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天才は使い方次第で神にも凡人にも成る  作者: 田代 秀隆
報告書1〜始まりの日〜
22/30

〜始まりの日22〜

真っ暗な世界が、辺りに広がっている


どこを向いても何も見えない



それもそのはず


(まぶた)を閉じているのだから




大夢(ひろむ)は、重くのしかかった(まぶた)を開いた


………まぶしっ……


そこから新鮮な陽の光が差し込んだ



陽の……光?……


太陽の光だ


それはあの時から時間が経っていることを暗示している



目が光に順応するまで数秒かかった


段々と目が慣れ

周りの景色を視認出来るようになっていった



真っ白い天井


心地よい風が吹き抜ける窓


それに靡く白いカーテン


大夢(ひろむ)は、すぐに病室だと気付いた


俺は……どうなったんだ……


上半身を起こし

辺りを見回すが人の気配は無い


生きて……るよな?………

死後の世界にしては現実的過ぎるし……


大夢(ひろむ)がいつもの思考タイムに入っていると

廊下の方から声が聞こえて来た



「私っ!!今日からここに泊まるからっ!!……」



「落ち着け愛夢(あゆ)……

医者も言ってただろ?命に別状はないって……

大夢(ひろむ)の事だ……

きっと夢の中で考え事してるに違い無い……」


聞こえてきた声から、両親だと気付いた


…………父さんと母さんの声……


大夢(ひろむ)の読み通り病室へと入って来たのは

父・大誠(たいせい)と母・愛夢(あゆ)だった



愛夢(あゆ)は起きている大夢(ひろむ)の姿を見るなり

手に待っていた買い物袋を落としてしまった


「……ひっ……ろむ……」


驚き固まる愛夢(あゆ)


しかし、次の瞬間には愛息子に飛び付いていた


ベットの上で慌てて受け止める大夢(ひろむ)


「うぉっ!!……」



「あぁ~ぅ~っ!!……び~ぼ~む~っ(大夢(ひろむ)~)!!

いぎでだぁ~っ(生きてたぁ~)!!」



「………痛いっていきなり……」


腕の中で泣きじゃくる愛夢(あゆ)は自分の身体を起こすと

大夢(ひろむ)の身体をジロジロと見つめ出した


「どごもげがない(どこも怪我ない)?!!……

いぎでる?いぎでるよねっ!!………」



「大丈夫だよ……ちゃんと生きてる……」


起き掛けの大夢(ひろむ)の身体を激しく揺さぶる愛夢(あゆ)

後ろに立つ大誠(たいせい)は気が気ではない


「母さん、大夢(ひろむ)は起きたばかりだぞ……

そんなに強く揺すったら……」



「やだぁ!!やだぁ!!……離れない~っ!!」


まるで駄々をこねる子供の様に

愛夢(あゆ)大夢(ひろむ)を抱き締めていた


ついさっきまで眠っていたのだ


それにいつもより身体が重く感じる


大夢(ひろむ)も正直に答えた


「痛いって母さんっ……本当に……」



「い~や~だぁ~っ!!」


一先ず、駄々をこねる愛夢(あゆ)を落ち着かせた大夢(ひろむ)


大誠(たいせい)に目を向けた大夢(ひろむ)

状況確認に入った


「何で俺は病室に?……」



「覚えてないのか?………

……仕事中、突然倒れたって連絡があって……」



気絶?……仕事………!?………

隼人(はやと)さんか……あの後、上手く話を……


状況整理をしていると

あの時の情景が次々と思い浮かぶ


この時、大夢(ひろむ)は大切なことを思い出した


「そうだ、月咲(つかさ)……月咲(つかさ)はどうしたっ!!」



「え?……」


大夢(ひろむ)の突然の挙動に驚く2人


戸惑いを隠せない2人に、大夢(ひろむ)は気が気ではない


「……はっきり言ってくれ………」



「…………それは……」


大夢(ひろむ)の質問に顔を見合わせる2人


その表情は晴れやかなものではなかった


…………やっぱり……そう……なのか……


流れる数秒の沈黙


大夢(ひろむ)は覚悟した


今でも思い出す、腕の中に居た月咲(つかさ)の感覚を


その時感じた、自分の無力さも



重苦しい空気の中、愛夢(あゆ)が口を開いた


大夢(ひろむ)………

そういう事はもう少し大人になってからだと思うの……」



「…………………はぁ?……」


意味の分からない返答に、返す言葉が見つからない


いくつか覚悟していた


認めたく無い現実でも

一先ず受け入れようと覚悟していたのだ



愛夢(あゆ)の言葉に疑問しか浮かばない大夢(ひろむ)


