〜始まりの日4〜
「よっ!!放火魔コンビっ!!」
そう、男の声が突然背後から聞こえてきた
その声に振り返ろうとした2人だったが
それを遮る様に、月咲と大夢の間に現れ
勢いそのままに2人と肩を組む男子生徒
危うく転びそうになりながら
大夢と月咲の2人は同時に男子生徒に視線を向けた
「「なんだ、隆治か……」」
「えっ!!何?そのガッカリリアクションッ!!……
シンクロしてる分、2倍に辛いんですけどっ!!……」
この、突然現れた茶髪のショートヘアに
ひょうきんな口調が特徴的な男子生徒の名は
田宮 隆治17歳
いつも口うるさいテンションの高い奴だ
見た目はまぁまぁで
身長も俺より少し高い180㎝前後
まぁ、まぁまぁで
少しチャラチャラした印象もあるが
社交的で明るい性格から、人の懐に入るのが上手い
喋らなきゃモテるのに、そんな印象の彼
本人がいつも言う自慢は
同じ学年に知らない人間は1人も居ない事
だそうだ
隆治の言葉を聞き
大夢は冷たく言い放った
「朝から隆治を見て
テンションの上がる人間が居るのか?……」
朝一番の先制パンチ
しかし、隆治には全く効果が無かった
「そういうツンデレなとこがまたいい……」
「本気で気持ち悪いぞ………
それに、その呼び方〈放火魔コンビ〉はやめろ……
俺たちが放火魔みたいだろっ……」
「んな固い事言うなよ~っ……
みんな知ってるって、2人が放火魔逮捕したの~……
有名人じゃん!!有名人!!……
ね?月咲ちゃん?……」
隆治は視線を月咲へと移す
だが月咲もまた
大夢と同じ冷たい視線を送っていた
「隆治がみんなに
言いふらしたからだけどねぇ~……」
「なんだよなんだよぉ…2人揃って手厳しいなぁ~……
本当、似たもの同士、相思相愛なんだからさぁ~…
参っちゃうよねぇー……」
この言葉に、いち早く反応したのは月咲だった
隆治の隣から大夢を指差し
怒りを露わにしていた
「はっ、はぁっ?!!……誰がこいつとなんかっ!!」
一方、大夢は
冷静に事態を分析し、言葉を返していた
「それはこっちの台詞だ……まず知能指数的に見ても、月咲より俺の方が100倍は上であって……
IQが20も違えば、まず話が噛み合わない……」
大夢の言葉に食い下がる月咲
「はぁ?……どういう意味かな?それっ!!……」
「……俺とお前だぞ?……
20で済むハズがないだろう?……」
「喧嘩売ってるよね絶対……」
「それにだ……身長、体重、性別に関してもだな…」
大夢が説明を続ける中
頬を赤らめ、慌てて言葉を遮る月咲
「ちょっ!!……何で私の体重知ってんのよ……」
「見たら分かる……よんっ!!……」
またしても言葉を遮る様に
今度は一瞬にして
月咲の正拳突きが大夢を襲った
壁際まで吹き飛ばされた大夢は虫の息だった
息を乱しながら
正拳突きを繰り出したポーズで固まる月咲
大夢は残された僅かな体力で立ち上がった
「……なっ……殴る事ないだろ……」
「ここで言うっ?!!……体重っ!!……」
怒髪衝天な月咲と冷静沈着な大夢
そんな対照的な2人に挟まれていた隆治は
笑いが止まらなかった
ホント……おもしれぇ〜っ!!……
2人を前に高みの見物で
高笑いを上げる隆治だったのだが
そんな隆治の背後から近く人影が
もう1人居た
次の瞬間
高笑いを浮かべていた隆治の頭頂部に
女子生徒用の薄くて固い手提げ鞄が
雷の如く降り注いだ
背後からの予期せぬ一撃に
気を失った隆治
フラフラとその場に倒れていく
倒れた隆治の背後から現れたのは
長く伸びた綺麗な黒髪を靡かせ
凛とした立ち姿の女子生徒が1人
「私の月咲に、気安く触らないでくれる?」
この整った綺麗な顔立ちと
長い黒髪が特徴的な女子生徒の名は
雨宮 渚17歳
女性らしいきめ細やかな白い肌に
160㎝くらいの華奢な体型
1年生の時、ミスコンに輝いた程の美貌の持ち主で
品行方正な優等生だ
※理智高等学校、元1年男子調べによる女性人気投票1位
〈理智高等学校調べ〉
が、その冷徹なまでの態度とハッキリとした性格に
影では女帝と呼ぶ人間も居るとか居ないとか
渚に気づいた月咲は元気良く手を振っていた
「渚~っ!!おはよ~っ!!…」
元気な月咲の姿を見て
渚はすぐに駆け寄って来た
先程の鋭い目付きとは打って変わって
朗らかで優しい目をしている
「月咲~っ!!大丈夫?……変な事されてない?」
「近いって渚~っ!!……」
まるで飼い猫を愛でる飼い主のように
「お~っ、よしよし〜っ……」
「くっ付き過ぎだってばぁ~……」
必死に引き剥がそうとする月咲
だが、渚は全く離れなかった
一頻り月咲を堪能した後
ふと、大夢の存在に気付いた渚
「ん?……大夢君も居たの?……」
