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第五話 死ぬべきは

 いつ頃から差がついたのだろうと考えることがある。

 それは時々ふっと湧いてきて、瞬く間に学の頭をいっぱいにする。


 学と香奈は幼馴染だ。

 小さな頃から知っている同級生は他にもいるが、学が幼馴染と思っているのは香奈ただ一人で、それだけ香奈との思い出は特別だった。


 大きくなったら結婚しよう。

 はっきりとした記憶はないがその類の約束もしたかもしれない。

 だが約束をしたかどうかそのものは重要ではないはずだ。


 いつも一緒にいた、というほど始終べったりくっついていたわけでもない。

 もっと長く時間を共にした仲間も別にいたし、香奈の方だってそうだっただろう。

 それでも香奈と一緒に過ごす時間はそうでない時間よりもずっと楽しかった。

 香奈の方はそう思ってくれていただろうか。

 知りようもない。けれどそうであって欲しいと学は願っている。


 学校が終わって家に帰ると庭に出る。

 すると境を接する向こうの庭から香奈もやってくる。

 今日は何する? から始まって、また明日、までを一緒に過ごす。


 そのまま庭で遊ぶこともあればどちらかの家で遊ぶこともあった。

 それ以外の場合ももちろんある。

 あるときは一緒にとても遠くまで歩いてみた。


 まだ世界の広さを知らない子供にとって「輪の外」というのはとても恐ろしく、しかしだからこそ魅力的なものだ。

 この道はとても遠くまで伸びているけれどどこで途切れるのだろうと、疑問を持つ子供は少なくない。

 学たちもそれは同じで興味本位で歩き始めたのだった。


 どこまで行っても道は終わらないことを悟り始めたのは夕方になってからだ。

 景色は変わり、薄暗くなり始め、気づいた時には足がジンジンと痛んでいて、とうとう香奈がべそをかいた。

 その段になってようやく遠くに来すぎたことを知った。

 今にも泣き出しそうな香奈の手を、しっかり握って帰りの道を歩き始めた。

 学も泣きたかったがそれでも泣かなかった。

 あの時はまだ自分の方が強かった、と学は思う。


 おそらくは中学に上がってからだ。

 何かが変わった。

 わずかながらも確かなものなのに、はっきり言い表すことのできない変化。

 思春期という言葉でそれが括られるのだと知った時には香奈はずいぶん遠くなっていた。


 別々の友達が増えた。

 話す機会が減った。

 庭に集合することもなくなった。

 一緒に迷子になった記憶もいつしかかすんでなかったことになった。


 そして、それからだと思う。

 なんだかどうにも生きづらくなった。


 何をしてもわからない。

 何をしても違う気がする。

 友達と話していても別のことを考えていて、遊んでいても心はそこにない。


 思春期。

 便利な言葉だと思う。

 居心地の悪さ気持ちの悪さ苛立ちの積み重なりもその一言で片づけられるのだから。

 ああ思春期だね、それ。

 その言葉でまた鬱積するものもある。


 笑うことをやめた。

 それだけで人は寄り付かなくなった。

 機嫌を取ることもやめた。

 孤立した。


 それでいいと思った。

 なぜならそれでいいとしか思えなかったのだから。

 だから思う。

 死ぬなら僕なんじゃないだろうか、と。

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