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天才は使い方次第で神にも凡人にも成る  作者: 田代 秀隆
報告書2〜物語の主人公〜
29/30

〜物語の主人公5〜



電車、バスに揺られながら

大夢(ひろむ)は今回の一件について考えていた



近年、半グレと呼ばれる犯罪者集団の話を

耳にする事はあるだろうか


暴力団とは別で

普通の学生や若い社会人などが集まり

詐欺、強盗、恐喝など、グループ犯罪に手を染める

社会問題の1つにもなっている



情報社会の昨今

顔の見えない繋がりがどんどんと増え

広がっていく時代背景が

そう言った集団を生み出している


大夢(ひろむ)は、そこに当たりを付けていた


学生の犯罪者集団………あり得るな……

その辺りも視野に入れて、全体を把握しないと……


ある程度、考えが落ち着いた頃


ふと目を見上げると

いつの間にか自宅前まで辿り着いていた様だ


顔を上げた時

自宅の電気が点いていない事に気付いた


…………まだ帰ってないのか?……


その時、スマホが振動した


連続で震えるバイブ音に電話だとすぐに分かった


スマホを手に取ると

画面には母親、愛夢(あゆ)の文字が


通話ボタンを押し、電話に出た


「……母さん?……どうかした?……」



〔あっ、大夢(ひろむ)?……今どこに居るの?……〕



「家だけど……」



〔あら?メール届いてなかった?……

おかしいわねぇ~……〕


電話越しに聞こえる母、愛夢(あゆ)の声


大夢(ひろむ)は、その声色で気づいたことがあった


………酔ってるな?……これは……


大夢(ひろむ)が声色から考察をしていると

愛夢(あゆ)の電話口から

父、大誠(たいせい)の声も聞こえて来た


〔母さん……ちゃんと送信ボタン押したのか?……〕



〔………あっ!!……さすがお父さんっ!!……

私の事ならなんでも分かるのねぇ~っ!!〕



〔こっ、こら…人前でそういう事言うんじゃない……〕



〔ヤダもぉっ!!お父さんってばぁ~っ!!……〕


電話口で繰り広げられる

愛夢(あゆ)大誠(たいせい)の会話


段々と逸れていく話に

大夢(ひろむ)は痺れを切らし、口を挟んだ


「こら、バカ夫婦……先に要件を言え……」



〔あっ、ごめんごめん……

もぉ~っ…そんなに怒らないでよ〜っ……

家なんでしょ?……だったらお隣おいで?……〕



「隣?……」



〔そう、天野(あまの)さん家っ……〕



「………そう言うことか……」


その言葉を最後に、大夢(ひろむ)は電話を切った



全てを察した大夢(ひろむ)