「俺は空気か何かか?……」
「そうねぇ~……辛うじて人ではあるかも……」
お茶目に人差し指を口に当て
考えるフリをしている
見た目は可愛いもんだが
言ってる事はめちゃくちゃだ
渚と大夢が会話していると
気絶していた隆治が意識を取り戻した
頭を摩りながら、その場に座り込んでいる
「いってぇ~っ……何だ今の……」
振り返った隆治は
渚の存在に気づいた
「あっ!!お前の仕業かっ!!……」
「あら?……生きてたの?……」
「殺す気だったのかよ……」
「……はぁ~……仕方ない……」
ため息と共にそう吐き捨てると
渚は月咲から離れ、再び凄まじい殺気を放った
そして、例の鞄を天高く隆治へ掲げる
「哀れなゴミに裁きを……苦しみ無く一瞬で…」
「何の呪文だっ!!それっ!!……」
迫り来る恐怖に身の危険を感じ
すぐさま距離を取った隆治
一瞬にして近くの柱の影に隠れた
ボソッと小言を溢す
「あんなオーラ纏える奴、人間じゃねぇだろ~っ……
さすが女帝……」
それは更にオーラを倍増させる言葉となった
「今、何か言った?……完全に言ったよね……」
「やぁ~っ!!地獄耳~っ!!……」
逃げ出す隆治を見据え
オーラはそのままに渚はニヤリと笑った
「哀れねぇ……あれで逃げたつもり?……
同じクラスなの忘れてるのかしら……」
不敵に笑うその姿は鬼
いや、悪魔その物だ
2人の攻防を見据えていた大夢は
心の中で隆治の冥福を祈っていた
いい奴だった……安らかに眠ってくれ……
少し離れた2-Aクラスから
廊下にまで響き渡る怒号と悲鳴が聞こえて来た
大夢と月咲は何も言わず
静かに手を合わせていた
しばらくして
恐る恐る2-Aクラスへ入って行く月咲と大夢
案の定、入り口近くの席には
すでに生き絶えた隆治が机の上で伸びており
丁度、真反対側に位置する窓側の席には
スッキリとした表情で窓の外を眺める
渚の姿があった
窓から流れ込む心地良い風に髪を靡かせ
清々しい顔で遠くを見つめている
その場に居たクラスメイト全員が
隆治の冥福を心より祈っていた
独特な空気の中
他のクラスメイト達に軽く挨拶を交わすと
月咲は渚の前の席に
大夢は月咲の右隣の席へと腰を下ろした
月咲は腰を下ろすと
心配になったのか、そっと渚に耳打ちした
「ねぇ渚……
隆治、ちゃんと生きてるよね……」
「さぁ~?……どうでしょうねぇ~……」
月咲と渚が密談する中
大夢は席に着くとスマホを取り出し
画面をスクロールし、熟読し始めた
真剣な眼差しで
食い入る様に画面を見つめている
その様子を隣の席で見ていた渚
月咲がヒソヒソと話している中
ふと、話題を切り替えた
「それより……このままでいいの?月咲……」
「え?……何が?……」
「せっかく、また同じクラスになれたのに……
もうひと月経っちゃったよ?……」
そう言う渚の視線は
スマホに夢中な大夢に向けられていた
月咲は呆れた様に呟く
「だ~か~ら~……
あいつはそんなんじゃないって……
産まれた時から隣に住んでる、ただの腐れ縁……」
だが、こちらはそう思っていないらしい
まるで、政治家が演説するかの様に
雄弁と語り出した
「それって凄い確率だと思わない?月咲……
同じ年に産まれ、家もお隣さんで……
小学校、中学校、高校まで一緒なのよ?……
日本中探し回っても、少ないと思いませんか?皆さんっ…」
「誰に聞いてんの…………
そっ、その辺に居るって……それくらい…………
あいつとは何もないからっ……」
「いじけちゃって~……」
「いじけてなんかないっ!!……」
膨れっ面を浮かべ、目を逸らした月咲
そのまま机に伏せてしまった
そんな月咲を
母親様な目で見つめていた渚
それを……いじけてるって言うんだよ?……
後ろで渚がクスクスと笑う中
月咲は腕の隙間から
横目で大夢を見つめていた
あいつは……そんなんじゃないもん……
昔からずっと隣に居る存在
最早、家族にも近い存在になりつつある大夢
隣に居るのが当たり前で
それについてどうこう考えた事も無い
月咲にとって大夢は
そういう存在なのだ
月咲がボーッと見つめていると
その気配に気づいたのか
スッと大夢の視線がこちらを向いた
「何だ?……」
月咲は慌てて
腕の中へ顔を隠した
「なっ、何でもないわっ!!……」
………このやろぉ~っ……
なんで今こっち見るかな〜……
うずくまる月咲を
不思議そうに見つめる大夢
疑問の表情を浮かべていたが
また、スマホの画面へ視線を戻していた
何事も無かった様に時が流れて行く
2人にとってはいつもの日常
そんな2人の背中を
渚は微笑ましく眺めていた
渚が微笑ましい表情を浮かべていたその時
廊下の方から
女子生徒達の黄色い声援が聞こえて来た