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天才は使い方次第で神にも凡人にも成る  作者: 田代 秀隆
報告書2〜物語の主人公〜
25/30

〜物語の主人公1〜



あの事件からひと月が過ぎ


大夢(ひろむ)達は平穏な日常を送っていた



理智高等学校2年棟


1階にある職員室近く


大きな掲示板を見ていたのは

部活用のエナメルバッグを背負った月咲(つかさ)だった


隣には(なぎさ)の姿もある



掲示板を前に

並んで同じ方向を見ている2人


だが突然、なんの脈絡も無く

月咲(つかさ)が膝から崩れ落ちてしまった


崩れ落ちたまま

力無い声でボソボソと呟いている


「……今回は……いけると思ったのに………」


突然崩れ落ちた月咲(つかさ)だったが

隣の(なぎさ)は、それを予期していた様だ


全く動じる事なく

崩れ落ちた月咲(つかさ)へ言葉を投げ掛けた


「頼れば良いのに……隣の家の家庭教師……」


月咲(つかさ)が崩れ落ちた理由


それは、学生が避けては通れない薔薇(いばら)の道


そう、この時期の理智高等学校では

中間テストが始まっていた


そして、今まさに

今週の頭から始まった中間テストの結果が

目の前の大きな掲示板に、大々的に張り出されていた



掲示板にはそれぞれ1.2.3学年

上位30名の名が大きく貼り出されており

国内有数の学力を誇る理智高等学校の上位勢ともなれば

それだけで、有名大学進学に向けての

大きな内申点を持つ重要なイベントとなる


実際に、ここへ向けて全てを費やしている生徒も多い


30位に入れない事で

落胆する生徒は少なくないのだ



崩れ落ちた月咲(つかさ)

(なぎさ)の提案に反発した


「あいつに頼るのだけは………なんか嫌だっ……

……負けた気がする……」


(なぎさ)は呆れながらに答えた


「まぁ、頑固なのも良いけど………

そうは言ってられないじゃない?……」



「別に頑固じゃないしっ!!……」



「でもねぇ〜………」


強がる月咲(つかさ)

(なぎさ)は無言で掲示板を指差した


指差した先


しかし、何かおかしい


(なぎさ)の指差した方向は

トップ30が書かれた掲示板の方ではなく

脇の小さな掲示板


そこにも名前が連なっていた



欠点者 40点以下

※下記の者に補講を(めい)じる


数学Ⅱ

2-A 天野(あまの) 月咲(つかさ)

2-C 〇〇……


化学

2-A 天野(あまの) 月咲(つかさ)

2-D 〇〇……



そう、月咲(つかさ)が嘆いていたのは別の理由があった


現実を突き付けられ

フリーズしてしまう月咲(つかさ)


何も言葉が出ない


代わりに隣の(なぎさ)から

大きなため息が聞こえて来た


「はぁ……私は教えてもらって、実際順位も上がったし……

指導力はお墨付きなんだけどなぁ……」



「裏切ったなっ!!……」


学力が全てである理智高等学校において

欠点者に対するペナルティーは大きかった


月咲(つかさ)が落胆する理由はそこにある


ペナルティーとは、平日の通常授業に加え

土日に強制的な補講を受けさせられてしまうのだ



今回のテスト範囲について、みっちりと復習講義を受け

日曜の再テストをクリアするまで

土日の補講は毎週の様に続いていく


まさにクリアするまで帰れません

状態に陥る



他にもこの理智高等学校には

学力向上に向けてのユニークな制度がいくつかある


テストで60点以下の教科がある場合

その教科の課題が配布される

※提出期限は1週間以内


期限を超えてしまうと

その教科についても補講となってしまう



毎年、中間・期末テストは

計4日間のスケジュールで行われる

1日目…国・数・英・理・社 基礎5教科(分類含む)

2日目…副教科

3日目…テスト終わり休日

4日目…返却・課題の配布 この日は午前のみで授業は終了


今日は4日目のテスト返却の日だ



掲示板を確認し終えた月咲(つかさ)(なぎさ)の2人は

教室へ向けて歩き出していた


頭を抱え、苦悶の表情を浮かべている月咲(つかさ)


「最悪だぁ~……土日補講とか……

それに課題まで………生きて帰れる?私っ……」



「オーバーね〜……

60点以下は、いくつの予想?……」



「…………それ………聞いちゃう?………」



「え?……そんなレベルなの?………

前よりひどくなってるんじゃない?…それ……」


希望を失った月咲(つかさ)

