なまえ
「えっと、ここは?」
知らない天井に疑問を抱き、自然と彼女に質問をしてしまった。今は木製のベッドで目を覚ましたらしい。
「ここは森の中枢部です。倒れていた君を手当して、ここまで運んできました」
ゆっくりと記憶を呼び覚まし、確認する。
さっきまでは父親と一緒にいたはず、それがいつの間にか、足を滑られ、転げ落ちた。まずは助けてもらったことをお礼しなければいけない。
「助けてくれて、ありがとうございます」
母親から、感謝だけはしっかりするように教育されているため、すぐに行うことができた。
「ううん、気にしないで。それより、服がかなり汚れていたから代えさせてもらったけど、大丈夫?」
「あっ、はい。大丈夫です」
自分の体に目線を移すと、先ほどまで着ていた服とは違い、白く繊細な生地でできた服を着せられていた。
少し余裕があり、部屋全体を見回すと、かなり広かった。この部屋だけで、僕らが住む家と同じぐらいの大きさの部屋だった。ただ、奇妙なことに家電類が一切ない。この部屋の大きさからして、テレビの一台もないのが当時の僕には奇妙だった。
そんなことを考えていると、すぐ近くで雷が落ちる轟音が響き、お姉さんは少し怯んでいた。
「ヒィ」
声を裏返したような声に僕は笑い、一年ほど前までは、僕も雷が苦手だったので、年が離れたお姉さんに親近感を覚えた。
「お姉さん、外は雨ですか?」
「うん、かなり強いみたい」
なら今すぐ帰るのは難しいかな。どうにかしてお父さんと連絡を取らないといけないな……。
「体、冷えてない?」
きっと僕は雨の中放置されていたのだろう。泥だらけになっていたという事はかなりの時間、雨に打たれていたのかもしれない。
「少し、冷えます」
「スープがあるけど、飲む?」
お姉さんが気を使ってくれたのか、少し離れたところで作っていたスープを僕の近くまで持ってきてくれた。
「はい」
断る理由もなく、お姉さんが作ってくれたスープをいただくことにした。スープを黄色だったので、コーンスープと思ったが、どうやら違い、味の複雑さに頭で考え込んだ。
「口に合わない?」
「大丈夫です」
とても複雑な味だった。中身に何が入っているかを聞こうと思ったが、善意でやってくれたので、我慢をしながらスープを飲み干した。
「そういえば僕、名前は?」
「Alfと言います」
「アルフ君ね。アルフ君、アルフ君……覚えた」
お姉さんは何度も復唱し、僕の名前をしっかりと覚えているようだった。
「お姉さんの名前は?」
僕もお礼をしなければいけないお姉さんの名前を知りたく、聞いた。
「別に、私の名前なんて……」
「でも、助けてもらったので、お礼をしなければいけないですし……」
僕は何とか聞こうと仕方が、彼女は少し頭を抱え込んでいた。お姉さんの年齢まで行くと自分の名前を忘れるコトがあるのかとこの時は思っていた。
「じゃあRåndanとでも名乗ろうかしら……」
その不自然な名前は今も覚えている。ランドンというのは、アメリカ系のファミリーネームを示すもので、今ならば、すぐに偽名と分かる。けれど、当時の僕には全く理解できない。
「ランドンさんですね。分かりました」
そう言うと、彼女は何か感づいたのか、すぐに後ろを振り向いた。そして、その直後に大きな雷が鳴った。
「ヒエッ」
本能的に嫌いなものが近くに来ると、察する力があると思ったが、頭を抱え、しゃがみこむ姿は、少しばかりかわいく思えた。