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第97話 巫女たち

 木の廊下を叩く甲高い音が響く。

 僕たちは宮廷の北にある社へ向かって走っていた。

 この辺りには、衛兵が配置されていない。


 その代わり漂ってきたのは、強い香の匂いだ。


 微妙に霧がかかっていて、視界が悪い。

 正直何が出てくるわからない、薄気味の悪い雰囲気が漂っていた。


「この辺りまで来るのは初めてだわ」


 エイリナ姫は周囲を警戒しつつ、辺りを見渡す。


「ここはもうすでに神職の域内ですから。“(ちち)”も滅多に入ってきません」


「普通ならってことね」


「フィーネルさん、止まってください」


「え?」


 ブレーキをかける。


 前方に気配。

 敵なのかわからないけど、薄い煙の向こうに、よく見ると人の影があった。


 ゆっくりと進み出てきたのは――――。


「子ども?」


 そう。

 それは12、3歳前後の2人の子どもだった。


 頭に鉢巻き、前掛けのような白い絹を下げ、さらに顔には紙が貼り付けている。


 僕たちが目にしたのは、腰に下げた剣だ。


 いわゆる“()”という身分の人だろうか。

 一切言葉を口にすることなく、無言で距離を詰めてくる。

 表情は紙で隠れ、窺い知ることもできなかった。


「レキ! レニ!」


 フィーネルさんは叫ぶ。


「あれが“()”か……」


「はい。左の青い鉢巻きをしたのがレキ。右の赤い鉢巻きがレニです」


「“()”ということは、フィーネルさんの仲間?」


「そういう雰囲気じゃないわよ、あれ!」


 エイリナ姫は砲杖(キャスト・ライフル)を取り出す。


 姫の言うとおりだ。

 友好的な空気は全く感じない。

 2人の子どもから漂ってきたのは、迷いのない殺意だ。


 タンッ!


 木の床を大きく踏み抜いた。

 先手を打ったのは、そのうちの1人レキだ。


「速い!!」


 まるで風のように疾走する。

 ショートソードを引き抜き、一気に距離を詰めてきた。


 その刃の先にあったのは、フィーネルさんだ。

 やはり狙いはフィーネルさんなのか。

 同じ神職なのに……。


 ギィン!!


 剣戟の音が響く。

 アストリアが行く手を阻む。

 速さなら彼女も負けていない。


 初撃を受け止められたレキは、続いて回り込み、もう1度その刃の切っ先をフィーネルさんに向ける。


 それを阻んだのも、アストリアだ。

 そのスピードについていく。

 今度は、レキも退かない。さらに応戦する。


 激しい剣戟の音が、神職の聖域である社に響く。


 互角?

 アストリアと?

 すごい……。

 あの“()”の子ども、S級冒険者と渡り合うなんて。


 だが、“()”はレキだけじゃない。

 側で影が動いた。


 振り返ると、レニが僕を飛び越え、後ろにいるフィーネルさんに詰める。

 徹底して彼女を狙う算段らしい。


「いかせないわよ!!」


 エイリナ姫が砲杖(キャスト・ライフル)の銃把を引く。

 高速で撃ち出された弾丸は、レニの足を打ち抜いたかに見えた。


 その瞬間、レニは鞘から剣を抜く。


 甲高い音を立て、あっさりと魔法弾が弾いた。


「なんですって!!」


 レニはびくともしない。

 着地の時、少し体勢を乱しただけだ。

 そのままフィーネルさんに向かう。


「させるか!」


 僕は手を伸ばす。

 すでにレニは鍵魔法の有効射程距離にあった。


「フィーネルさんに、立入――――」



 【禁止(ロック)】!!



