲良くなったのだろうか。
僕ですら皆目見当もつかない。
「ごはんちゃんとたべて。はみがきもして」
それS級冒険者にいう言葉かな、フリル。
「あぶなくなったら、にぃにぃたてにして」
おーい。それはどういうことだい、フリル。
すっかり僕の方がのけ者だ。
このまま女性カップルができあがったら、僕はどこに住めばいいのだろうか。
「はいはい。フリル、そこまでよ。ねぇねぇが困ってるでしょ」
母さんはアストリアさんからフリルを引き離す。
少し落ち着いたのか、ようやく泣きやんだ。
それでも赤くなった瞳を、僕たちに向ける。
「うん……。にぃにぃ……」
「ん?」
「ねぇねぇ……」
「ああ……」
「帰ったら、遊ぼうね」
フリルは向日葵のように最後に笑う。
その顔を見て、逆に僕は泣いてしまった。
そんな僕の頭に、小さな手が置かれる。
「にぃにぃ、いーこいーこ」
「何を泣いてるの、ユーリ。金輪際一切会わないわけじゃないでしょ。しばらく近い地層にいて、家にも帰ってくるんだから、泣かないの」
母さんの手もまた僕の頭に手を置かれる。
そこでようやく僕は泣きやむことができた。
最後に肩を叩かれる。
振り返るとアストリアさんが立っていた。
「行こう、ユーリくん」
「はい……」
僕は涙を拭い、そしてギルドに向かうのだった。
フリルはかわいいので、定期的に出してあげたいなあ。