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天才は使い方次第で神にも凡人にも成る  作者: 田代 秀隆
報告書2〜物語の主人公〜
30/30

〜物語の主人公6〜

ドッドッドッドッっと

足早に階段を駆け上がり

廊下を曲がった先にある自室の扉を勢い良く開いた



月咲(つかさ)の部屋のレイアウトは6畳程の広さに

シングルベットと備え付けのクローゼット


奥には可愛いキャラクター人形などが飾られた

ガラス張りの飾り棚があり

中には空手のトロフィーなどが飾られている


部屋の中央には丸いローテーブルと大きなラグが敷かれ

全体的に白を基調とした

何とも女子高生らしい部屋になっていた



自分の部屋を見渡し驚愕する月咲(つかさ)


扉を開け、その目に映ったのは

自分のベットの上に寝そべりながらスマホを触る

リラックスしたジャージ姿の大夢(ひろむ)だった


ちなみにジャージは

風呂に入っている間に愛夢(あゆ)が持って来た形だ



月咲(つかさ)は開口一番

そんな大夢(ひろむ)を指差し、声高らかに指摘する


「もうちょい躊躇(ためら)えっ!!……

……くつろぎ過ぎでしょ!!……」


月咲(つかさ)の宣言に

大夢(ひろむ)はベットに寝そべったまま堂々と答えた


「まぁ、そうだな……

……座って待つのが一般的だな……」



「鏡見せてやろうか?……今、ここで!!……」


文句を言ってやりたい気持ちは山々だが

小言を言ってても仕方ないので、とりあえず荷物を置き

部活用のエナメルバックから汚れた練習着などを取り出す


お風呂に入る準備をしながら月咲(つかさ)

ボソボソと会話を続けた


「……てか、何で今日居るの?……バイトは?……」


大夢(ひろむ)は相変わらず

ベットの上で寝そべり、スマホを操作しながら答えた


「仕事は予定通り終わった……

ここに居る理由は………まぁ、話せば長くなるんだが………」


大夢(ひろむ)聖子(しょうこ)から聞いた理由を

月咲(つかさ)に説明した



なぜ隣の天野(あまの)家にお邪魔する事になったのか


それは愛夢(あゆ)菊地(きくち)家のお風呂清掃中

誤って足を滑らせ、肘打ちでお風呂場の電子パネルを破壊


操作ができず、お湯が出せない状況になってしまった


サポート会社に連絡するも今日中の修理は難しく

一旦は外部の入浴施設なども考えたが

丁度、聖子(しょうこ)と連絡を取り合っている最中で

どうせならと、聖子(しょうこ)が家に招待した形となる



事の顛末を聞いた月咲(つかさ)


「らしいと言えば…らしいけど……

……怪我なく元気そうだったから、まぁいっか……」



「らしいと思われてる時点で、どうだかなぁ……」


大夢(ひろむ)はそう呟きながら身体を起こし

ベットの淵に座る


相変わらずスマホは操作したままだが、言葉を続けた


「課題はできたのか?……」


練習着を抱える月咲(つかさ)を見て

そう質問を投げ掛けた


月咲(つかさ)は、更に部屋着も抱え上げ、言葉を返す


「まぁ、一応……その後、自主練だけして

………え?……なになにぃ?……

もしかして一緒にご飯食べたかったの?……」


ニヤニヤしながら冗談混じりに月咲(つかさ)が返すも

大夢(ひろむ)は微動だにせず、冷静に答えた


「冗談は寝て言え……

部屋(ここ)で食べるんなら邪魔になると思っただけだ…」



「その言葉、そっくりそのまま返すからっ……

1分前の姿、写真撮っとくべきだったわ……」


いつものやり取りをしながら

月咲(つかさ)は2階へ向けて歩き出した


「じゃあ、まっ……ごゆっくり〜っ……」


そう言い残し、自室の扉を閉め

階段に向かって歩き出す


階段の手前まで来ると

部屋着を抱き締める腕にグッと力が入った


普通寝る?!!……他人(ひと)様のベットで!!……

……ましてや私は(おんな)だぞ!!……

男友達の家でもあるまいしっ!!……


大夢(ひろむ)の前では悟らせない様我慢していたが

怒りと少しの羞恥心を入り混ぜながら

階段を降りて行く月咲(つかさ)


先程の大夢(ひろむ)がベットに寝そべっていた光景が

フラッシュバックする


部屋入られてドギマギしてた私がバカみたいじゃん……

あんま、そういう風に見られて無いのかなぁ……

……って!!…何の心配してんだ私っ!!……


頭のモヤを振り払う様に、首を左右に大きく振る月咲(つかさ)


考えても仕方がない


一先ず、練習着を脱衣所へ置き

軽くシャワーを浴びて入浴を済ませると

部屋着に着替え、リビングの方へ食事に向かった



リビングへ向かったものの

そこは大夢(ひろむ)月咲(つかさ)の両親達で

どんちゃん騒ぎとなっており

とてもじゃないが

ゆっくり食事ができる様な状態ではなかった


その光景を見て呆れ果てる月咲(つかさ)


