〜始まりの日18〜
突然起こった現象に
大夢も天秤も、白い薔薇に釘付けだ
また子供の声が聞こえる
『いいの?……チャンスだよ?……』
その言葉を聞いて
無意識に身体が反応した大夢
ポケットに隠し持っていたスタンガンを
天秤の足に当てスイッチを入れた
電流と共に、激しい電撃音が響き渡る
大夢は、電流に怯んだ天秤を足蹴りにし
何とか立ち上がり、その場から距離を取った
「あっ……危なかった……」
『僕のおかげだねぇ~……』
「あぁ、助かっ……って!!…誰だっ!!……」
公園内を見渡すも、誰の姿も無い
予想外の連続に、狼狽えるしかない大夢
……なんだ?………どこから……
視界の端に天秤の姿が見えた
身体の痺れがまだ残っている様だが
こちらが狼狽えている姿を見ても
天秤は無反応だった
大夢は気づいた
声が直接、頭の中へと
流れ込んで来ている可能性に
『正解〜っ!!……さすが、一緒に遊んだ仲だね~っ……』
「………遊んだ?……何言ってる……」
『毎日楽しかったなぁ~……』
「…………毎日?……遊んだ?………」
大夢は考えた
少ないヒントの中から正解を導き出すため
脳がフル回転する
そして、一つの答えを導き出した
「……まさか、お前っ……夢の中のぐにゃぐにゃ……」
そうして出した結論は
自分でも信じがたい摩訶不思議な内容だった
『ぐにゃぐにゃって〜っ……まぁいいや……』
そう、この子供の様な声の主は
放火魔事件以降見る様になった、夢の中の鬼役
一晩中、夢の中で大夢を追い回し
寝不足に追い込んだ元凶だ
「分かる訳ないだろっ!!……
声なんて聞いた事無いんだぞ……」
『まぁまぁ、細かい事は後でいいじゃーん……
それより、しっかり前見なよ……』
頭の中に流れ込んでくる声に従い、視界を広げてみると
足蹴りにした天秤が
ゆっくり立ち上がる姿が見えた
身体の痺れも取れた様で
しっかりこちらを見据えていた
『ハハハハハッ!!…イイゾォ!!……
オマエニモ、イタトハ…………
ヤハリオマエハ、タノシマセテクレルッ!!……』
高笑いを上げ、卑屈な笑顔を浮かべる天秤は
手に持つ白い薔薇を投げ捨て
攻撃を仕掛けに突っ込んで来た
天秤の言葉に、大夢は考えた
……居た?……なんだ?……
…いや…………そういうことか……
『いいの?……余計な事考えてて……」
子供の声の言う通り、考えるのも束の間
物凄いスピードで近づいて来る天秤
そうだっ……状況は最悪……
また身構えてはみたものの
打開策は、やはり思い付かない
先程の何も出来ないまま、ふっ飛ばされてしまった姿が
頭を過った
『落ち着いて~っ……
僕との鬼ごっこ、思い出してみなよ……』
………鬼ごっこ?……
一方、攻撃を仕掛ける天秤は
不敵な笑みを浮かべながら急接近している
『サッキカラブツブツト……ヨユウダナッ!!……』
迫り来る脅威
しかしその時
大夢の身体が自然と動き出した
その動きはこの1週間
何度も何度も繰り返していた夢の中での動作
スーッと左手を前方に差し出すと
その手を迫り来る天秤の方へ向けた
すると、次の瞬間
ポンッ!!
さっきの白い薔薇の時と同じ様に
軽快な爆発音と共に、大夢の差し出した左手を
マジシャンの様な煙が包む
一瞬で煙が晴れると
そこには、黒光りする一丁の拳銃があった
いきなり現れた拳銃に
天秤はその場に急停止した
『ジュウッ?!!……』
天秤が拳銃に目を奪われ
驚いた表情を浮かべている中
大夢は何の躊躇いもなく
天秤に向けて引き金を引いた
『ナッ!!……』
公園に、4発の銃声が木霊する
天秤は急停止後すぐに進路を横に変え
引き金が連続で引かれる前に
銃弾を躱しながら公園の茂みへ飛び込み、身を隠した
『ナンダアレハ……ドコカラアンナモノ……
マルデ、テジナミタイナ……』
茂みに身を潜め、驚きを隠せない天秤
それもその筈
突然現れた拳銃もそうだが
1番驚いたのは、何の躊躇いもなく引き金を引いた
大夢の行動の方だ
片手で撃つ拳銃の反動に、腕がブレることなく
的確にターゲットを狙い撃つ正確さも
銃の扱いに慣れ過ぎていた