助けようの無い友人を見据え

ただただ、虚しくな(なぎさ)


ある意味、似た様な心情の2人は

教室へと足を踏み入れた



教室にはすでに、クラスメイト達が登校しており

それぞれの輪を作っている


テスト終了を労う声や、落胆する者、自信に溢れている者


教室内には十人十色の景色が広がる


そんな中、2人は挨拶を交わしながら

あるグループの所へ向かった



教室の後方


窓際に(たたず)む3人の男子生徒


3人を捉えた月咲(つかさ)の視界には

こんな景色が広がっていた



王子(おうじ) 陽太(ようた) 学年7位


「あっ、来た来たっ!!……」



宮沢(みやざわ) 隆治(りゅうじ) 学年5位


「またやったなっ……月咲(つかさ)ちゃん……

毎回期待を裏切らないねぇ〜……」



菊地(きくち) 大夢(ひろむ) 学年1位


「……………」



月咲(つかさ)に、いち早く気づき

元気に手を振る陽太(ようた)


月咲(つかさ)を指差し、爆笑する隆治(りゅうじ)


椅子に座り、スマホの画面に集中する

大夢(ひろむ)の姿があった



隆治(りゅうじ)の問い掛けに

月咲(つかさ)は落胆の声で答えた


「見てたのか……私の成果を……」



「いや、返却日なんだから見るでしょ……普通に……

3人で見つけた時、爆笑だったな……」


そこへ(なぎさ)

優しい口調で、殺意を持って参戦した


「次、口開いたら……命はない……」



「……そんな声で言うな………

どっちの感情か分かんなくなるって……」


脇で見ていた陽太(ようた)

ゆっくり会話に混ざって来た


「でも欠点2つって……

いつもに比べればマシなんじゃ無いのかい?……」


月咲(つかさ)は即座に反応した


「馬鹿にしてるなぁ~?……」



「ちっ、違うよ?!!……

ほら、前よりは良くなってるし……

ちゃんと成長してるから、すごいなぁって……」


月咲(つかさ)は慌てる陽太(ようた)に詰め寄った


胸ぐらを掴む勢いで顔を近づけ

指差しで威嚇する


「ちょ~っと頭良いからって~……

7位がそんなに偉いのかっ!!……」



「エヘヘッ……ありがと~……」



「何で照れてんのっ!!……腹立つぅ~っ!!」


天然の陽太(ようた)に、何を言っても効果は薄い様だ


朝からイライラが(つの)るばかり



いつものメンバーで和気藹々(わきあいあい)と会話する中

全く会話に参加しない大夢(ひろむ)を見て

月咲(つかさ)は更に腹が立っていた


何クールにスマホいじってんのかな?……こいつぅ……

1位だからか?!!…1位の余裕だからかっ?!!……

そんなに偉いのかっ!!…1位はっ……


やるせない怒りをぶつけるしか無い月咲(つかさ)


しかし


それは段々と疑問へと変わっていた


でも、いつもなら話入ってくるのに……

………朝から真剣に……何調べてんだろ……


少し気掛かりを感じる月咲(つかさ)


だからと言って、堂々とスマホを覗き込む訳にも行かず


一先ず今はテスト返却の衝撃に備えて

精神統一することにした



時は過ぎ


続々とテスト返却が進む


各教科担当教員からクラスごとに返却が進んでいく形で

名前を呼ばれる(たび)にテストを受け取り

点数を確認していく返却スタイル


最後に担任教師から

5教科+副教科の点数一覧は配られるのだが


テスト返却日の今日この頃


毎回、返却の度にクラス中が一喜一憂する


まるで夏祭りの様な

お祭り騒ぎになっていた


その中でも、やはり上位勢(トップ10)の

隆治(りゅうじ)陽太(ようた)は注目を集めていた



特に、陽太(ようた)の反響は凄い


出席日数が周りより少なく

芸能活動で勉強時間も少ない中で

この順位を維持していること


理智高等学校のテストは

下手な大学であれば余裕で通過できるレベルであること


それは、他のクラスメイト達も理解している


人としてのその努力に

素直な賞賛が陽太(ようた)には送られていた



隣の隆治(りゅうじ)の方が順位は上のはずだが

なぜか可哀想に見えたのは、特に触れないでおこう



各言う(なぎさ)

