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天才は使い方次第で神にも凡人にも成る  作者: 田代 秀隆
報告書1〜始まりの日〜
24/30

〜始まりの日24〜


そして、夜は明け


窓の外には太陽の日差しがサンサンと降り注ぐ



あれからまた数時間が経った



病室に持ち込まれた荷物を1つにまとめ

大夢(ひろむ)は病室を後にした


病院への挨拶は先程両親達と済ませてある


他の荷物は大誠(たいせい)愛夢(あゆ)が持って帰っており

持ち物はコンパクトにまとめた手提げ鞄のみだ


この後、遊びに行く予定があるのと

少し気になる事があるので

大夢(ひろむ)だけ病室に残っていた



病室を後にした大夢(ひろむ)のスマホに

隆治(りゅうじ)から連絡が入った



り)今日、何食う?


ひ)和食がいい

集合、駅前でいいのか?


り)和食っておっさんか

オッケー

あと、陽太(ようた)は仕事で来れないってよ

それに月咲(つかさ)ちゃんも

何か部活の用事がどうたらこうたらって

まぁ、(なぎさ)と気長に待ってっからゆっくり来いよ~


ひ)分かった

多分1時間以内には着けるだろうから

着く頃に連絡する



最後にメッセージを送り

スマホをポケットへ戻した大夢(ひろむ)

何故か出口の一階へは向かわず階段を登っていた



確か隼人(はやと)さんは6階だったな……

……おい、メフィ……


心の中でそう呼ぶと

少し間を置き、返事が返って来た


『何?……寝不足気味なんだけど……』



…………悪魔も睡眠が必要なのか?……



『いや?……全然?……』



じゃあ、なんで寝不足なんだ……そこで………

………まぁいい……真道(しんどう)さんの病室って何階だ?……



『確か~……同じ6階だったかな……』



そうか……



『……いや4階?……待てよ?3階だったかなぁ……

でも2階も捨てがたいし~……』



捨てがたいってなんだ………結局どこなんだよ……



『あっ!!……1階の受付で聞いてみれば?……』



………知らないなら、知らないって言え……


大きなため息を吐いた大夢(ひろむ)


ただ、今から一階へ戻るのも時間が掛かるので

一先ず隼人(はやと)への挨拶を優先し

再び階段を登り出した



一方


大夢(ひろむ)から集合のメッセージを受けた隆治(りゅうじ)達は

都市部にある駅前のカフェで待機していた


隆治(りゅうじ)大夢(ひろむ)と同様に

最後のメッセージを確認すると

スマホをテーブルの上に置いた


大夢(ひろむ)……1時間くらいで来るってよ……」


話し掛けた先に居たのは

向かいの席に座る少々不機嫌な様子の(なぎさ)


「そう……」



「さっきからテンション低いなぁ~……

朝からなんかあった?……」



「そうねぇ~っ……大夢(ひろむ)君の退院祝いとはいえ……

こうしてあんたと2人で休日過ごしてるのかと思うと………

あ~っ……死にたい……」


隆治(りゅうじ)の心に、深く何かが突き刺さった


「……(なぎさ)……もうちょい、だな……言葉を……」



「それが9割だけど……」



「ほとんどじゃねぇか……」


ここで、(なぎさ)の纏うオーラは一転し

ドス黒い憎悪に切り替わった


怒りに任せ

細かく指でトントンと机を叩き始める


月咲(つかさ)め~っ!!何が部活がっ!!よっ!!……

もぉ!!お昼過ぎだってのにっ!!……

とっくに部活終わってるでしょうが~っ!!………」



「まっ、まぁまぁ……」


……怖ぇ~っ……


目の前のイラつく(なぎさ)(なだ)めつつ

周りに気を配る隆治(りゅうじ)


だが、(なぎさ)の怒りは収まらない


「あれだけ毎日お見舞い行ってたくせにっ……

いざ、目覚めたら何で弱気になんのよっ!!……

あーっ!!もうっ!!……イライラするっ!!……」


静かなオーラを纏い

ただならぬ雰囲気の(なぎさ)


