第七話 死の形
「暗いよー、どしたん?」
声が後ろから追いかけてくる。
正直うっとうしかったのだが振り切る気力もない。
学はうつむいたまま学校からの帰路を歩き続けた。
「……アケミさんは仕事、いいんですか」
背後を歩く死神に問うが、アケミはどこか楽しそうに、
「これも仕事仕事」
とだけ答えた。
仕事? 僕に構うことが?
疑問だったがそれ以上訊く元気もなく、再び押し黙って歩き続ける。
ただしアケミは黙らない。
「で、なになに? 失恋とか?」
恋もしてないのに失恋なんかできるわけがないだろうに。
そう思ってみるのだがしかしどこか核心を突かれた感は否めない。
アケミもそれに気づいたのか、「ははあ」とつぶやいたようだった。
「そっか、ご愁傷様」
「何がですか」
「だぁいじょぶだいじょーぶ、そのうち新しいコが見つかるって」
「だから何がですか」
「いいからいいから。おねーさんは全部わかってるから」
追いついて横に並んだ彼女は学の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「なんにも知らないくせに」
小さな声だったがアケミは聞き逃さなかったようだ。
「んー、まあぶっちゃけそうね。説明してもらわなきゃなんにもわかんないね。あ、いや想像はできるかな。カナちゃんと喧嘩しちまっただー、とか」
「違います」
「じゃあ喧嘩じゃないんしょ? 気まずくなっちゃったとか?」
「……実は見てたとかじゃないですよね。昨日のこと」
「そんなワケないじゃーん。わたしこれでも結構忙しいし?」
「ならいいんですけど」
もちろん全面的に信用はできない。
何せ相手は死神だし、その上変質者だ。
アケミは少しの空白を挟んで再び口を開いた。
「でもいつかは死んじゃうんだし、悔いのないようにしときなよ」
足が止まる。
アケミも遅れて立ち止まった。
「どした?」
ちょうどコンビニの前だった。あのコンビニだ。
まだ事故の跡が残っていた。
そのうち修繕もされるのだろうが、今はまだ残っていた。
「……」
そこから目を離せない。
数日前にここで一人が死んでいる。
そう思うと冷たいものが足元から這い上がってくるのを感じた。
「怖い?」
アケミの声で我に返った。
「大丈夫?」
「あ……はい」
再び歩き出しながら、考えていたのはやはり例の事故のことだった。
いや、もっと正確にいうならば、事故によってよりはっきり意識させられてしまう香奈の死のことだった。
腹に響く衝突の音。金属のひしゃげる音、ガラスの割れる音。
その向こうに人間がつぶれる音もあったのかもしれない。
そしてそれが学が生まれて初めて触れた鮮明な死の形なのだった。
香奈が死ぬ。それは香奈があの轟音に呑まれるということだ。
そして、形をとどめない。
潰れて、死に顔もわからない。
立ち止まっていた。
うつむいていたので自分の足とアスファルトの表面だけが見えた。
「後悔したくなかったら、後悔しないだけのことをしないとね」
アケミの声が聞こえた。真面目、とは程遠いからかっているような口調。
「まあそれでも後悔するときはするけど。てかもっと後悔することもあるけど。でもやったという事実は残る。変化は起きる。それがほしけりゃまず行動ってね」
顔を上げた。
目の前には誰もいない夕日の道が伸びていた。
死神はどこにもいなかった。




