〜始まりの日15〜
5月9日……
時刻は14時頃……
自宅でのんびりと過ごしていた
天秤と誠の2人
2人にとって、何気ないいつもの休日
しかし、非日常はここから始まった
誠がリビングでくつろいでいると
天秤が二階からフラッと姿を現した
誠は天秤の姿を見た時
違和感を感じた
姿形は天秤なのに何か違う
些細な事だが、そう感じていた
突然、何も言わずに家を飛び出した天秤
思わず後を追った
途中で姿を見失ったものの
進行方向から行動を予想し
親戚の家へと足を運んでみた
不自然に開いたままの親戚夫婦宅の玄関口
嫌な予感がした
まさかとは思ったが
恐る恐る親戚夫婦宅に足を踏み入れてみた
静まり返った玄関口、何の音も聞こえない
リビングへと続く扉を開けた時
眼前に広がる光景を見て誠は思った
開けなければ良かった……と
リビングに広がっていたその光景
親戚夫婦がリビング中央に倒れ
天秤が馬乗りになって絞殺している姿
床に倒れて動かない親戚夫婦を見て
もう死んでいるのだと直感した
呆然とその場に立ち尽くす誠の存在に気づいた天秤
ゆっくり立ち上がると、誠の方へ顔を向けた
『ナンダ……キタノカ………
コレカラドウナルカ……ミモノダナ……』
天秤の様子は明らかにおかしかった
声色も、口調も違う
まるで別人格が身体を乗っ取った様に見えた
意味のわからない言葉を残し
天秤は気を失しない、その場に倒れてしまった
理解が追いつかない現象が目の前に起こっている
誠の思考は完全に停止していた
しかし、ふと我に返る
目の前で起こった事は全て紛れもない現実だ
倒れる親戚夫婦に生気は感じられない
目の前に倒れる3人の人間
しばらく、呆然としていたが
ふと頭にある言葉が浮かんだ
『コレカラドウナルカ……ミモノダナ……』
聞き覚えのない声
姿は天秤でも、纏う雰囲気は完全に別人格
言うなれば、天秤の皮を被った別人だ
こんな訳のわからない現象に
妹の将来が振り回されていいものかと
そんな思いが頭を過った
浪人中の自分の人生と将来有望な妹の人生
その2つを天秤にかけ
誠は自ら罪を被る作戦を思い付いたのだ
閃いた作戦は次の通りになる
まず、2人の死体を地下のワインセラーへと運び
冷却保存する
(少しではあるが死亡推定時刻を遅らせる為)
その間に気を失った天秤を自宅へと連れ帰り
自分は再び殺害現場へと戻ると
時が過ぎるのを待った
18時を過ぎた頃
死体をリビングへと戻す
死体が常温になるまで待ち
19時頃、警察へ自主の電話を掛ける
(19時頃にしたのは天秤のアリバイ作りの為、
その頃には家族の誰かが帰って来ており、
家族と言えどアリバイがあれば
少しは容疑者から外れるだろうと想定して)
誠は冷却保存だけでは
死亡推定時刻を誤認させる事に不安を感じ
警察に自首した後
夫婦を滅多刺しにする強行策に出た
死後しばらくした死体から
あれほど生々しく血を流した状態を演出したのだ
生半可な刺し方では意味が無い
親しい親戚夫婦を滅多刺しにする
気が狂いそうだ
しかし、生々しく滴る血と自首による証言で
警察の捜査追求を免れていたのも事実である
大夢の推理の結果に
天秤は自分の手のひらをジッと見つめていた
「この手で……私が……」
ショックを受けるのも無理はない
あれほど助けたいと思っていた相手を
知らずとはいえ、自らが陥れていたのだから
大夢はそっと言葉を添えた
「あまり思い詰めなくていい……
君は二重人格者なんだ……
殺したのは君の中のもう1人の人格……君じゃない…」
「え?……」
「お兄さんの話によると……
声色も口調も、普段とは明らかに違っていたらしい…
音程は低く、口調も少し荒っぽい、
男みたいな声だったと……」
『ダロウナァ……』
「そうそう……丁度そんなっ…?!!!……」
突然の変化に
大夢の目は天秤に釘付けになった
目の前にいるのは間違いなく天秤だ
だが、明らかに纏う雰囲気が何か違う
感覚的なものだが、大夢はそう実感した
本当に変わった………初めて見たな……
これが二重人格者……
大夢は目の前の現象に
戸惑いながらも関心していた
見たこともない二重人格者の入れ替わる姿に