隆治(りゅうじ)は刺激しない様に

ひっそりとコーヒーを口にし、ホッと一息吐いていた


どう見ても9割そっちじゃん……

大夢(ひろむ)~っ!!……早く助けてぇ~っ!!……




場面は戻り


隼人(はやと)の病室へ挨拶を終えた大夢(ひろむ)

1階の受付に居た


隼人(はやと)の経過は良好な様で

後1週間もすれば仕事に復帰出来るそうだ


看護師の人達と楽しそうで何より



受付で真道(しんどう) 天秤(はかり)の病室を聞き

エレベーターを使って5階へ向かった


受付で教えられた512号室へと足を運ぶ



病室は4人一部屋で

部屋の前に名札が貼られていた


………ここだな……


名札を確認し、大夢(ひろむ)は部屋の中へ


右奥、窓側のベットが天秤(はかり)の病床だ


4つのベットがカーテンで区切られ

中の様子は入り口からは伺えない形になっている



大夢(ひろむ)が一歩、病室へ足を踏み入れた時


天秤(はかり)が居るはずのカーテンの中から

聞き覚えのある声が聞こえてきた


「へぇ~……じゃあもうすぐなんだっ!!退院っ!!……

意外と早かったね~っ……」



「元々、大した怪我はしてませんでしたから……

どっちかって言うと心の方が……」


1人は天秤(はかり)


だが、もう1人の声には疑問を持っていた


疑問を抱えながら

大夢(ひろむ)は勢いよくカーテンを開いた


「何でお前がここに居る……月咲(つかさ)……」


カーテンの先に居たのは

ベット横の丸椅子に座る月咲(つかさ)の姿


いきなり現れた大夢(ひろむ)に驚きを隠せない


「ひゃぁっ!!……」


対照的に、ベットの上に長座する天秤(はかり)

動じずに挨拶を返していた


「あっ、菊地(きくち)先輩っ……来てくれたんですね……」



「…‥体は、問題ないのか?……」



「えぇ、まぁ……もうすぐ退院できるそうです……」



「そうか……」


2人が会話を交わす中


丸椅子に座る月咲(つかさ)の顔は完全に固まっていた


まるで自分は空気だと言わんばかりに存在感を消し

視線もわざとらしく反らしている


……何であんたがここに来んの~っ!!……

……遊びに行くんじゃないの~っ!!………

………やばい、どうしよっ……



月咲(つかさ)は数日前に起こった

あの出来事を思い出していた


ナイフが腹部に突き刺さり

息絶える寸前の記憶が鮮明に蘇る



“そんな顔しないで……”


“私は昔から……笑顔の大夢(ひろむ)が大好きなんだから……”


うわあああああああぁっ!!……

消えろ!!消えろっ!!……消えちまえっ!!……


思わず叫びそうになるのをなんとか堪え

必死に頭のモヤを掻き消そうとするが

過去の言葉など、どうしようもない



パンク寸前の月咲(つかさ)


とにかくここから離れようと

無言で立ち去ろうと、行動を起こした


………私は空気…‥ここには居ない……


念仏でも唱える様に

心を無にし、存在感を限りなく薄める



しかし


ひっそりと歩き出した月咲(つかさ)の腕を

大夢(ひろむ)は容赦なく掴み止めた


「待てっ……どこに行く?……」


腕を掴まれた瞬間、全てを悟った月咲(つかさ)


胸の鼓動が、張り裂ける寸前まで高まっていた


もし、今、心電図を付けていたなら

とんでもない数値を叩き出していただろう


だが、そんな月咲(つかさ)にはお構いなしに

大夢(ひろむ)は容赦なく追い討ちをかける


「逃げれると思ってるのか?……」



「でっ………ですよねー……」


完全に退路を断たれた月咲(つかさ)