決して成績が悪い訳では無い


総合順位23位と

トップ30にはしっかり名を連ねているのだ



そう、大夢(ひろむ)達のグループは何を隠そう

周りから見れば頭脳派エリート集団


ただ、1人を除いて



全てのテスト返却が終わり


担任から、成績一覧表も手に入れた


終礼では60点以下の課題説明や補講の件など

形式的な説明で終礼が終わると

皆、帰路に着き始めた



周囲のクラスメイトが

各々の友人と談笑しながら帰路に着く


そんな中


返ってきた成績一覧を片手に

自分の机から全く動けない状態に陥った月咲(つかさ)


そんな………あり得ない………


周りに集まって来た

隆治(りゅうじ) (なぎさ) 陽太(ようた) 大夢(ひろむ)

その理由を知っている



……………全教科………60点以下………だと……



隆治(りゅうじ)(なぎさ)

背後から哀れみながら声を掛けてきた


「まぁ…‥切り替えてこうぜ………

終わったもんは、しょうがないからさ………」



「今回、欠点回避に全力を注いだ結果かぁ………

完全に裏目に出たわねぇ………」



全教科60点以下


という事は全教科の課題が課せられる


5教科と言っても

細かく分類すればかなりの教科数になる


その全ての課題ともなれば

その量は計り知れないもので

とても1週間で片付けられる量では無いだろう


と、当事者が1番に理解していた



大量の課題


土日の補講


未来の自分を想像してしまった月咲(つかさ)


燃え尽きた灰の様に、真っ白になっていた



完全に意識を失いかけている月咲(つかさ)の姿を見て

見兼ねた陽太(ようた)が1つ提案を投げ掛けた


「………きょっ、今日は午後から時間もあるし……

テストお疲れ様の意味も込めて……

皆んな、どこかで打ち上げでもしないかい?……」


陽太(ようた)の提案を小耳に挟んだ月咲(つかさ)


少し、生気が戻った様に感じる



陽太(ようた)月咲(つかさ)の蘇生反応を見て

更に元気付けようと言葉を続けた


「ほっ、ほらっ……土日の補講は流石に無理だけど………

僕で良ければ課題、手伝うよ?……

だから元気出して?……」


陽太(ようた)の言葉に、意識を取り戻した月咲(つかさ)


いつもの元気が徐々に出てきた


涙目ながら両手を合わせると

まるで神様に出会ったかの様な

煌々(こうこう)とした眼差しで陽太(ようた)を見つめ

自然と祈りを捧げていた


「神様ぁ〜!!……王子様〜っ!!……」



「………王子様って……照れるなぁ〜……」


月咲(つかさ)に崇め奉られ

満更でも無い陽太(ようた)だったが


ここで(なぎさ)が話に割って入って来た


「ご飯行くのは良いけど……

…………本当に大丈夫なの?……

課題が良くても、補講の勉強もしといた方が……」


確かに安易な提案にも思える


心配して話を戻した(なぎさ)だが

月咲(つかさ)の心はすでに

打ち上げモードに切り替わっていた


「まぁ、補講は2教科だし…‥大丈夫でしょっ!!……

お昼、どこ食べに行く?……」



「呆れた………さっきの落ち込みはどこ?……

ねぇ、大夢(ひろむ)君からも何か言ってよ……」


月咲(つかさ)の手綱を唯一握れる大夢(ひろむ)

ヘルプサインを出した(なぎさ)



だったのだが



(なぎさ)の期待とは裏腹に

大夢(ひろむ)からは意外な返答が返ってきた


「………まぁ、いいんじゃないか?……今日1日くらい……」


意外な返答だった



あの入院した日から

大夢(ひろむ)月咲(つかさ)に対する態度が

少しだけ変わった事を周りは感じていた


完全に呆れてしまった


そう言えばそうかも知れないが

そうとも言い切れない雰囲気も感じられる


まぁ、当事者の2人自身は気付いていない様だが



大夢(ひろむ)の返答を聞き

月咲(つかさ)は意気揚々と言葉を続けた


「やったぁ!!……

はいっ!!…過半数の賛成がありましたので!!……

まずはお昼食べに行きたいと思いまーす!!……

で〜っ、その後〜っ………ボウリングとかぁ……

カラオケとかも行っちゃったりしてっ!!……」


過半数との意見で

隆治(りゅうじ)が慌てて話に割って入った


「ちょっと待って!!……俺の同意は?……」



「え?……無いよ?……」



「無邪気に酷い……」


1人だけ、悲しみに暮れているものの


5人は打ち上げに向けて

教室を後にするのであった



学校から電車を乗り継ぎ、都市部へと向かう5人


ファミレスでの簡単な昼食を済ませ


いざ戦いの場へ(おもむ)



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