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第112話 ダイムシャット強襲

 僕の鍵魔法を完全に黒騎士を【閉めろ(ロック)】した。

 大剣を持って構えたまま、にやついた笑みを浮かべたまま固まっている。

 生きた彫像となった黒騎士を見て、ラナンは黒目のない瞳を瞬かせた。


「うそ……? 止まってる? こいつ、結構強い……っていうかダイムシャットは【剣師長(グランパ)】なのよ。剣帝の次に強いっていっても過言じゃないのに」


 いきなり訳のわからない単語がいっぱい出てきた。

 そう言えば、さっき【剣師(アーク)】って言葉の意味も聞いてない。

 もしかしてこの第9層にも、第2層の冠位十二階(グランド・トゥエルブ)みたいなしきたりがあるのかな。


「アストリアの動きを止めたことといい。アンタ、一体何者?」


「えっと……。僕の名前はユーリ・ヴァ……じゃなかったユーリ・キーデンス。冒険者で、元宮廷鍵師だよ。アストリアも、その黒い騎士も僕の鍵魔法で」


「嘘吐け!! 鍵魔法でこんな芸当できるか!!」


 ラナンは声を荒らげる。

 なんか久しぶりだなこの感じ……。


「なるほど。鍵魔法か。どおりで解除に手間取るわけだ」


 僕とラナンはほぼ同時に声が聞こえた方を見る。

 例の黒騎士は笑ったまま固まっていた。

 しかし、その身体が闇色に染まり、砂のように崩れる。

 砂はまるで影のように地面を這うと、僕たちから少し離れた所で止まった。

 やがて黒い砂は盛り上がり、人の形になる。

 現れたのは、例の黒騎士だった。


「ふぅ……。さすがに焦ったぞ。まさか鍵魔法で我が肉体の動きを止めるとはな」


「僕の鍵魔法が……」


 別に驚くほどのことではない。

 これまで僕の鍵魔法はあらゆる方法で無効化されてきた。

 黒騎士もまたその方法を持っていたに過ぎない。

 でも、これで1つ僕の手立てがなくなったことになる。


「ユーリ・キーデンスとか言ったな。お前、冒険者だな」


「そうだ」


「ほう……。我々『円卓(アヴァロン)』の世代で、第9層までやってくる冒険者がいるとはな。仲間はどうした?」


 僕は自分の影に潜むサリア、そしてラナンの側にいるアストリアに視線を送る。


「1人は今姿を現せない。もう1人もじきに合流するはずだ。それよりお前は何者だ?」


「ダイムシャット……。裏切り者よ」


 声を振り絞るようにラナンは呟く。

 ラナンの表情、そしてアストリアを追いかけてきたと思われる騎士。

 そしていつかアストリアが僕に話してくれた『円卓(アヴァロン)』が崩壊した理由。


 アストリアはこう言っていた。



 『円卓(アヴァロン)』の中に裏切り者が出た、と……。



「失礼な……。まあ――――事実ではあるが(ヽヽヽヽヽヽヽ)


 ダイムシャットは手を掲げる。

 その瞬間、荒野に伸びる影という影から鎖が伸びてきた。

 真っ黒な鎖は放物線を描きながら、アストリアを守護するラナンに迫る。

 ラナンは風の結界を貼る。あっさりと鎖を弾いた。


「その程度の魔法で、この風の聖霊ラナンに触れようなんて甘いわよ、ダイムシャット」


「さすがは聖霊だな。しかし、これならどうだ?」


 ダイムシャットは指をくいっと上げる。

 直後、鎖が現れたのは、ラナンの影からだった。

 すぐ目の前に現れた鎖に、ラナンは反応できない。

 そのまま鎖に捕まり、動けなくなる。


「ラナン!!」


「小僧……。聖霊の心配をしている場合か?」


「――――!!」


 自分の影が蠢くと、また鎖が飛び出す。

 なんとか反応したけど、鎖は蛇のように動き、僕を絡め取る。


 僕とラナンの動きを封じたのを見て、ダイムシャットは口角を上げた。


「雑魚冒険者と聖霊はそこで大人しくしていろ」


 すでに鎖はアストリアを捕獲していた。

 ダイムシャットは虜となったアストリアを自分の元まで引き寄せる。


「やれやれ……。手こずらせおって。アストリアを逃がしたとあっては、剣帝様に怒られてしまう。どうやらあの方は、いたくアストリアを気に入っているらしいからな」


 ククク、とダイムシャットは低く笑う。


「それにしてもまったく動かぬな。こうやって動かない姿を見ると、ちょっと悪戯したくなる。普段生意気な女だから尚更にな」


 ダイムシャットの手がアストリアに伸びていく。


「やめろ! アストリアに触るな」


「ふん。何の権限があって、そんなことを言える。お前の恋人でもなければ、伴侶でもないのだろう。それに教えてやろう。この仮面を作ったのは、オレだ。【黒仮面(マスカレード)】という闇魔法の一種だ。この仮面をつけている間、どんな相手もオレの言うことを聞く。……つまり、身も心も。オレが自在に操ることができるのだ」


 ダイムシャットは舌舐めずりし、さらにアストリアの首筋に触れようと手を伸ばす。

 僕はそれを見ていることしかできない


 ――訳がない!!



 【開け(リリース)】!!



 次の瞬間、僕を縛っていた鎖が解ける。

 それだけじゃない。ラナンや、アストリアの手足を縛っていた鎖すら消えてしまう。


「馬鹿な!! オレの魔法が全部解除されただと!!」


「す、すごい!!」


 ダイムシャットだけでなく、ラナンも僕の力に瞠目していた。

 だけど、僕はそれどころじゃない。

 身体が熱い。頭の中が煮えたぎっているのを感じる。

 わかる。僕は今――怒っているんだ!


「おおおおおおおおおおおおおお!!」


 僕は走る。

 一瞬にしてダイムシャットとの距離を詰めた。


「速いだと!?」


 ダイムシャットは慌てて大剣を掲げる。

 僕は短剣を抜くと、相手の急所を狙った。


「そんななまくらでオレと戦うつもりか! 切り払ってくれる!!」


 ダイムシャットは僕の攻撃を払おうとする。

 しかし、僕は引かない。

 そのまま同じく短剣を振り払った。


 果たして弾かれたのは、ダイムシャットの方だ。

 仰け反ると、すぐにあることに気づいた。


「お、オレの魔剣が!!」


 ダイムシャットの魔剣に、少しヒビが入っていた。


「小僧ぉぉぉおおおおおお! よくもやったな!!」


 ダイムシャットの顔が紅潮する。

 大きな大剣を扇のように振り回す。

 すると、僕はその武器を狙って一閃した。


 ガコッ!!


 重い音を立てて、刃幅の広い刀身の一部が突き刺さる。

 それを見て、ダイムシャットの顔に影が差した。


「まさか……。その短剣にも鍵魔法がかかっているのか」


 新品同然の短剣を見て、ダイムシャットは声を震わせる。

 僕は短剣をダイムシャットに向かって掲げつつ、アストリアを背にして宣戦布告した。


「アストリアは渡さない」



 指一本たりともだ……!



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― 新着の感想 ―
指一本渡したら、かなり大変なことでは。髪の毛一本、ぐらいならまだ…… 敵には鍵魔法の価値がバレているみたいですね。
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