それに対し、愛夢(あゆ)大誠(たいせい)の話は進んでいく


「どうしましょうお父さんっ……

大夢(ひろむ)ってば知らない内に大人にっ……」



「母さん……これが成長というやつだ……

いいじゃないか、もう高校生なんだ……

婚約者の1人や2人出来てもおかしく……」


勝手に飛躍していく2人の会話


それは余計に大夢(ひろむ)を混乱させる


「なんの話を……月咲(つかさ)は生きてるのか?……」


焦っている自分と、そうでは無い両親


その温度差に大夢(ひろむ)は困惑していた



目の前に居る2人の頭にも

ハテナマークが浮かんでいる


……どういうことだ?………


噛み合わない会話に

いつも以上に苛立ちを覚える大夢(ひろむ)


「だからっ……」


大夢(ひろむ)が言葉を投げ掛けた時


愛夢(あゆ)は笑顔で答えた


「何言ってるの~っ、大夢(ひろむ)~………

月咲(つかさ)ちゃんなら元気いっぱいよ?……」


愛夢(あゆ)の拍子抜けする様な声色


ただ、確かに今元気だと言った


大夢(ひろむ)の頭でも状況整理が追いつかない


あの時確かにこの目で見た

腕の中で力尽きた月咲(つかさ)


確かに感じた


あの腕の感覚を



大夢(ひろむ)を尻目に

大誠(たいせい)も同じ様な声色で答えた


「毎日お見舞いに来てくれてたぞ?……

退院したらちゃんとお礼言っておくんだぞ……」



毎日って……あいつは……


ここで更に疑問が浮かんだ


毎日と言う言い回しから

あれから数日が経っていることが判明した


そして1番は、月咲(つかさ)が生きていて

あの日からすでに何事も無く生活しているということ


到底理解できない事ばかりだが、段々と状況は掴めてきた



だが、そんな大夢(ひろむ)を置いて

愛夢(あゆ)は思いついた様に語り出す


「そうだっ!!看護師さん呼んで来なきゃっ!!……

目覚めたんだし早く診てもらわないとっ!!」


話の最中ではあったが

自由人(あゆ)は病室を飛び出してしまった


突拍子もない行動に

止めるタイミングを見失ってしまった


深いため息を付き

愛夢(あゆ)を呼び止めるのを諦めた大誠(たいせい)