左隣の天野(あまの)家へ

つまりは、月咲(つかさ)の家へ足を運んだ



天野(あまの)家の邸宅は

一階部分が小さな書店となっている


営業時間は朝の9時~夕方の6時まで


ここら一帯では根強い人気で

各言う大夢(ひろむ)も、常連の1人である


この書店の売りとしては

何と言っても予約宅配サービスだ


駅前の大型書店に

在庫や品揃えで勝てるはずもない


だが、ここは事前に電話予約していれば

在庫が入り次第

送料無料で営業時間後に家まで届けてくれる


これが、この地域一帯のお年寄りや

仕事の忙しい読者のニーズにはまり

口コミで町の本屋さんとしての地位を確立していった



大夢(ひろむ)は1階書店の脇にある

自宅玄関用の階段を登り、2階の玄関扉へ歩みを進めた



階段を登り切り、玄関扉の前に着くとチャイムを鳴らす


しばらくすると

ゆっくりその扉が開かれた



開いた扉から現れたのは母親の愛夢(あゆ)ではなく

後ろに束ねた、腰まで伸びる長い黒髪と

黒縁メガネが特徴的な知的な女性


「いらっしゃい……ヒロちゃん……」


そう言って優しく微笑んでいた



この人の名前は

天野(あまの) 聖子(しょうこ) 38歳


月咲(つかさ)の母親だ


そして、例の書店の経営者でもある


さっき説明した書店の売りにもう一つ加えるとしたら

この人の人徳が大きな要因だろう



聖子(しょうこ)を見るや否や

大夢(ひろむ)は深々と頭を下げた


「いつも(はは)がお世話になってます……」


聖子(しょうこ)もそれに合わせる様に

深々と頭を下げた


「こちらこそ……お世話になってますっ……」


よそよそしいやり取りを交わしているものの

2人は小さい頃から深い面識がある


大夢(ひろむ)が産まれた頃から

一緒に成長を見守って来た、第二の(はは)の様な存在だ


聖子(しょうこ)は、挨拶を終えるとクスッと笑い

大きなため息と共に言葉を溢した


「はぁ〜………いつもヒロちゃん見てると……

……ウチの子らとはホントっ!!…大違い……」



「そうですか?……

月咲(つかさ)も大分と落ち着いたと思いますけど……」



「そうだと良いんだけどねぇ……

学校ではどう?あの子……ちゃんとやれてる?……」



「勉強以外では楽しくやってると思いますよ?……」



「その勉強なのよー…‥心配なのは……

ヒロちゃん追いかけて理高に通ったは良いけど……

テストの度に補習だったり課題だったりで

落ち着きがないと言うか……」


玄関先で聖子(しょうこ)と話し込んでいると

愛夢(あゆ)の声が聞こえて来た


大夢(ひろむ)~っ!!ご飯あるわよ~……食べる~っ?……」


玄関から続く廊下の先にリビングの入口があり

愛夢(あゆ)が顔を覗かせている


更にその背後から

父、大誠(たいせい)も顔を覗かせた


「風呂なら早めに貰っておけよ?……

もうすぐ娘さん達が帰って来るそうだから……

………間違っても覗くなよぉ~っ!!……」


意気揚々と語る両親の手には

揃って缶ビールが握られていた


大夢(ひろむ)は一瞬言葉を失うも

また、深々と聖子(しょうこ)に頭を下げた


「………本当、ウチの子らがお世話になってますっ……」


親から子へ格下げの様だ


聖子(しょうこ)は、またクスクスと笑いながら

大夢(ひろむ)を中へと招き入れた



案内されるがまま玄関先で靴を脱ぎ

天野(あまの)家のリビングへ向かう


玄関から少し廊下を歩いた先に

両親が顔を覗かせていたリビングの入り口があった


そこからリビングを見渡すと

すぐ目の前には4人掛けのダイニングテーブルがあった


手前2席は、ほろ酔い状態の両親が

ゲラゲラと笑いながら食事を楽しんでいる


奥の席にもう1人


赤髪短髪の筋骨隆々のたくましい身体つきの男性が

同じく缶ビール片手に、ほろ酔い状態で座っていた


赤髪の男性は大夢(ひろむ)に気づくと

豪快な声で話し掛けて来た


「おおっ!!ヒロちゃん!!……来たかっ!!……」


大夢(ひろむ)は、その赤髪短髪の男性を見るや否や

また深々と頭を下げた


「………ウチの子らが、お世話になっております……」



「ウチの子?……ハハハッ!!そういうことかっ……」


豪快に笑う、この男性の名は

天野(あまの) 賢太郎(けんたろう) 40歳


月咲(つかさ)の父親だ


駅前でスポーツジムを経営しており

こう見えても、代表取締役社長である


小さい頃から、めちゃくちゃジム会員に勧誘してくる

熱い男だ



賢太郎(けんたろう)は缶ビールを飲み干すと

豪快に机の上に置いた


「こんな時間までバイトしてたら腹減るだろっ……

風呂の前に、こっちで先食べちゃいなっ……」


そう言って賢太郎(けんたろう)

大夢(ひろむ)を自分の隣の席へ促す


「じゃあ…‥お言葉に甘えて……」


言われるがまま、大夢(ひろむ)が歩き出そうとしたが

すかさず大誠(たいせい)が、それを阻止した


歩き出した大夢(ひろむ)の前に手を差し出し、制止すると

缶ビールを持つ手で賢太郎(けんたろう)を指差し

机を挟んで高らかに宣言する



大夢(ひろむ)をそそのかす気だな?……

………ウチの息子は筋肉に興味は無いっ!!……」


酔っているからか

いつもより饒舌な大誠(たいせい)


賢太郎(けんたろう)も負けじと応戦した


「身体を鍛える事にデメリットは無いぞぉ?……

俺直々の無料パーソナリティ付きだっ!!……

破格の条件だろぉ?………」



「何が破格の条件だっ!!……

そうやって大夢(ひろむ)を洗脳する気だなっ!!……」


テーブルを挟んで白熱する議論?