もう半泣き状態だ


心の危機的状況からか

再び、あの時の恥ずかしい情景が

走馬灯の様に頭の中を駆け巡る


てか、何で私生きてんのっ?!!……

お腹にナイフ突き刺さってたはずなのにさぁ!!……

次の日起きたら何ともないし……

傷も無いし……まるで夢見たいな………

天秤(はかり)ちゃんに聞いても二重人格だって言うしっ……

何がどうなってんのっ!!もぉ~っ!!……



月咲(つかさ)には

あの時の記憶は確かに残っていた


覚えているのは

大夢(ひろむ)の命が危なかったこと


天秤(はかり)がいつもと違う様子だったこと


だが、2人がどういった経緯で

あの夜の出来事に繋がってしまったのかまでは

分からないでいた



あまり深く考えない性格の月咲(つかさ)


自分でも理解している


天秤(はかり)に会いに来ていたのは

あの時のことを確かめるためでもあった



もちろん、天秤(はかり)の方も

あの時の出来事が全て記憶に残っている訳ではない


途切れ途切れな記憶の断片を探りながら

自分の状況も受け止めなければいけない


訳もわからない事件に、巻き込まれた様なものだ


月咲(つかさ)には自分が二重人格である事と

どうしてあの状況になったのか自分ではよく覚えていない

としか、状況説明の仕様がなかった



あの幻の様な


手品の様な


この世の常識からでは説明出来ない出来事は

大夢(ひろむ)天秤(はかり)だけが目の当たりにしていた



月咲(つかさ)の腕を大夢(ひろむ)が掴んでから

数秒の沈黙が続いた


月咲(つかさ)は、今だに目を合わせる事が出来ない



そんな中

大夢(ひろむ)は掴んでいた手をそっと離した


手が離れた事に驚いた月咲(つかさ)


思わず大夢(ひろむ)の方へ一瞬視線を向ける



その時、こちらを見据えた大夢(ひろむ)の顔が見えた


どこか覚悟を決めた様な

そんな決意の表情に一瞬ながら感じた


大夢(ひろむ)は優しい声で呟いた


「いや………悪かったな、呼び止めて……」



「え?……別に……」



「俺が寝てる間、毎日お見舞いに来てくれてたんだよな……

ありがとう……」



「へっ?!!……いやっ!!、ほらっ……

天秤(はかり)ちゃんのついででっ!!……毎日じゃ無いし!!……

おんなじ病院だったしっ!!……ついでだから!!ついでっ!!……」


月咲(つかさ)はそう言って

逃げる様に病室を飛び出してしまった


振り返る事なく走り去った月咲(つかさ)


だが、大夢(ひろむ)はそれを追い掛けるでも無く

ゆっくり目で後を追っただけだった



月咲(つかさ)が居なくなると

大夢(ひろむ)はさっきまで月咲(つかさ)を掴んでいた手を

そっと見つめていた


そこにはしっかりと

月咲(つかさ)が居た痕跡(こんせき)を感じる



入り口をジッと見つめる大夢(ひろむ)

何を考えているのか分からない


ただ、それを俯瞰(ふかん)で見ていた天秤(はかり)は思った


もう2度と……あんな思いはしない……かな?……



しばらくして


大夢(ひろむ)がそっと天秤(はかり)の方へ振り返った


「すまない……ほったらかしにして……」



「大丈夫ですよ……それより……

月咲(つかさ)先輩追い掛けなくていいんですか?……

行っちゃいましたけど……」



「まぁ……大丈夫だと思う……前見てたら……

…………居るなら言って欲しかったがな……」



「こっちの方が良いかなと思いまして……」


少し意地悪な笑みを浮かべる天秤(はかり)


