はじまり
結局ここで数時間過ごすことになった。
ランドンは僕によく話しかけてくれて、退屈することがなく、その時間もとても短く感じた。雨が少し弱くなったのか、雨音は聞こえずらくなり、雷もならなくなった。
太陽が完全に沈んだ頃に、ランドンはどこかそわそわし始めた。
「どうしたんですか?」
「雨やんだから……ちょっと外に行きたいんだけど、いいかな?」
「いいですよ」
僕に気を使ったのか、外に出かけるのをためらっている様子だった。別に僕は気にしないので、その旨を伝えると、彼女はすぐに外に出かけようと階段を降り始めた。そして、その時ここが一階でないことに気が付いた。
「あっ、けどあんまりうろうろしないでね」
階段から顔だけを出し、忠告だけして、彼女は部屋を出て行った。
けれど、この家が当時の僕は気になって仕方がない。子供のころは好奇心が旺盛で、言われても感情を抑えることができないのだ。
ランドンの足音がしなくなると、階段をゆっくりと降り始めた。端にあり、ベッドからは死角の位置だったので、少し怯えたが、探検をしている楽しさが誤魔化した。
一つ下の階は僕たちが先ほどまでいた階と変わらなかった。唯一違うところはベッドの大きさが違うかどうか、この階にあるものは大きく、僕が先ほどまで使っていたのは、子供用と分かるほど大きさが違う。
だが、それ以上は何も発見できなかった。降りてきた階段の反対側にもう一つ階段があるのを確認すると、また階段を下りた。
この階は少し違った。一階と分かる玄関があり、大きさがほかの階に比べて小さかった。
玄関とその反対方向に大きな違和感があった。壁に隠されたような加工。見つけてほしくないような工夫。消えていたほうがいい何か。それが僕の目に入った。
茶色い壁なのに、二つの筋が入っている。それ以外のことが目から外れた。
少しずつ歩き壁に触れると、開いた。
壁ではなく、扉に蓋をしているような板だった。それを外し、その中を見た。
黒く、階段があるようだった。ここが一階であるため、この下は地下になる。この先には明かりがないため、ゆっくりとゆっくりと降りた。
今までの部屋とは違い、一切光がなかった。それでも衝動が抑えきれなかった。ゆっくりとゆっくりと歩き、階段を下り切った。
そこには一枚の扉があった。先ほどの板とは違い、隠すためのものではなく、敷居としての扉だ。
恐る恐る、開けると目を凝らした。
何かがある。この部屋には白い何かがいくつもある。
分からないが、天井から何か吊るされている。
目を細め、近づくと包帯のようなものが大きく巻かれているものがいた。ちょうど熊を巻くことのできる大きさだ。
「繭……」
率直な感想だった。いや、繭という見た目で間違いはない。だが、その中身を僕は知らなかった。一つの繭の頭の部分を見ると、一つだけ巻きが甘く、中身をみることができた。
「人?」
背中から冷気のようなものが漂う、見てはいけない深淵を除き、脚がすくんだ。自然と立つことができなくなり、数秒後気が付いた。後ろに人がいる。
「見ちゃったんだ……」
その目は蛇見たく、獲物を捕らえるような狂気があった。