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天才は使い方次第で神にも凡人にも成る  作者: 田代 秀隆
報告書1〜始まりの日〜
5/30

〜始まりの日5〜


「あっ、陽太(ようた)君だっ!!……」



「えっ!!本当だ~っ!!……」



「キャ~ッ!!超ラッキーッ!!……」



「かっこいいなぁ~っ……」



「今日、仕事無いのかなぁ~っ……」


女子生徒の黄色い声援と噂話が廊下に木霊(こだま)する


すれ違う生徒たちが自然と目で追ってしまうその人物


教室の入り口に現れたのは

身長190cmを超える

スラリと伸びた抜群のスタイルを持つ男子生徒


映える金髪に

鼻筋の通った綺麗な顔立ちが特徴的で

透き通った綺麗な目をしている



そんな、他生徒の注目を一身に集める

金髪の男子生徒は

入り口からクラス全体を見渡すと

大夢(ひろむ)の所で目を止めた


「居たっ!!……」


まるで子供の様な無邪気な笑顔で

大夢(ひろむ)の元へ駆け寄って行く


「おはよ~!!大夢(ひろむ)~っ!!……

(なぎさ)ちゃんに月咲(つかさ)ちゃんもっ!!……

1週間ぶりだねぇーっ!!……」


彼のテンションとは裏腹に

3人は軽い挨拶で答えた


在り来たりな挨拶だが

彼にとっては特別なのだろう


表情は笑顔に溢れていた



ニコニコ笑顔の中

月咲(つかさ)の声色に疑問を感じたのか

質問を投げかける金髪の男子生徒


「あれ?月咲(つかさ)ちゃん元気無い?……」



「別に~……そうでもないけど?……」



「笑顔は元気の源だよ?……

笑う門には福来たるってねっ!!……」


笑顔を振り撒く金髪の男子生徒


大夢(ひろむ)はスマホから目を離さずに、そっと指摘した


「それ、ちょっと使い方違うぞ?……」



「あれ?……そうだっけ?……」



この無駄にキラキラしたオーラを纏っている

男子生徒の名は王子(おうじ) 陽太(ようた)17歳


高校生ながら

某有名雑誌の専属モデルとして働いていて

最近ではテレビとかにもちょくちょく出てる

この学校の有名人だ


ド天然モデル 王子(おうじ) 陽太(ようた)


日本人離れしたスタイルと

見た目からは想像出来ない愛嬌ある天然っぷり


しかし、通う学校は超進学校


そのギャップが人気の要因らしい



陽太(ようた)を加えた大夢(ひろむ)月咲(つかさ)(なぎさ)の4人は

和気藹々とした雰囲気で談笑を続けていた



すると、そこへ

ひっそりと乱入してくる人物が1人



それは、いつの間にか復活していた隆治(りゅうじ)だった


「くぅらぁ~っ!!陽太(ようた)~っ!!……

俺への挨拶は無しか~っ!!」



「あっ、隆治(りゅうじ)~っ!!……どこ居たの?……」



「ずっと居たわっ!!……

永遠のライバルであるこの俺様を無視するとは……

いい度胸だなぁ……陽太(ようた)……」


陽太(ようた)の前に立ちはだかり

戦線布告する隆治(りゅうじ)だったが


俯瞰(ふかん)で見ていた大夢(ひろむ)

冷静にツッコミを入れた


「気づけ隆治(りゅうじ)……

同じ土俵にすら上がれてないぞ?……」



「うるせぇっ!!大夢(ひろむ)っ!!……

こうなったら、腕相撲で勝負じゃぁ~っ!!……」


いきなりの宣戦布告


そして、理解不能な勝負内容に

大夢(ひろむ)は呆れ果て小さくため息を()いた


同じく、宣戦布告を俯瞰(ふかん)で見ていた(なぎさ)

呆れた表情で指摘した


「何で腕相撲なの……」


隆治(りゅうじ)は自信満々な表情で答えた


「男の勝負だ……口出し無用っ!!……」


完全に呆れ果てている大夢(ひろむ)(なぎさ)



しかし、陽太(ようた)は違った



隆治(りゅうじ)と同じくらい

いや、それ以上のテンションで

腕相撲にやる気満々になっていた


「いいねぇっ!!やろうやろうっ!!……

月咲(つかさ)ちゃん?審判お願い……」


いきなり、審判役を振られた月咲(つかさ)

驚きながら自分を指差した


「え?私?……」



「そうだよ?……後、机も貸して?……」



「………別にいいけど……」


月咲(つかさ)が立ち上がると、その席に隆治(りゅうじ)が座り

向かいの席に陽太(ようた)が座った


机の中央でガッチリと組まれる両者の手


それを両手で包み隠す月咲(つかさ)