大夢(ひろむ)の方へと向き直った


「………大夢(ひろむ)……」


だが大夢(ひろむ)は他の事で頭がいっぱいだ


「暑苦しいのなら後にしてくれ……今、状況整理で……」



「少しだけだ……聞きなさい……」



「……」


いつになく真剣なトーン……


大誠(たいせい)の真面目なトーンに

思わず話に引き込まれてしまった


大誠(たいせい)は目を合わせるとゆっくり口を開いた


「……父さんと母さんを頼りなさい……」


大誠(たいせい)が言ったのは、この一言だけだった


だが、その目と言葉には妙な説得力があり

すべてを見透かされている様に大夢(ひろむ)は感じた


熟練の弁護士ともなると

ここまでの存在感を出せるのかと

大夢(ひろむ)は少し驚いていた


「どっ……どうした?急に……」



「いや、何でもない……

父親らしい事……言ってみたかっただけだ……」


大誠(たいせい)はそう言って立ち上がった


「どこ行くの?……」



「ん?……母さんを探しにな……

慌ててる時の母さんは何を仕出かすか……」


言葉の最中、廊下に響き渡る悲鳴と騒音


「………手遅れだったか……」


大誠(たいせい)は立ち上がった後

軽く頭を掻くと言葉を続けた


「父の事だ……危険な仕事を

大夢(ひろむ)に回すような事しないと思うが……

周りが何て言おうと、自分の安全を第1に考えなさい……」


いつになく真剣な表情、真剣な口調

威厳ある風格に大夢(ひろむ)は思わず

納得されられてしまった


「………分かったよ……」


いつも物静かで愛夢(あゆ)に振り回されてばかりの父


そんな姿ばかりを見ていた大夢(ひろむ)だったが

今は自然とその言葉を受け止めていた



大誠(たいせい)は振り返り

病室の出入り口に向け、歩き出しながら呟く


「後、この5日間で色んな人が来た……

ちゃんとお礼言うんだぞ?……」



「そうなんだ……

5日?!!……俺は5日間も寝てたのか?……」



「……そうだ………まぁ、本当に目が覚めてよかった……」


良い台詞を残し

部屋を後にしようとした大誠(たいせい)だったが

ここで大夢(ひろむ)から、思わぬ反撃に合った


「父さん……ちゃんと仕事行ったよな……」


ピタッとその場に立ち止まる大誠(たいせい)


少し間を開けて答えた


「………事務所の部下は優秀だから……」



「ちゃんと謝っときなよ?……

どうせ何にも連絡して無いだろ……」


父の行動を見透かす様な言動だが


どうやら図星の様だ


「………怒られる……よな?……」



「当然……5日も居なくなるとは思ってないでしょ、絶対」



「だよな……」


そこから先

病室を後にする大誠(たいせい)の足取りは重く見えた


その背中を見て、大夢(ひろむ)は思う


………頼り甲斐が……あるんだか、ないんだか……


父親の意外な一面を見れたので、一先ずチャラにしておこう



この後、数時間の時が流れた


大迷惑を起こしながら愛夢(あゆ)が呼んだ医師に

状態を診てもらった


主な原因は不明だが

寝不足と過度の精神的疲労から来る

過労に似た症状ではないか、との医師の診断が下りた


結局、今日1日は大事を取って入院


明日、退院する形となった



病室ではまた

愛夢(あゆ)大誠(たいせい)の攻防が繰り広げられていた


「私は絶対泊まるからっ!!」



「いい加減諦めろ……帰るぞ……」



「嫌だぁ~っ!!」


泊まる泊まると駄々をこねていた愛夢(あゆ)

大誠(たいせい)が何とか連れ帰り、病室は静かになった



それから夕暮れ時まで、大誠(たいせい)の言葉通り

大夢(ひろむ)の目覚めを聞いた知人が次々とお見舞いに来た


まずは刑事の笠原(かさはら)さん

意外と涙脆いのをここで初めて知った


結構心配してくれてたみたいで

ちょくちょく顔を出してくれてたのだそう



次に来たのが菊地探偵事務所の面々


みんな回復を喜んでくれてたけど

じいちゃんだけは若干申し訳なさそうな顔をしていた


そこで聞いた話だが

どうやら隼人(はやと)さんの右腕にはヒビが入ってたみたいで

同じ病院の6階に入院してる様だ


ちなみに俺は3階


みんなのお見舞いの後

すぐ隼人(はやと)さんと連絡を取った


色々話をして分かったのが

気絶して以降は、どうなったかは覚えてないらしい


隼人(はやと)さんが目覚めた時

公園の真ん中に俺、月咲(つかさ)天秤(はかり)

その3人が気絶してたそうだ


他の事務員には

天秤(はかり)に蹴られて気を失うところ

までを報告していたみたいで

信じられない出来事ではあったが

一応報告として他のみんなは受け取っていた


この一連の事件について、自分の口からも報告した


もちろん、隼人(はやと)さんが気絶した後の

あの不思議な出来事の事は、言える訳ないが


天秤(はかり)が二重人格である事


暗示による効果かは定かでは無いが

2人目の人格は人並外れた運動能力持っていたこと


それは隼人(はやと)さんの報告通りに

自分も合わせて報告した



夕方になる頃

学校終わりの隆治(りゅうじ)達がお見舞いに来てくれた


そこに月咲(つかさ)の姿は無かったが

久しぶりに聞いた学校での話題やみんなの話を聞くと

少し元気が出た



明日、退院後に遊ぶ約束を交わし

隆治(りゅうじ)達は帰路についた


そんな1日はあっという間に過ぎて行き

窓から見える空は夜空に、そして綺麗な満月が昇っていた


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