〜始まりの日9〜
意を決して放った天秤の言葉
その言葉と覚悟を決めた目に
小さくなっていた大夢は
すぐに傾聴モードへと切り替わった
「……お兄さんを助ける?……」
「はい………私には兄が2人いるんですけど……
1週間前、1番上の兄が
殺人の容疑で警察に捕まったんです……」
衝撃の告白に隣の月咲も驚いていた
「殺人っ?!!……お兄さん何したのっ?!!」
その反応から
月咲も今、初めて聞かされたと分かった
大夢は軽く月咲を制止する
「月咲、うるさいっ……
殺人の容疑だって言ってるだろ……」
大夢の制止で
また、周囲の目を集めていることに気付いた月咲
皆の視線が外れたところで話を元に戻す大夢
「お兄さんは、どういった経緯で?……」
「ウチの家の近くに、親戚の家があるんですけど……
警察の人の話では
その親戚夫婦2人を滅多刺しにしたって………
理由を聞いたら、口論の末やったって言ってて……
でもっ!!そんなはずないんですっ!!……」
天秤の目には、疑問の念が乗り移っていた
語気も強まり必死さが伝わって来る
「誠兄ぃは大人しい性格で……
その親戚とも、めちゃくちゃ仲良くて……
いくら喧嘩したからって、殺すなんて………」
力強く語る天秤の声は
悔しさからか、少し震えていた
大夢は慎重に言葉を選びながら話を続けた
「仲が良いからだけでは証明にならない……
口論の末という事は、余程の事を言われたり……
親戚と言えど、100%分かり合える人間同士なんて
この世に存在しない……」
しかし、大夢の言葉を遮るように
天秤は強い口調で言葉を返す
「菊地さんは、誠兄ぃを知らないからっ!!……」
思わず荒げてしまった声に
今度は天秤の方が小さくなっていた
「………ごめんなさい……」
「いやいや……気にせず続けてくれ……」
天秤は涙を堪えて話を続けた
「……本当に仲良しなんです……
だってっ……事件のあった、たった3日前に……
たった3日前ですよ?!!……
私ともう1人の兄を含めた親戚夫婦5人で、
温泉旅行に行ってるんですっ……
しかも誠兄ぃがバイトで貯めたお金で……
殺す前にそんな事するなんて、
私にはあり得ません…」
真剣な表情の天秤
興奮気味に語ったせいか、少し息切れを起こしていた
大夢は天秤の顔を見て思った
なるほどな……
確証無しに言ってる訳じゃないのか……
また、声を荒げてしまった天秤は
申し訳なさそうに小さく呟いた
「すいません……何度も怒鳴っちゃって……
とんでもない事頼んでるのは百も承知ですが……
お願いします……誠兄ぃの無実を証明して下さいっ!!…
その為なら私、何でもしますからっ……」
そう言って頭を下げる天秤
重々しい空気が大夢達のテーブルを包む
そんな中
大夢はおもむろにスマホを取り出しすと
頭を下げる天秤の前で操作を始めた
大夢の態度に、思わず月咲が口を挟んだ
「ちょっと……聞いてる?大夢……」
しかし、大夢はスマホを操作する手を止めず
月咲の声で顔を上げた天秤に語りかけた
「あぁ……ごめん真道さん……
ちょっとだけ時間くれ……」
真剣に話をしているつもりだった
しかし、目の前の大夢の態度を見て
天秤は幻滅した
「………信じれないですよね……」
そう呟き、落ち込む天秤の姿を見て
月咲は慌てて慰めに入る
「そんな事無いって天秤ちゃんっ……
もうっ、大夢ってばっ!!……」
月咲が声を荒げるも
大夢はスマホの操作を止めなかった
怪訝な視線を向けられても
スマホの操作を続けながら、また語り出す大夢
「別にそう言う訳じゃ無い……
こんな格好で済まないが、真道さん……
1つ確認したい事があるんだが、いいか?……」
「………なんですか?……」
スマホの操作を終えたのか
大夢はスマホを机の上に置くと
真っ直ぐな目を天秤に向けた
「その事件の真実が、君の望む結果で無かった時……
君はそれを受け入れる覚悟はあるか?……」
意味深い言葉に
天秤はあまり理解出来ていない様だ
怒りも混ざって、また声が荒くなる
「受け入れるも何も……
誠兄ぃがやってるわけないんですっ!!…」
「過程はどうでもいい……
俺の言葉を受け入れる覚悟はあるのか?……
と聞いている……」
「………へ?……」
話の本筋が見えず、天秤は困惑していた
困惑する天秤を他所に
大夢は淡々と言葉を続けた
「真実というのは常に1つだけだ……
それ以外はただの仮説・空論に過ぎない……」
「………あの………何が言いたいんですか?……」
やっぱりそうだよね……この人も警察と同じ……
誠兄ぃの事、何1つ分かってない……
その時
大夢のスマホが、机の上で震え出した
液晶画面に映し出された文字に
メールが届いたのだと分かった
大夢は再びスマホの画面を覗き込み
念入りに画面に映る情報を確認した
そして、軽くスクロールすると
スマホの画面を天秤の方へ向け、掲げた
「ここが現場で間違い無いか?……」
「…………現場?……」
大夢のスマホに注視する天秤
脇から月咲も画面を覗き込んでいた
大夢が掲げるスマホ画面を目にして
天秤は驚きの表情を浮かべていた
「えっ?……これって……」
天秤が驚くのも無理は無い
そこには一般的な一軒家の
リビング全体を写した写真が映し出されている
しかし、それを見て驚きを隠せない天秤
「なんで……」
それは
その写真に驚くべき物が写り込んでいたからだ
画面に写し出されていたのは
リビング全体を映し出した写真
上部には、綺麗な机と
その奥に見えるのはカウンターキッチン
写真左手辺りにある扉付近には
観葉植物と真っ白な固定電話機が1つ置かれており
写真手前には真っ白なソファーが写し出されていた
ここまでは良い
ごく普通の一般家庭のリビング写真だ
だが、そんなリビング写真の中央に
異様なものが映り込んでいた
そこにあったのは
血で真っ赤に染まった床
死体こそ無いものの
白いテープで人型に確保された
誰がどう見ても明らかな、殺人現場写真
だが、それだけではない
天秤の兄が起こした事件現場であるのだから
驚くのも無理はなかった
「…………あっ……合ってます……」
「……そうか……」
驚く天秤を尻目に
大夢はスマホを更にスクロールさせ
下記に書かれた詳細内容を確認していた
天秤が唖然としている中
丁度そのタイミングで
月咲の注文した料理達が運ばれて来た
しかし、月咲の興味もまた
大夢のスマホにあり
慌てて注文に気づき、料理を受け取りだしていた
驚く2人を尻目に
大夢は写真と一緒に送られて来た
詳細情報を目を通していた