朝から何してんだ?……私……


「まぁ、いいや…………じゃあいくよ~っ………

レディー…………ゴーッ!!」



暖かい陽の光が差し込む2-A


窓際の席で繰り広げられる世紀の一戦に

皆の注目が集まっていた


1人スマホを覗く彼以外の


朝から何やってんだ……こいつらは……


視線は向けないものの

一応気になってはいる様だ



そんな大夢(ひろむ)の隣で始まった大一番


「「おぉぉぉぉっ!!……」」


気合いの入る両者だが

やや隆治(りゅうじ)が優勢の様だ


来た来た来たぁ~っ!!……このまま一気に……


しかし、その思惑を打ち砕く一撃が隆治(りゅうじ)を襲う


不意に背後から脇腹へ攻撃が飛んでくる


その一撃が虚を突かれた隆治(りゅうじ)の優勢を奪った


「ひょっ!!……」


一瞬の隙を突かれた隆治(りゅうじ)


その後は想像通り抗う術は無く

腕を机に叩きつけられてしまった



戦いが終わり

喜びを爆発させる陽太(ようた)


「やったぁ~っ!!……勝ったぁ~っ!!……」


意味もなく

クラスメイト達に握手をして回っていた


まるでコンサート中の演歌歌手の様に



一方、隆治(りゅうじ)は納得のいかない様子だった


「なっ、待てっ……今のはっ……」


だが、陽太(ようた)

隆治(りゅうじ)の話など全く聞いていない


勝った喜びを月咲(つかさ)と分かち合っていた


「危なかったぁ~……負けるかと思ったよ~っ」


月咲(つかさ)の手を両手で握り

嬉しさを爆発させる陽太(ようた)に対し


ドライな対応を示す月咲(つかさ)


「あっ、うん……良かったねぇー……」



「凄いでしょ?月咲(つかさ)ちゃんっ!!……

負けたかと思ったんだけどさぁー……」



「はいはい……凄いですねぇ~……」


勝利ムード一色の陽太(ようた)を見て


抗議しても無駄だと諦め

すぐさま振り返った隆治(りゅうじ)


「なぎっ!!……」


しかし、振り向いたその鼻先へ

(なぎさ)のデコピンが綺麗にヒットした


「いてっ!!……何すんだよっ!!……」



「命、救ってあげたんだから……

大人しく負け、認めときなさい……」



「はぁ?……」


訳の分からない言葉に隆治(りゅうじ)は困惑気味だ


困惑する隆治(りゅうじ)を見て(なぎさ)は軽くため息をつくと

隆治(りゅうじ)の影に隠れながら

教室の入り口の方を指差した


「あのまま勝ってたら……

あんた、向こうの子達に殺されてるわよ?……」


(なぎさ)の指差す先


そこには、入り口付近にたむろする女子生徒達


熱狂的な陽太(ようた)ファンの様だ


そして、隆治(りゅうじ)に向け

とんでもない殺気を放っていた



隆治(りゅうじ)はその現状を目の当たりにし、恐怖していた


「え?……何あれ……」


恐れ(おのの)隆治(りゅうじ)の陰で

頬杖を着き、小声で答える(なぎさ)


「腕痛めたらどうするんだぁ……とか……

陽太(ようた)君の手に傷痕が出来たら、

どう責任取るつもりだぁ……とか………

血祭りに上げられそうじゃない?……」



「えぇぇ~……腕相撲だけで殺されるの?俺…」


イケメンって………イケメンって……


入り口の様子を伺う限り

どうやらその予想に間違いはなさそうだ


幸い、陽太(ようた)の喜ぶ姿を見て

彼女達の纏う殺気が薄れていくのを感じた



不幸中の幸い


とでもいうのだろうか



彼女達の薄れゆく殺気に

隆治(りゅうじ)は生唾を飲み込んだ


女って……怖い……


恐怖に慄く隆治(りゅうじ)を尻目に

一応審判に命名された月咲(つかさ)が判定を下した


なんか、一瞬不自然だったけど……


「勝者、陽太(ようた)~っ……」



「いや~ありがとうっ!!……

今日は良い1日になりそうだよ~っ……

ありがとっ!!……ありがとうみんなー!!……」


オーディエンスに笑顔を振りまく陽太(ようた)


喜ぶ陽太(ようた)を放置し、

月咲(つかさ)隆治(りゅうじ)の下へ向かった


「ほら、隆治(りゅうじ)……

終わったんだから、どいてよ〜……」


しかし


不条理な現実を受け止め切れない隆治(りゅうじ)


傷心し切っていて

席に(うずくま)って動けなかった


「………待って……今、(こころ)が……」



(こころ)?……何言ってんの?………」


灰となった隆治(りゅうじ)を何とか動かそうと

試行錯誤を繰り返してみるも、動かない


「もう早く〜……先生来ちゃうってぇ~……」



「俺は惨めな男さ……あぁ、そうさ……」



「………何言ってんの?……」


なかなか動かない隆治(りゅうじ)に呆れ顔の月咲(つかさ)


