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天才は使い方次第で神にも凡人にも成る  作者: 田代 秀隆
報告書1〜始まりの日〜
16/30

〜始まりの日16〜


大夢(ひろむ)が言葉を失いながら感心している間


天秤(はかり)は仕切りに腕や足の動きを確認していた


『ヤハリ…ナマミノカラダハイイ……』


まるで、新しいおもちゃを買ってもらったばかりの

小さな子供の様に

屈託のない笑顔を見せた

天秤(はかり)の姿をした何か



大夢(ひろむ)は率直に、思った事を聞いてみた


「そんなに、身体が珍しいのか?……」



『イヤ?……ニドメダ……』


また、楽しそうにニヤリと笑う天秤(はかり)


今度の笑顔は悪意に満ち満ちていた



天秤(はかり)右手の裾から

スルスルと何かが降りて来た


それを見た大夢(ひろむ)は度肝を抜かれた


「どっ、どこに……なんて物隠してやがる……」


天秤(はかり)の右手には

刃渡20㎝程のサバイバルナイフが握られていた


天秤(はかり)はまた、不敵に笑う


『ゴシンヨウダトサ……』


突然現れた凶器に、大夢(ひろむ)の目は釘付けだ


何考えてんだあの子(天秤)は……

護身用にサバイバルナイフって…発想が分からん……

……だが、段々分かってきたな……


天秤(はかり)と対峙しながら

人格分析を続ける大夢(ひろむ)


一方、取り出したサバイバルナイフを

曲芸師の様に手の平で遊ばせ、楽しむ天秤(はかり)


大夢(ひろむ)はその隙に

ベンチに置かれたボストンバッグへ

ゆっくり手を伸ばした


すぐさま金属の棒を取り出すと

それを勢い良く下に振り抜いた


金属の擦れる音と共に取り出したのは

長さ60㎝程の特殊警棒


それを持ち、身構えた



身構える大夢(ひろむ)を見据え

天秤(はかり)はサバイバルナイフの切っ先を

身構える大夢(ひろむ)に向けた


『サァ……タノシモウ……』


大夢(ひろむ)は身構えたまま答える


「この状況で……何を楽しむんだよ……」



『キマッテルダロ………コロシアイダヨ……』



「何が楽しいんだか……」



『コノムスメノジンカクガモドッタトキ……

メノマエデ、オマエガシンデタラドウダ?……』



「それは………是非とも願い下げしたい……」


なるほど……そういう事か……


この時、大夢(ひろむ)は理解した


天秤(はかり)の中にいるもう1人の人格は

表の人格が不安定になるのを待っていた様だ


予定では10日前の殺人事件をきっかけに

絶望した心を乗っ取るつもりだった様だが


しかし、(まこと)の行動により

それは阻止される形となってしまった



新たな精神崩壊の方法を模索していた中

大夢(ひろむ)との出会いをきっかけに

再び殺人者の人格が動き出したのだ


大夢(ひろむ)を利用し、親戚夫婦殺害の犯人を探らせる

真実を知った時、天秤(はかり)の心を乗っ取る為に



半ば賭けだったが、その作戦は見事に成功



そして今、崩れた精神は入れ替わった




大夢(ひろむ)は臨戦態勢を維持したまま思考を続けた


まんまと……乗せられた訳か……


思考を続けていると突然


初動もなく、動き出した天秤(はかり)


余りにも自然な身体(からだ)運びに反応が遅れる大夢(ひろむ)


その距離が一気に縮まる



明らかに反応が遅れた大夢(ひろむ)を射程内に捉えると

天秤(はかり)は右手のナイフを鋭く突き出した


ニクヲタツカンショクガ……コノテニ……


まるで、標的(ターゲット)を見つけた猛獣の様に

天秤(はかり)の目は活きいきと輝いており


その瞳に、身構える大夢(ひろむ)が写っていた



目の前に迫り来る天秤(はかり)


その素人とは思えない身体運びと

突き出されたナイフの切っ先に

大夢(ひろむ)は状況を目で追う事しか出来なかった



完全に虚を突いた一撃


しかし、高揚している天秤(はかり)の視界に

妙な物が2つ映り込んだ


1つは大夢(ひろむ)が座っていたベンチ裏に(うごめ)く人影


そしてもう1つ


こんな状況にも関わらず

ニヤリと笑う大夢(ひろむ)の口元だった



視界の端に映ったその人影は

ベンチ裏の草陰から飛び出すと

ナイフを突き出した天秤(はかり)の右手を掴み止めた


そして、大夢(ひろむ)へとナイフを突き出す

その勢いを利用し

天秤(はかり)の右手を掴んだまま

現れた人影はその場で1回転する


柔術の様な動きに体勢の崩れた天秤(はかり)


そのまま流れる様に

天秤(はかり)を地面に抑え付け、手首・肩・腕と

次々に関節技を決めていく



一瞬の出来事だった



突如として現れた人影は

華麗に天秤(はかり)を地面へ抑え込んだ



完璧に決まった関節技に

折り返された右手首


天秤(はかり)のナイフを握る力が弱まるのが分かった


大夢(ひろむ)は、天秤(はかり)の動きが封じられた事を確認すると

ゆっくり近づき、その手からナイフを取り上げた


そして、自信ありげに語り出す


「動物は獲物を狩る瞬間が1番無防備になる……

……それは人間も同じ……」


語り始めた大夢だったが、すぐに横槍が入った


「おい、大夢っ……

格好つけてないで早く拘束しろ……」


天秤(はかり)を拘束しながら

大夢(ひろむ)に一喝する人影


「余り(ちから)入れ過ぎないで下さいね、隼人さん……」


そう


飛び出して来た人影の正体は私服姿の隼人だった



完璧なまでの体捌(たいさば)

ガッチリと決まった関節技は

完全に天秤(はかり)の動きを封じていた


途中で話を止められた大夢(ひろむ)は、

少々不満そうな顔を浮かべていた


「良いおとりだったと思うんですが?……」



「どこがだ……いいから早くしろっ……」



「分かってますよ……

今、手錠出しますから待ってて下さい……」


大夢(ひろむ)はそう言って

ボストンバックから手錠を取り出した


そして、取り押さえられた天秤(はかり)へ再び近づく



しかし、その時だった



『ズイブント、ヨユウダナ……』


地面に抑え込まれる天秤(はかり)

そう言ってまた、不敵な笑を浮かべていた


ガッチリと取り押さえる隼人(はやと)


ましてやこの体格差だ、逃れられるわけが無い


客観的に見ていた大夢(ひろむ)さえも

そう思っていた



だが、そんな常識を覆し


事態は急変した



取り押さえられていた天秤(はかり)の右腕が

隼人(はやと)の腕を掴み返す


すると次の瞬間


信じられない力で

取り押さえていた隼人(はやと)の身体を

強引に引き倒した


「うぉっ!!……いっ!!……」


小柄で細腕の少女が

片腕で成人男性を引き倒す


予想外の出来事に

上手く受け身が取れなかった隼人(はやと)


強く地面に叩き付けられた


間髪入れずに天秤(はかり)

引き倒した隼人(はやと)の腕をガッチリと掴んだまま

立ち上がる勢いを利用し

隼人(はやと)を片手で、大夢(ひろむ)の方へ投げ飛ばしたのだ



突然、目の前に人間が飛んで来る


そんな非常識的な光景に

大夢(ひろむ)が反応出来るはずもなく


呆気に取られていた大夢(ひろむ)

まるで、ボウリングの玉とピンの様に

激しくぶつかり、絡まり合う2人



一瞬で、状況が一変した


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