ハッピーアイスクリーム
第三十六回開催は5月12日(土)
お題「ハッピーアイスクリーム」/天気雨
5月9日はアイスクリームの日、5月15日はストッキングの日です。
皆様の参加をお待ちしております。
5/12(土)
20:15〜21:14
それは虹が出る天気雨の日。
学校の帰り道、幼馴染みと一緒に突然振り出した雨に、髪を、ランドセルを濡らしながら、田んぼのあぜ道を急いでいた。
天気雨は放課後のまだ青い空から降ってきてぼくは不思議に思ったものだ。
「ほら見て」
幼馴染みが指をさす。東の空に、大きな虹。
「虹だ」
「虹だ」
ほぼ同時に発せられた言葉は、必ず次の言葉で締めくくられる。
「ハッピーアイスクリーム!」
ぼくたちは子供らしい笑い声を高く上げながら、飛び跳ねるように絡み合っては離れ、離れては絡み合う。
そんな日がいつも続くと信じて疑わなかった頃だ。
やがてぼく達も中学生になり、それなりに思春期というものを迎えた。彼女は誰からも好かれるようになっていて、ぼくは部活動に精を出すようになっていた。
お互いの距離が開き始めたのはきっと、この頃だろう。
――彼女に彼氏が出来たそうだ。
中学三年生の夏。水道水を蛇口から直接飲んでいたときだ。部活仲間が囃すようにぼくに言ってきた。ぼくは「ふうん」と気のない返事をする。
「お前あいつの事好きだったじゃねえか」
つまらなさそうに唇を尖らせる部活仲間が、ぐりぐりとぼくにヘッドロックをかける。「やめろよ」と言ってじゃれていると、校庭の隅を彼女と彼女の彼氏らしき人が、正門を出て行くところだった。
「先越されたぞ、お前」
ぼくと彼女は幼馴染みで、それ以上でもそれ以下でもない筈なのに、いざ彼女に彼氏が出来たことを目の当たりにすると、胸の奥がぎゅう、と唸る。
認めたくないけれど、きっとこれが“恋”というものなのだろう。
やがて進路を決めて、それぞれの高校へ行こうかと言うとき、転機が訪れた。幼馴染みが、久しぶりにぼくの家を訪れたのだ。
「まあ、まあ、ユリちゃん久しぶり。上がって行って。近所だって言っても大きくなると躊躇しちゃうかしら」
おふくろのお節介を一通り受けて、幼馴染みがぼくの部屋に入ってきた。
「おじゃましまーす」
手には紙袋。若草色の薄手のセーターに、青と白の細いストライプのスカートを履いていた。
「何しに来たんだよ」
ぼくの口調は自然とぶっきらぼうになる。うん、あのね、と言って幼馴染みは話し出した。
「ヒロヒトは好きな人っている?」
ぐ、いきなり来たなコイツ。ぼくはなるべく平静を装って机に視線を向けた。やりかけの課題が無造作に散らばっている。
「い、いるよ」
声が上擦った。「そう」幼馴染みはそう言って、伏し目がちに言った。あれ……こいつ……こんなに……。
「ねえ、言い合いっこしよ」
幼馴染みは笑ってぼくの方に膝を突き出した。ぼくは思わず身を引く。
「せえの」
――ええい、ままよ!
「ユリ」
「ヒロヒト」
――え?
「でもお前、付き合ってるヤツ居たんじゃ……」
「ああ、あれはね、周りが騒いでいただけだよ」
幼馴染み、ユリは、頬をぷっと膨らませ、それから弾けたように笑う。
「よかった、嫌われたのかと思ったから」
ユリは窓の外を見て、あ、と声を上げた。自然と、ぼくも目が行く。
「虹だ」
「虹だ」
それはつかの間の天気雨。ぼく達はいつかの田園を思い出しながら、
「ハッピーアイスクリーム!」
と言って笑った。