その時だった

大夢(ひろむ)の肩の上に軽快な破裂音と共に

メフィが姿を見せた


ポンッ


『なんで本当の事言わないの?………』


その問いに答えたのは


天秤(はかり)だった


「覚えてない方が良かったって…‥

今でも思ってるからだよ……」


病室を大夢(ひろむ)が訪れた時

天秤(はかり)が妙に落ち着いていた理由はここにあった



天秤(はかり)は自分の膝下を見ながら呟いた


「アイちゃんの言った通りだったね……」



ポンッ


どこかで聞き覚えのある軽快な音


それと共に

天秤(はかり)の膝元に現れたのは1匹の悪魔


メフィと同じく真っ黒な肌にクリクリした瞳

特徴的なスペードの尻尾を生やしている


違ったのは服装で

右目にチェーン付きの片眼鏡を掛け

頭には大学卒業時に被る赤い角帽


そして、首から下は同じく大学卒業時に着る

赤いアカデミックガウンを羽織り

手には六法全書並みの分厚い本を抱えていた


名前は、アイム


『だろ?……』


天秤(はかり)の膝下に現れた

アイちゃんと呼ばれる悪魔がそう答えた


ドスの効いた声色に天秤(はかり)が言葉を返す


「でも良いなぁ~……

大夢(ひろむ)先輩の悪魔、可愛い感じで………

アイちゃんの声、完全なおっさんだもんっ……」



『声なんてどうだっていいんだよっ!!………』


天秤(はかり)と悪魔が言葉を交わしているのを

大夢(ひろむ)も動じる事なく眺めているのは

以下の推理があったからだ



昨日の夜のことだ

大夢(ひろむ)は深夜遅くまでメフィと脳内会議をしている時

密かに天秤(はかり)とスマホでコンタクトを取っていた


現在の状況整理


今日、会いに行く約束


これからの事



そして、悪魔のことを話す為に



自分の身に起こった摩訶不思議な出来事から

天秤(はかり)に起きていた現象を推察し

この結論に至った


天秤(はかり)はそれを聞き、全てを察していたからこそ

冷静で居られたのかもしれない



天秤(はかり)は膝下の悪魔を抱き抱えると

自己紹介を始めた


「この子の名前はアイムって言います……

私はアイちゃんって呼んでますけど………

先輩の悪魔はなんて言うんです?……」


その質問に答えたのはメフィ自身だ


キザなポーズで自己紹介する


『僕の名前はメフィストフェレス……

大夢(ひろむ)は長いからメフィって呼んでる……』



「あー、あだ名ですか……親しいんですね……」


その問いには大夢(ひろむ)が即答した


「それは無い……」



『ちょっと!!大夢(ひろむ)……僕たちマブダチだろ?……』



「意味わかって言ってるか?……

会って2日目だぞ?………」


メフィと会話を交わしながら

天秤(はかり)の方へと視線を戻した



そこからは真剣な眼差しで言葉を続けた


「ある程度…‥

状況は受け止められたと思っていいのか?……」


その問い掛けに

天秤(はかり)も真剣な眼差しで答えを返した


「兄からの手紙を読みました……

……正直、今でも納得出来てない所はありますけど……

でも……真相が分かった所で……

何も解決しない事も、手紙を読んで分かりました………」



事の発端となったのは

天秤(はかり)の悪魔アイムの人格乗っ取りからだった


どんな能力かまでは分かっていないが

人格を乗っ取る上で

元々の人格を壊したり変えたりする事が

乗っ取る上での条件なのだろう

メフィのやり方がそうであった様に


大夢(ひろむ)からの連絡で、事の推測を聞き

天秤(はかり)は色々と繋がる部分を感じていた


兄が取った行動も


自分の膝元に居る悪魔の存在も


ただ、こんな非現実的な出来事

警察に話した所で立証することは難しく

二重人格を証明するのにも苦労するだろう


警察の面子としても

誤認逮捕になりかね無い事案でもある事から

再捜査などの協力も薄い可能性がある



天秤(はかり)は決心した顔つきで言葉を続けた


「せっかく貰った時間ですから……

(まこと)兄ぃに……

後悔が残らない生き方をしたいと思います……」


大夢(ひろむ)も安心した顔つきでその決意に答えた


「………分かった……

君がそう決めたのなら、何も言う必要は無いな……」


大夢(ひろむ)はそう言って

他愛もない世間話を少し話

それから天秤(はかり)の病室を後にした



大夢(ひろむ)の居なくなった病室で2人

天秤(はかり)とアイムが話を続けていた


「あっ、そう言えば依頼料の事、聞きそびれちゃった……」