 僕は遮二無二になりながら、概念を【禁止(ロック)】する。


 レニの進行が妨げられた。

 それでも動こうと必至に手を伸ばす。


 この子……。

 僕の鍵魔法化でも動けるなんて。

 サリア並の怪力を持っているのか。


 だが、最後には弾かれる。

 一旦レニもレキも後ろに退き、それぞれ構えた。


「何よ、この2人……。無茶苦茶強いじゃない」


「“()”は“神和(かんなぎ)”を守る盾であり、矛の役目もあります。それに“(しん)”を降ろすという大事な役目を持っているため、大の男でも音を上げるような修練を積み重ねてきているのです」


「2人の出鱈目な身体能力は神仙術ですね」


「はい。レキは【神足通】……。レニは【金剛】と呼ばれる神仙術を持っています」


「それを早く言ってほしかったわね」


 エイリナ姫は頭を掻いた。

 子ども相手に手加減はしただろうが、その子どもに弾丸が弾かれたことを、ショックに思っているのだろう。


「関係ありません。僕の鍵魔法で2人を止めます」


「いや、ユーリは後ろを頼む」


 アストリアはレキとレニの後ろを剣で指し示した。

 見ると、そこには大きな扉がある。

 そっくりだ。

 サリアを封じ込めていた扉と……。


「あそこに……」


「はい。“(しん)”が封印されているはずです」


「“()”の相手はあたしとアストリアでするわ」


「ユーリは扉を開けてくれ。そうすれば、我らの目標はひとまず完了だ」


「わかりました!」


「わたくしもお供します、ユーリさん」


「はい。くれぐれも僕から離れないようにして下さい」


「作戦は決まりね! 行くわよ!!」


 エイリナ姫の合図と共に、僕たちは一斉に動き出す。

 その動きにレキとレニが1歩遅れた。

 背後へ回り込もうとする僕とフィーネルさんを見て、阻止しようと動き出す。


 バァン!!


 放たれたのは1発の弾丸だ。

 【神足通】のレキを狙う。

 それを払ったのは、レニだった。


 その瞬間、大気が弾ける。

 強い衝撃を受けて、レニは踏ん張ったものの、レキは吹き飛ばされた。

 2人の連携が乱れたところに、アストリアが現れる。


 徹底して、レキを狙いに行くが、【神足通】を使われ、距離を取られた。


「お前たちの相手は私たちだ」


「全く……。前にもこんなことがあったわね」


 やや首を捻りつつ、エイリナ姫も砲杖(キャスト・ライフル)を構えるのだった。





 一方、僕は扉の前に来ていた。

 見れば見るほど、ムスタリフ王国王宮の地下にある扉と似ている。

 いや、そのものだと言ってもいい。


 この中に、カリビア神王国の“(しん)”がいる。


 神を封印するのだ。

 サリアを封印するほどの強力な封印が必要だったのだろう。


 やや懐かしさも感じていた僕は、扉に手を置いた。


「封印――――」



 【開け(リリース)】!



 構造的に同じなら、これだけで十分なはずだ。

 カチャリと音がした。


「やれやれ……。相変わらず出鱈目なヤツじゃな、お前は。勇者の封印をこうもあっさり解錠するとは――」


 影の中からサリアの呆れた声が聞こえる。

 直後、その声が強張った。


「ユーリ!」


「え?」


 それは一瞬の出来事だった。


 影が動く。

 次の瞬間、一振りの剣がフィーネルさんの装備していた軍装ごと貫いた。


「え?」


 フィーネルさんの目が驚愕に見開く。

 纏っていたライトメイルの下からは、真っ赤な血がこぼれ、床をゆっくりと浸食していった。


 嘘だろ……。



「フィィィィイイイイイイネルゥゥゥゥウゥウウウウウウウウウ!!」



 僕の絶叫が、社の中で響き渡るのだった。


いよいよクライマックスへ向かっていきます。


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面白いと思っていただけたら、あちらでも★レビューをいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 味方はどこにもいない、か。 動いたのは王? 判らないけれど。そして、縛めを解かれた神はどう動くのかな。
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