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天才は使い方次第で神にも凡人にも成る  作者: 田代 秀隆
報告書1〜始まりの日〜
8/30

〜始まりの日8〜


数時間後


愉快な探偵事務所でのバイトを終え

大夢(ひろむ)は1人、学校近くのファミレスで(くつろ)いでいた


ドリンクバーと軽食のポテトを注文し

読書しながら時間を潰している



このファミレスは

理高から最寄り駅までの間に存在する店舗で

理高の生徒達が良く利用する


店内には大夢(ひろむ)以外にも

部活終わりの理高生徒の姿がちらほらとあった



時刻は20:20


大夢(ひろむ)がアイスコーヒーを飲みながら

優雅に(くつろ)いでいると


机の上に置いていたスマホが震え出した


画面を覗き込むと


“天野 月咲(つかさ)”の文字と

電話の呼び出しマークが映し出されていた


本を片手に通話を始めた大夢(ひろむ)


「はい……」



〔ちょっとっ!!どこ居んのっ?!!……〕



「ファミレスだが?……」



〔え?……………あっ、もしかして……中?……〕



「もうすぐ5杯目だ……」



〔ふざけんなっ!!……早く言えっ!!……〕


怒号と共に切られた電話


大夢(ひろむ)はそれを予期していたのか


怒号が聞こえる前に、スマホを耳から遠ざけ

何食わぬ顔で読書していた



通話から30秒後


ズカズカとした足取りで

月咲(つかさ)が席へとやって来た


「この変人めっ!!」



「ファミレスで待ってるって言っただろ?……」


小説を机の上に置き

月咲(つかさ)の方へ向き直る大夢(ひろむ)


怒り心頭の月咲(つかさ)


だが、大夢(ひろむ)は別のところに視線を向けていた


月咲(つかさ)の背後に、身長150cm程度で

肩の辺りまで伸びたパーマがかった茶髪が特徴的な

1人の女子生徒が居る事に気付いた


チラチラと月咲(つかさ)の影に隠れながら

こちらの様子を伺っている



大夢(ひろむ)と視線が合わない月咲(つかさ)

更に怒り心頭だ


「こっち見ろっ!!バカっ!!……」


一先ず大夢(ひろむ)月咲(つかさ)の対処に移る事にした


「外に居なきゃ……

中に来るのが普通だと思うが?……」



「じゃ!!20分も遅れてんだから!!……

連絡くらい入れるのが普通じゃん!!……」



「部活中だったら出れないだろ?………」


言い訳する大夢(ひろむ)に握り拳を作る月咲(つかさ)


たぶん、殴った仕返しだなぁ~っ……

本当、こういうとこ小さいんだからっ!!……


月咲(つかさ)の握り拳を見て危機感を感じた大夢(ひろむ)


即座に話題を切り替えた


「その子か?……クライエントは……」


月咲(つかさ)も今回は拳を抑え、本題へ入った


「……紹介するね?……

ウチのバスケ部新1年生の天秤(はかり)ちゃんですっ…」


月咲(つかさ)の紹介に

背後から控えめに挨拶する天秤(はかり)


真道(しんどう) 天秤(はかり)です……」


天秤(はかり)の自己紹介が終わると

月咲(つかさ)大夢(ひろむ)の紹介に移った


「でっ、こっちの変人が…さっき話してた探偵の…」



「雑な紹介するな……

菊地(きくち) 大夢(ひろむ)です……よろしく……」


月咲(つかさ)の紹介に

不思議そうな表情を浮かべていた天秤(はかり)