後ろで大夢(ひろむ)は冷めた目でその議論を見つめていた


両方酔ってるな……これは……

……いつから飲んでたんだ………


呆れる大夢(ひろむ)そっちのけで

2人の歪み合いが始まった



お隣同士とはいえ、親戚でもない2人が

ここまで(さら)け出した会話ができるのには

少し理由(わけ)がある


16年前、俺がまだ産まれて間もない頃

今の家に引っ越して来た


近所への挨拶の為、隣の天野(あまの)家へ

そこでお互いの存在を知る事となった


大誠(たいせい)賢太郎(けんたろう)

中学、高校の同級生だった


タイプの違う2人だが

中高は同じグループで青春時代を過ごし

高校卒業後はそれぞれの道を歩き出した


会う頻度も減っていた様だが

引越しを機に再会

お互い家庭を持ち、変わった所もあるが

あの頃の関係は今でも健在の様だ


それから、16年の付き合いになる



大夢(ひろむ)が呆れ顔で事態を見守っていると

リビングに聖子(しょうこ)が戻って来た


「あらら……またヒロちゃんの話?……」


聖子(しょうこ)の声を聞き

愛夢(あゆ)が振り返った


聖子(しょうこ)ちゃん……

………このおつまみ美味しいわぁ〜……

どうやって作ったの?……」


こちらも、ただの酔っ払いの様だ



戻ってきた聖子(しょうこ)

愛夢(あゆ)の相手をしながら大夢(ひろむ)に呟いた


「先にお風呂にする?……

3人とも、明日仕事が休みだからって羽目外し過ぎてるの…

……ご飯もゆっくり食べたいでしょ?……」


両親のあられのない姿に

呆れ切って言葉も出ない大夢(ひろむ)


打って変わって聖子(しょうこ)

微笑ましく、その光景を見つめていた



大夢(ひろむ)は何とか正気を取り戻し

電話を受けてから感じていた疑問を

聖子(しょうこ)へ投げ掛けた


「お風呂までは流石に………

………そもそも何ですけど………

何でお邪魔することになったんです?……」



「あー……それはね?……」


聖子(しょうこ)は目を合わせるとニコッと笑い

その理由を答えてくれた




それから、時が経ち


天野(あまの)家の玄関扉を開け、帰って来たのは

スポーツバッグを背負う月咲(つかさ)


「ただいまぁ~……」


慣れた手つきで靴を脱いでいると

リビングが賑やかな事に気づいた


…誰かいる?……


靴を脱ぎ、廊下を歩いた先にあるリビングへ顔を覗かせると

談笑する自分の両親と大夢(ひろむ)の両親が居た


……あれ?……今日来るとか言ってたっけ?……


月咲(つかさ)が疑問に思っていると

帰って来たことに気づいた聖子(しょうこ)

そっと声を掛けた


「おかえり〜……

ご飯どうする?…‥すぐ食べたい?……」



「うん、先食べる〜って……

何で愛夢(あゆ)さん達居るの?……」


背後に立つ月咲(つかさ)の存在に気づいて

開口一番に声を掛けたのは振り返った愛夢(あゆ)だった


月咲(つかさ)ちゃんおかえり〜っ!!……」



「お久しぶりで〜す……

どうしたんですか?今日……」


月咲(つかさ)の疑問には

隣に座る大誠(たいせい)が答えた


「少し、お願いしたい事があってね……

ご飯まで呼ばれてしまってるが

もうしばらくしたら帰るよ……」



「いやいや、全然居てもらって大丈夫ですけど……」


するとまた

愛夢(あゆ)がひょうきんに答えた


「家族一同、お世話になってまーす!!……」



「家族一同?……」


愛夢(あゆ)の言葉に疑問を感じていると

次に話し出した父、賢太郎(けんたろう)の言葉で

月咲(つかさ)の状況が一変する


「ヒロちゃん……

月咲(つかさ)の部屋でご飯食べてるぞ?……

そっち持って行くか?……」



「ちょっと待っ!!……大夢(ひろむ)も居るの?!!……

しかもっ!!…私の部屋?!!……」


月咲(つかさ)はそう言い残すと

全速力でリビングを後にし、3階の自分の部屋へ駆け出した

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