『黙ってればいいんじゃねぇの?……』



「ダメだよ……元凶のアイちゃんが何言ってんの?……」


アイムにとって、そう言われると悩ましい部分がある

まさに今の宿主である人間の人生を壊した所だからだ



ただ、アイムにとっては不思議だった


もっと非難されたり、罵倒されてもおかしくは無い


アイムにとってはそれが日常であり

今まで乗っ取ってきた人間達は憎悪や悪意に(まみ)れていて

それを踏まえて、更なる負の連鎖を引き起こしていく

悪魔とはそういう存在


天秤(はかり)の行動は

アイムには理解できなかった



アイムは天秤(はかり)に聞こえない様

心の中で呟く


『あの菊地(きくち)ってとこのメフィって奴も

あの宿主から抜け出せないんだよな………

えらく仲良くやってるみたいだけど……なんでだ?……

あの人間も、こいつ(天秤)も……よく分かんないな……』



「ねぇ……聞いてる?……」


考え事をしていると

痺れを切らした天秤(はかり)が質問を重ねる


「過ぎた事は仕方ないけど……

これからは、ちゃんと私に尽くしてね?……

それが今までの罪滅ぼしになるんだから……」



『尽くす?……なんだそれ……』



「私の身体からは抜け出せないんでしょ?……

だったらここから悪さは出来ない訳だし……

やる事ないなら今までの悪さの分

一緒に良いことをしよう……

私も、あの人みたいに……

誰かの為になれる人間になりたいの……

……だから、その力を使って手伝って……」


天秤(はかり)にとって大夢(ひろむ)

憧れの存在になっていた様だ


殺人者の親族と世間から罵倒され

警察も信用できず、辛い思いをした


唯一、(すが)りついた先の月咲(つかさ)


そこから真実に辿り着いた大夢(ひろむ)


結果が変わることは無かったが

心に掛かっていたモヤは晴れ、前向きになれている


天秤(はかり)はそういう人間になりたいと

心底感じていた



その想いも、アイムにとっては不思議だった


『そういうもんなのか?……』



「そういうものだよ?……」


これからこの2人がどうなるかは

誰にも分からない


ただ、間違い無く

良い方向へと向かっていくことは

2人を包む雰囲気から予想できた



場面は変わり


病室を後にした大夢(ひろむ)は階段を降りていく



こちらでも大夢(ひろむ)とメフィの会話が続いていた


『あの2人、どうするのかなぁ……』



…‥多分、大丈夫だろう……



『どう大丈夫なのさ……』



……なんとなく、だけどな………



『ただの直感じゃんっ……』



良いんだよ、あの2人が納得して前に進んでれば……

探偵の仕事は依頼者の求める真実を

立証する手助けをする事だ……

今回は正直言って、良い結果ではなかったが……

そこからどうするかは……真実を知った本人次第……



『そういうものなの?……』



そういうことだな……


煮え切らない答えにまだメフィは納得していない様だった


そうこうしていると

大夢(ひろむ)は病院のロビーへ


出口である正面玄関へ近付いていた



出口へ向けて歩いていると

透明な自動ドアの外側に

赤髪の見覚えのある後ろ姿があった


その時、メフィは見ていた


微かに大夢(ひろむ)の口元が緩んだ事を



大夢(ひろむ)は自動ドアを出るとすぐに

その後ろ姿の人物へ声を掛けた


「待ってたのか?……」


そう、その人物は月咲(つかさ)


「………いや、まぁ……待ってたと言うか……」


どもどもと、いつもの月咲(つかさ)らしくない


いつもならここで

大夢(ひろむ)から茶化して来るところなのだが


隆治(りゅうじ)達が待ってる……歩きながら話そう……」



「へっ?………え?……」


月咲(つかさ)の返事を聞かず、歩き出す大夢(ひろむ)


予想外の問い掛けに反応が遅れてしまった様だが

月咲(つかさ)は慌てて後ろから大夢(ひろむ)の後を追いかけた



メフィは見ていた

背後から追い掛ける月咲(つかさ)の口元が

少し緩んでいた事を


大夢(ひろむ)に追いつき

いつも通りの調子で話し始める月咲(つかさ)



そんな2人を見てメフィは思った


『よく分かんないな〜……人間って……』



これが、この物語の始まりの日


世の中には、まだまだ不思議な出来事があると

この時はまだ知らない

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