……あれまぁ………はっちゃけてるなぁ……


その時、母、聖子(しょうこ)から

お盆とその上に食事が盛り付けられた

ワンプレートを手渡され

結局夕食は自室で食べる事となってしまった



食事を手に

重い足取りで自室へと向かう月咲(つかさ)


心なしか

階段を登る足も、自室の扉も重く感じていた



お盆片手に

重く感じる扉を開けた月咲(つかさ)


大夢(ひろむ)〜……

やっぱこっちで食べること……に……」


そう言って部屋を覗くと

大夢(ひろむ)がまた、自分のベットに横になっていた


ガックっと肩を落とす月咲(つかさ)


「またかいっ………」


……ツッコむ気力も失せたわ……


だが、再び大夢(ひろむ)の方へ視線を向けると

先程と少し様子が違っていた


仰向けに堂々と寝ているわけでもなく

スマホも触っていない


様子の違う大夢(ひろむ)を見て

そぉーっと部屋に入る月咲(つかさ)


夕食が乗ったお盆をテーブルの上にそっと置き

恐る恐るベットの方へ近づいて行った


近くまで来ると

口に手を当て、ゆっくり大夢(ひろむ)の顔を覗き込む


……うそぉっ………本当に寝てる………


月咲(つかさ)のベットの上で横になる大夢(ひろむ)

今度は本当に安らかに眠っていた



寝落ちしてしまったのだろうか


スマホも手から少し離れた位置に落ちている


下では両親達が、どんちゃん騒ぎしているが

起きる気配は微塵も感じない



月咲(つかさ)は物珍しそうな顔で

大夢(ひろむ)の寝顔を覗き続けていた


えぇ〜っ……(めずら)しっ……

大夢(ひろむ)でも、寝落ちとかするんだぁ……


物珍しい事もあってか、かなりの近距離から

無防備、無抵抗な大夢(ひろむ)の寝顔を

ジーッと見つめる月咲(つかさ)


顔見る度に、いつも小言(こごと)言ってくるけど……

……こうして寝てると……意外に可愛げがあったり……


本当に無意識だった


そう言って大夢(ひろむ)の頬に

自然と手を伸ばしている自分がいた


何かの拍子に間違いが起きそうな至近距離


そっと頬に添える手


その姿はまるで



その瞬間


背後から声が聞こえて来た


「…………何……やってんの?……」


心臓が飛び出そうになる月咲(つかさ)


頬に触れていた手をサッと引き

慌てて、声が聞こえた部屋の入り口へ顔を向けた



そこに立っていたのは

黒髪ポニーテールに、紺のセーラー服姿


どことなく母、聖子(しょうこ)に似た顔立ちで

テニスラケットと黒いリュックサックを背負った

中学生くらいの少女が立っていた


月咲(つかさ)

跳ね上がった心拍数を抑える様に一呼吸置く


「……さっ!!…彩月(さつき)かぁ……

急に声掛けるからビックリしたじゃん、もぉ……」



部屋の入り口に立つこの少女の名は


天野(あまの) 彩月(さつき) 15歳


昔、大夢(ひろむ)月咲(つかさ)が通っていた

地元の公立中学に通う3年生


そして、月咲(つかさ)の妹だ



彩月(さつき)怪訝(けげん)な顔付きで言葉を返す


「お姉ちゃん……

流石に寝てる人襲うのは、どうかと思うよ?……」


月咲(つかさ)は慌てて反論した


「おっ、襲ってないわっ!!……

人聞きの悪い事言わないでっ!!……」


慌てて反論する月咲(つかさ)だが

今の状況は、言い逃れしにくい状況ではある


月咲(つかさ)があたふたしている中

彩月(さつき)はヅカヅカと部屋に入って来ると

慌てる月咲(つかさ)の前に仁王立ちし

寝ている大夢(ひろむ)を指差しながら、高らかに宣言した


「お姉ちゃんっ!!……こんな(やつ)のどこがいいの?!!……

こんなに可愛い妹が居るのにさっ!!……」


彩月(さつき)のプレッシャーに

押し切られている月咲(つかさ)


「えっ、いや………えっ?……」


だが、彩月(さつき)の勢いは止まらない


「そんな至近距離でジロジロ顔見てっ!!……

寝てるからって顔なんか触れちゃってさっ!!……

なんか、流れでキスでもしようかって雰囲気が……」


(まく)し立てる様に

先程の状況を客観的な言葉で表現されていく


改めて言葉にされると

如何(いか)に自分の取った行動が大胆なものだったか

容易(ようい)にイメージできた



恥ずかしさが倍増していく月咲(つかさ)


耐えられなくなったのか

部屋に入って来た彩月(さつき)を廊下へ押し返しながら

反論した


「わっ、分かったからもぉっ!!………

言葉にするなっ!!…出てけぇ〜っ!!……」


月咲(つかさ)の力に抗えない彩月(さつき)