すると


再び()かそうとする月咲(つかさ)の言葉を遮る様に

意外な方法で例の人物が姿を現した



背後から聞こえてきたのは陽太(ようた)の声


「あれ?月咲(つかさ)ちゃん……背、伸びた?……」



「ん?…!!?……」


陽太(ようた)の声に

振り返ろうとした月咲(つかさ)


だが、振り返る前に来た、背中にのしかかる重みに

振り返る事が出来なかった


ふと、首の辺りに見えたのは陽太(ようた)の腕


後ろから抱き締められている事に

その時、初めて気付いた



まるで、おんぶをせがむ子供の様に

月咲(つかさ)の頭上に顎を乗せ

リラックスした表情を浮かべている陽太(ようた)


「ん~……伸びた様な、伸びてないような~……

微妙な感じだなぁ~……」


予期せぬ陽太(ようた)の行動に

教室中の空気が固まっていた


陽太(ようた)だけが

止まった(とき)の中を自由に動き回ることができた


「あっ、シャンプーのいい匂いがする~っ……

ねぇ、どこのシャ!!……」


会話の最中


横から覗き込もうとした陽太(ようた)の顔に

月咲(つかさ)の強烈な肘打ちが炸裂した


クリーンヒットした一撃


まるでボクサーの様に

陽太(ようた)はゆっくり背中から倒れていった


床で目を回す陽太(ようた)

顔を真っ赤に染め上げた月咲(つかさ)

怒号を撒き散らしていた


「いいっ!!いきなり何すんだぁっ!!………

シャンプーはっ!!あれでっ!!そのっ!!……アホかぁっ!!」


大混乱の為か

いつも以上にボキャブラリーが少なくなる月咲(つかさ)



床で目を回す陽太(ようた)


顔を真っ赤にして焦る月咲(つかさ)


一連の流れを見てもう1人

撃沈している者が居た


「天然って……天然って〜っ!!……」


怒る月咲(つかさ)の背後で隆治(りゅうじ)は涙していた


この世の不条理を受け止めきれずに



(なげ)く隆治を見て、あまりに可哀想に思えたのか

そっと(なぎさ)が背中を撫でていた


「あんたがやったら……

即、私が血祭りだけどねぇ~……」


手で顔を覆い、落胆する隆治(りゅうじ)


「言葉と行動が一致してねぇ~よ~っ………

(なぐさ)めてんの?……(けな)してんの?……」


朝礼までの数分間


そこで起きた珍事件



クラス中が息を飲む中

大夢(ひろむ)だけは自身のスマホに集中していた


なるほど……こんな感じかぁ~……


怒りと、緊張と、恥じらいと

様々な感情が入り乱れ、息が乱れ始める月咲(つかさ)


思考回路は大渋滞を起こしていた



しばらくして

陽太(ようた)が意識を取り戻し、起き上がった


「はっ!!……ひっ、ひどいなぁ…月咲(つかさ)ちゃん…

いきなり、肘打ちなんて……」



「うっさいっ!!……

元はと言えば自分のせいでしょっ!!……」



「いや、待てよ?……

考えようによっては良い経験だよね~……

元全国1位の技、受けれたんだから……」


床に座り込み、自身の顎に手を添え

真剣な表情で考え込む陽太(ようた)の姿


まるで何事も無かったかの様な振る舞いを見て

月咲(つかさ)は更なる感情の渦に飲み込まれていた


「ちょっ、ちょっとは反省しろ~っ!!……」


後ろからっ、頭でっ……えぇっ?!!………

ここは欧米(おうべい)?……意味分かんないよ、もぉ~っ!!……


明らかに混乱している月咲(つかさ)


混乱がピークに達した時

彼女にはある特性があった


「コラッ、大夢(ひろむ)っ!!……」



「………何だ?……腕相撲は終わったのか?…」


そう


こういう時の矛先はいつも決まっている


「呑気にスマホなんか見やがってぇ~っ!!……

こっち向きやがれっ!!……」



「はぁ?……別に何見てたっ………て……?!!…」


やっとスマホから視線を外した大夢(ひろむ)


だが、一歩気付くのが遅かった



見上げた目の前の光景に冷や汗が1つ

ゆっくりと頬を流れ落ちていった


「………なんで?……」


そこにあったのは

目を瞑り、豪快に右腕を振りかぶった月咲(つかさ)の姿


人間、混乱すると何をしでかすか分からない


数秒前、顔をすぐに上げなかった自分を呪った



「とりあえず、死ねぇ~っ!!……」


勢い任せの右ストレート


渾身の一撃が大夢(ひろむ)の身体を吹き飛ばすと

1発KO、床にノックダウン


大夢(ひろむ)はそこからピクリとも動かなかった



その光景を俯瞰(ふかん)で見ていた(なぎさ)

大きなため息を()いた


あ~あ~……またやっちゃった………

この前も謝ってたのに……懲りないなぁ~……



その後


保健室で月咲(つかさ)大夢(ひろむ)に平謝りしている光景は

容易に想像ができた

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