「この人が、例のあの人ですか………

本当に同じ学校なんですね……」



「あれ?信じてなかった?……」



月咲(つかさ)先輩の事だから……

嘘付けないのは知ってますけど……」


言葉ではそう言うが

その目は少し疑っている様にも見えた


大夢(ひろむ)もこの反応には慣れている


少々疑問点はあったが

天秤(はかり)の言葉に、動じず言葉を返した


例のあの人って……

どんな紹介の仕方したんだ?……月咲(つかさ)……


「まぁ、仕事はキッチリこなすから安心してくれ……

それより、2人共早く座れ……

店員さん困ってるだろ?……」


大夢(ひろむ)の指摘と目線に

月咲(つかさ)天秤(はかり)が慌てて後ろを振り返った


そこにはお盆を片手に立ち尽くし

苦笑いを浮かべるウエイトレス姿があった


2人は慌てて謝罪すると、すぐ席に着いた



2人が席に着いたのを確認すると

ウエイトレスは仕事に取り掛かった


「………ご注文は?……」


最初に手を挙げたのは天秤(はかり)


「あっ、アイスコーヒーで……」


気を遣ってか単品注文で済ませる天秤(はかり)に対し

隣の月咲(つかさ)は遠慮なくメニュー表を開いた


「えっと~……

ちょっとだけ時間くださいねぇ~……」


メニュー表を凄い勢いで速読すると

まるで呪文を唱えるように早口で注文した


「和風ハンバーグのセット、ライス大盛り……

サラダとスープのやつで……

あっ、後、たらこパスタにチーズリゾットで

よろしくお願いしま~すっ……」


満面の笑みで注文を終えた月咲(つかさ)


ウエイトレスはメニューを繰り返し

席を離れていった



満足気な月咲(つかさ)に対し

正面に座っていた大夢(ひろむ)の顔は呆れ果てていた


「相変わらずだな……お前は……」



「え?……何が?……」



「食べる量に決まってるだろ……」


大夢(ひろむ)の言葉に共感したのか

天秤(はかり)も話に加わる


「でも、月咲(つかさ)先輩……

いつもより控えめですね?……」



「でしょ?……あいつ変人だから

気遣(きずか)ってんの分かんないんだよ、たぶん……」


天秤(はかり)の言葉で調子に乗る月咲(つかさ)


だが、大夢(ひろむ)は真顔で指摘した


気遣(きずか)ってその量の奴にだけは

絶対言われたくない……」


大夢(ひろむ)の言う通り

確かに一介の女子高生が頼む量では無かった


天秤(はかり)は続けて月咲(つかさ)に疑問をぶつけた


「良いなぁ月咲(つかさ)先輩……

そんなに食べて何でそのスタイルなんですか?……

秘訣教えて下さいよ~っ……」


メニュー表を置き

天秤(はかり)の疑問に考え込む月咲(つかさ)


「ん~秘訣って言われてもなぁ~………

良く動く?……」



「………アドバイスになってないです……」



「だって~!!分かんないもんっ……

別に何かしてるわけでも無いし~……」


感覚派の月咲(つかさ)

細かい理屈は通用しないようだ


天秤(はかり)はため息と共に小さく愚痴を溢した


「羨ましい限りですねぇ~………

私なんか常々、お腹周り気にしてるって言うのに…」


そう言って自分の脇腹を摘んでいた


しかし、月咲(つかさ)には

天秤(はかり)の言葉が理解出来なかったようだ


「充分細いじゃ~んっ!!……

それ以上痩せたら病気なっちゃうよ?……

3日後に試合控えてんだから~……

ちゃんと食べなきゃ……」



「いっそ、病気でもいいから痩せたいです……

欲を言えば身長も欲しい……」


2人が繰り広げる会話を

ドリンクを飲みながら観察していた大夢(ひろむ)


これ以上待っても本題から逸れるばかりなので

軽く咳払いを挟み会話を断ち切った


「………で?……話って?……」


大夢(ひろむ)の咳払いで我に返った月咲(つかさ)


「あっ、ごめんごめん……

では、天秤(はかり)ちゃんの方から……」


月咲(つかさ)に催促された天秤(はかり)


すると、今までの楽しい表情とは打って変わり

険しい表情へと変わった



少し間を置き、恐る恐る口を開いた


「………本当に信じてくれます?この話……」


天秤(はかり)の神妙な面持ちに

優しくフォローする月咲(つかさ)


