おわり
そんな記憶もどこかへ行ってしまいそうなほど、時間が過ぎた。
正確にはあれから十五年。引っ越し会社に入社して三年の僕は今も必死に働き、ノルマをこなしている。自分が思った以上に成績がいいのか、支店内では最年少のエースとなった。それでも消えないものがあった。
右腕には真っ白な痣ができていた。半袖シャツでも十分隠れる部分にあるので、大して気にならないが、どうも今日は疼いてしかたがない。
いつも通りにお客さんの家に向かい、営業の仕事をする。今日向かうお客さんはランドンという名前の人、名前から察するに、アメリカからの移動してきた人までは予想できている。
営業車を道路沿いに止めると、インターホンを鳴らすと中に返事が返ってきた。
「はーい」
玄関の扉が開くと、神秘的な女性が僕を迎えてくれた。心の中でガッツポーズをすると、挨拶を始めた。
「△〇引っ越し会社のから来ましたアンドレ―です。先日はお電話をいただきありがとうございます」
「いえいえ、私も引っ越しで困ってましたので……リビングの方へどうぞ」
案内されたままリビングに着くと、いつも行っているものを渡すところから始まった。
「ではまず、こちらのほうをどうぞ」
僕は鞄から図書カードを出し、それをテーブルに置くと、そのままランドンさんの前に置く」
「えっと……」
少し困っている様子だが、こんな場合のマニュアルもしっかり読んでいる。
「こちらは、お電話をいただき、時間を割いていただいたお礼になります。我が社を採用されない場合としても、お渡させていただく形になっております」
「では、受け取らせていただきます、アルフさん」
きっちり説明すると、彼女は納得したのか、近くあるファイルにしまい込んだ。
それから名刺を渡し、引っ越しの話を聞き値段の話が終わると、我が社で引っ越しをすることが決まった。
「本日は、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ貴重なお時間を取らせていただきありがとうございました」
そういえば、この人は名刺を差し出す前から僕のファーストネームを知っていた。知り合いというわけでもないだろうがよくわからない。
「じゃあ、ラフル君。地下室来てもらっていいかな?」
彼女の目が変わった。その目を僕は知っている。捕食者の目だ。十五年もの間決して忘れてはいけなかった記憶が一瞬で蘇っていた。だが、そのころには脚がツタで絡まっていた。
そう、この町はあの森の跡地だ。それにランドンという名前、これも気になっていたが、ついに思い出した。
「なんで!どうして!」
理解が追い付かない。けれど、結果は分かっていた。
僕は、これから殺される。全身にツタが絡みついてくると、自然と理解させられた。
「大丈夫、君はお気に入りだから、すぐには殺さないよ」