「ちょっ、お姉ちゃんっ!!……

…‥話はまだ終わってっ……」


彩月(さつき)を部屋から追い出すと

扉を閉め、背中で押さえてドアロックをし

荒れた息を整える月咲(つかさ)



一方、廊下の方では扉を叩き

彩月(さつき)が声を荒げていた


「こら〜っ!!……出て来なさーいっ……

そんな事してもお母さんが悲しむだけだぞーっ!!……」


扉の向こうから聞こえる彩月(さつき)の声をBGMに

眠る大夢(ひろむ)に視線を向けた月咲(つかさ)


立て()もり犯か、私は……

………全部……大夢(ひろむ)が寝てるせいだ……

……起きたら許さんからな……


だが、大夢(ひろむ)は眠ったままだ


これだけ騒いでも起きないのだから

相当疲れているんだろうと月咲(つかさ)は思った


まぁ……今日は色々あったもんね……


しばらくして

背後の彩月(さつき)が諦めたのを確認すると

テーブルへ移動し、静かに夕食を摂ることにした




それから数時間が経った頃


ベットの上でパッと目が覚めたのは大夢(ひろむ)


上半身をゆっくり起こしながら小さく呟いた


「……完全に寝てたな…………?!……」


寝起きとは思えない覚醒の良さだが

身体を起こした時、視界の端に何かを捉えた


「…………月咲(つかさ)?……」


視線の先には

ベットの(ふち)で眠る月咲(つかさ)の姿があった


起き上がった時にも気付いたが

丁寧に自分に掛けられた布団を見て

大夢(ひろむ)は自分の犯した過ちに気づいた


…‥あのまま寝落ちしたのか……

しかも、月咲(つかさ)のベットで……とか……

………疲れてるな…‥これは……


目頭(めがしら)を押さえ、下を向く大夢(ひろむ)



とりあえず、目の前の月咲(つかさ)を起こそうと

肩に手を伸ばし、優しく揺さぶった


月咲(つかさ)っ!!……起きろ〜………

………寝て悪かった………おーいっ………」


初めは優しく揺さぶる大夢(ひろむ)だったが

揺らせど、揺らせど、うにゃむにゃ言うだけで

一向に起きない月咲(つかさ)


終いには揺さぶる大夢(ひろむ)の手を捕まえて

枕代わりに使おうとする始末


そんな月咲(つかさ)の寝顔を見て大夢(ひろむ)は思う


………無防備過ぎるだろ……


一抹の不安と、少々の(いと)おしさを感じたものの

仕方がないのでベットで横にさせる事にした


まずは、月咲(つかさ)を起こさない様に

ベットから起き上がると

慣れない手つきではあるが

月咲(つかさ)の身体をお姫様抱っこで

持ち上げようと試みる


非力な腕力と、ぎこちない動きに

脳内でメフィが茶化して来た


『‥‥運動神経悪過ぎない?………

男なのに、だらしないね……』



うるさい………身体持ち上げるのに

運動神経関係ないだろっ……


不器用ながら

なんとか身体をベットに乗せる事に成功した大夢(ひろむ)


風邪を引かない様に布団を掛け直していた時


ここでふと、背後に視線と気配を感じた



(おもむ)ろに振り返ると

部屋の入り口扉が少し開いており

その隙間から覗く2つの顔が見える


大夢(ひろむ)は呆れ顔で呟いた


「………何やってんですか?……」


顔を覗かせていたのは

月咲(つかさ)の母、聖子(しょうこ)と妹の彩月(さつき)


聖子(しょうこ)はニヤニヤした表情で答える


「……合格っ!!………よっ!!良い男だねっ!!……」


隣の彩月(さつき)怪訝(けげん)そうな顔つきだった


「ふんっ!!………最低限ねっ!!……」


そう言って、その手には包丁を握っていた



それを見て大夢(ひろむ)は、また呆れ顔を浮かべた


「なに持ってんだっ……それっ……」


その説明は母、聖子(しょうこ)が行った


「あー、これね?………

ヒロちゃんも年頃だしっ……男の子でしょ?……

もしも何かあったとしたら……と……」


そう説明する聖子(しょうこ)の手にも

包丁が握られていた


呆れ顔から頭を抱える大夢(ひろむ)


「何やってんですかっ……2人も揃って……」


……聖子(しょうこ)さんも酔ってるな、これは……


まだ、部屋の外から聞こえる酒盛りの声


隙間から覗く聖子(しょうこ)の赤らんだ顔と

いつもと少し違う雰囲気に、そう感じていた


ため息と共に、ふと視線を月咲(つかさ)に向け

考える大夢(ひろむ)


……まぁ……どうなんだろうな……



人知れず、命の危機を脱した大夢(ひろむ)


結局その日は、明日も休みだった事と

聖子(しょうこ)の承認もあったことから

月咲(つかさ)の部屋で泊まる事になった



月咲(つかさ)が目を覚ました時


どんな朝を迎える事になったのか


それはまた、ご想像にお任せしよう



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