「大丈夫だって……

大夢(ひろむ)は変人だけど根は良い奴だから……」


だが、大夢(ひろむ)はそれを否定した


「話を聞いてからだな……

後、無駄に変人を強調するなっ……

俺は曖昧な解答はしない主義だ……」


事務的な大夢(ひろむ)の答え


纏う雰囲気はまるで

事情聴取をする刑事の様だ


そんな大夢(ひろむ)月咲(つかさ)が食って掛かった


「固いな~、あんたはいつも……

もっと優しく出来ないわけ?……」



「仕事は仕事だ……関係無い……

クライエントが求める情報を正しく伝える……

これが俺の仕事だ……」



「あー、ヤダヤダ……

カチコチの論理的主義者って……

こっちまで肩凝るわぁ~……」


肩を回し、肩凝りアピールしながら語る月咲(つかさ)

大夢(ひろむ)はワザとらしく驚いてみせた


「良くそんな難しい言葉を……

成長したな、月咲(つかさ)……」


明らかに馬鹿にしている顔


それを見た月咲(つかさ)は強く反発した


「バッ、バカにしてんでしょっ!!……」



「いや?……全然?……」


大夢(ひろむ)の何とも言えない表情に

月咲(つかさ)は怒りを覚えるも

天秤(はかり)の為、グッと堪えていた


しかし、それを良いことに

大夢(ひろむ)の口は止まらない


月咲(つかさ)でも、成長期は来るんだなぁ………

成長は身長だけかと思っ…」


その時だった


バカにする大夢(ひろむ)

月咲(つかさ)がフォークを持って襲い掛かった


「このっ!!……(ひね)くれ野郎っ!!……」


横槍一線


大夢(ひろむ)目掛(めが)けて突き出したフォーク


迫り来るフォークの槍に大夢(ひろむ)は慌てて反応した


「おわっ!!……」


放たれた月咲(つかさ)の一線を

大夢(ひろむ)は間一髪のところで掴み止める事が出来た



机を挟んで繰り広げられる2人の攻防戦


怒り狂う月咲(つかさ)の力が

フォークを持つ手に籠る


少々押され気味の大夢(ひろむ)

言葉で攻め立てた


「充分な殺人未遂だぞっ!!……月咲(つかさ)っ!!……」



「運動音痴の癖に~っ!!粘るな~っ……

とにかくっ!!そんなカチコチの頭してたら、

すぐハゲるかんねっ!!……」


力任せにフォークを押し込む月咲(つかさ)


大夢(ひろむ)は何とか耐えている状況だ


「くっ!!……ざっ、残念だったなぁ………

抜け毛の原因の多くは偏った食生活とストレスだ……

その点俺は言いたい事言ってるし……

むしろストレスを溜め込んでいない分……

ハゲる可能性は少なく……」



「んなもん、どうでもいいわぁ~っ!!……」


ちゃぶ台返しでもするのか?


と思わせる程の掛け声と共に

更に力を込める月咲(つかさ)


それを必死に耐える大夢(ひろむ)


店内で繰り広げられている決死の攻防戦に

周りの客たちの視線も集まってきた


2人とも目の前の敵に集中している


戦場に1人取り残された天秤(はかり)

周りの目が段々恥ずかしくなってきたのか

慌てて止めに入った


「おっ!!お2人共っ!!…ここお店の中ですからっ!!……

ちゃんと話しますから、やめて下さいっ!!……」


天秤(はかり)の必死な叫びに

ふと我に返った2人


周りの視線に気づいたのか

少し小さくなっていた



互いに(いくさ)を辞め

両陣営へと戻った月咲(つかさ)大夢(ひろむ)



多少強引な形になってしまったが

おかげで天秤(はかり)は話す決心がついた様だ


聞いてみなきゃ分かんないもんね……


意を決し、言葉を放つ


「……菊地(きくち)さん、兄を助けて下さい……」



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