表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才は使い方次第で神にも凡人にも成る  作者: 田代 秀隆
報告書1〜始まりの日〜
14/30

〜始まりの日14〜

聞き耳を立てていた天秤(はかり)


気になってきたのか、小さく質問を返した


「………別の理由って?……」



「あの時、依頼を受けた時点では憶測の域だったが…

後から送られて来た事件現場の状況写真と目撃情報…

それにより、ある仮説が浮かんだんだ……

仮説に至るまでの理由は4つ……」


大夢(ひろむ)が掲げた4本の指


その一つがゆっくり下がっていく


「まず1つ目は、お兄さんのスマホ……」


折れ曲がると同時に質疑応答が始まった


「お兄さんは……

スマホを置いて家を出られたんですよね?……」



「……そうですけど……」



「なんでだと思います?……」



「そんなのっ…………気まぐれとか……」



「まぁ確かに、気まぐれもあるでしょう……

が、簡単な理由を挙げるなら……

目的地が近場で短時間で家に戻るつもりだった場合…

もしくは、携帯を取りに行く暇がない程の

緊急事態だった場合……

このどちらかが考えられる……」



「緊急?………近場?……」



「こうは考えれませんか?……

お兄さんは、近所にある親戚の家で起きた

緊急事態に気づき、慌てて家を飛び出した……

現場付近で目撃されたストーカー事件と不審者情報…

あれがあなた(天秤)とお兄さんだとしたら……

色々と辻褄が合うことが出てくる……」


大夢(ひろむ)の説明はある程度理解出来たが

まだまだ府に落ちない部分が多い


天秤(はかり)は思わず言葉を返した


「でも、いくらなんでもそれは出来過ぎじゃ……

それに私は家に居たんですよ?……」



「確かに……時間も昼過ぎだし

少々強引かもしれない………

だが、2つ目の理由……

殺された親戚夫婦の家にあった固定電話……」


大夢(ひろむ)はそう言うとスマホを取り出し

ファミレスで見せた殺人現場の写真を画面に映し出す


写真中央に広がる血の跡


テープで作られた人型


だが、大夢(ひろむ)は別の場所をスクロールアップした


「返り血を浴びるほど滅多刺しにした手で

電話を掛ければ普通どうなります?……」



「……受話器に……血が付いてない……」


天秤(はかり)の言葉通り

映し出された受話器には一滴の血も着いておらず

真っ白に輝いていた


大夢(ひろむ)はまた

淡々とした口調で語り始める


「この事から、お兄さんは……

滅多刺しにする前に、電話を掛けた事になる……

殺す相手の前で、わざわざ殺害予告をした後に

犯行に及ぶとは到底思えません………

……ここで推測出来るのは……

お兄さんは首を絞めて被害者を殺害した後

警察に自主の電話を掛け……

警察が到着する寸前に死体を滅多刺しにした……

……という事になる………

到着した警官が、凶器の包丁と

お兄さんの手に付いた血を見ているそうですから

間違いありません……」


当時の現状に

どんどん辻褄が合わさっていく大夢(ひろむ)の仮説


段々と大夢(ひろむ)の話に引き込まれて行った



ノッてきた大夢(ひろむ)の言葉は止まらない


「3つ目がワインセラーの室温です……

ワインを保存する適正温度の基本は14度前後……

しかし、現場のワインセラーの室温は

18度と高すぎる……

近所でも有名なワイン通のご夫婦が

こんな初歩的なミスをするでしょうか……

誰かが室温を操作した可能性がある……」


3本折れ曲がった状態の指


「殺害時刻以前の目撃情報……

不可解な殺害方法……不適切な室温……」


それぞれ3本の意を唱え

大夢(ひろむ)は更に言葉を続けた


「この3つの状況証拠から、

さっき言った仮説が生まれました……

お兄さんは、自分を犯人に

仕立て上げようとしているんじゃないかと……」


推理のあらすじを聞かされ

困惑した表情の天秤(はかり)


「その真犯人が私だって言うんですか?……

(まこと)兄ぃは、そんな私を庇って捕まってると?…」



「はい……」


大夢(ひろむ)はスマホをスクロールし

違う画面に切り替える


「ついでに色々と調べて貰いました……」


天秤(はかり)に向けたスマホの画面に映っていたのは

真道(しんどう)家から親戚夫婦宅までの間にある

コンビニ前の防犯カメラ映像


そこには画面を横切る天秤(はかり)らしき人物と

それを追う、(まこと)らしき人物の姿が映し出されていた


「この映像と周辺に聞き込みをした所……

(まこと)さんに背負われて運ばれる、

あなたの目撃証言も取る事が出来ました……」


大まかに示された3つの証拠


辻褄は合うかもしれない


大夢(ひろむ)の推理は

大体理解する事が出来た



だが


それでも天秤(はかり)には納得のいかない部分がある


「話は分かりましたけど……

そんなの私知りませんって………

………それにっ!!平日の昼間ってっ!!……

私、学生ですよっ?!!……

ズル休みなんてした事なっ……」



「そして、これが4つ目……」


天秤(はかり)の言葉を遮る様に

大夢(ひろむ)の4本目の指が動く


「10日前の5月9日(木)……

その日は少し早い創立記念日………

俺たち理高の生徒はみんな休みだ……

あの時間家に居たのは、あなたとお兄さんだけ……

お兄さんが庇える人間は、1人しか居ない……」



5月9日

大夢(ひろむ)達が放火魔を捕まえた日

この事件は起こっていた


天秤(はかり)は戸惑っていた


「そっ、そんなの……

菊地(きくち)先輩が考えた仮説で……

都合の良い様にしか聞こえませんっ!!………

私がやったなんて……そんなっ!!……」



「だろうな……確かにまだ曖昧な部分も多い……

……だが、これが今回の殺人事件の真相だ……

証拠はここにある……」


そう言って大夢(ひろむ)

懐から1枚の封筒を取り出した


それを天秤(はかり)へ手渡す


手渡された封筒を見て

天秤(はかり)の心は大きく揺れた


「これって……」



(まこと)さんからの手紙だ……」


真剣な表情で封筒を見つめる天秤(はかり)


「………この字……」


大夢(ひろむ)は手紙をマジマジと見つめる天秤(はかり)に向け

そっと言葉を添えた


「お兄さんが……

現状維持の理由をそこに綴ってくれてる……」


大夢(ひろむ)の言葉に

封筒から目は離さず、震える声で天秤(はかり)が質問した


「……………会ったんですか?……」



「色々とコネを使ってな……

今の推論と現場写真を見せたら、観念したよ……」


大夢(ひろむ)が探偵とバラした事で

向こうにも1つ弱身を握られた形だ


お互い、妹を庇っている事と、

無断で捜査協力している事を交換条件に

互いに秘密を守っている状態になっている


笠原(かさはら)は気が気ではないだろうが



天秤(はかり)の目に再び涙が溢れて来た


「……中身、見なくても分かります………

これは、(まこと)兄ぃの字ですから……」


大事に抱えるあまり

封筒にシワが寄っていた


天秤(はかり)は滲み出る涙を必死に堪え

言葉を続けた


「……じゃあ……今の話は本当に……」



「そうだな……

当事者から聞いた話に……嘘は無いだろう……」


大夢(ひろむ)(まこと)から聞いた話を思い返していた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