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第四話 惜しまれる人、惜しまれない人

 なんでこの人が死ななければならなかったのか。

 そういった惜しまれ方をするであろう人間が世の中にはいる。

 香奈はきっとその一人なんだろうな、と黒板の問題を解く彼女を見ながら学は思う。


 先に取り掛かった一人が既に解答にしくじった難問なのだが、香奈は時折手を止めながらも順調に数式を連ねていた。

 香奈は頭のいい方だ。

 定期テストの返却時期には、合計点がクラスで何番目だの学年で一桁だのと聞こえてくる。


 部活動での成績はもっと優秀で、今年は全国レベルの大会も狙えるのではと噂になっているようだ。

 それから付け加えるなら見た目も悪くない。

 これについては上がもっといるらしいけれど。


 ただ、とにかく言えるのは彼女は才能に恵まれているということだ。

 香奈が解答を終えて席に戻った。

 教師の杉本先生が小さくうなずいて詳しい解説を始めた。


 休み時間になると、クラスメイトの一人が香奈に泣きついた。

 次の授業までの宿題をやっていなかったらしい。

 あまり時間のかかるような課題ではないのだが、そのクラスメイトはあまり成績の良い方ではなかったように思う。

 香奈は呆れながらも助けてやることにしたようだった。


 学がすごいなと思うのは、香奈は宿題の解答をそのまま見せてやるわけではなくしっかり順を追って教えてやることだ。

 彼女は要点を押さえて短く、的確に解き方を説明していた。


「答えだけ見せてよー。写すから」

「その答えにした理由訊かれたらどうすんの。ほら、こことここに線引いて。この二つの記述から推測すると?」

「……三?」

「さあ。そのものずばりまではね。そこは自分で考えて」

「いいじゃんケチー」


 それから五分ほど。休み時間が終わる前にはどうやら全部解けたようだった。


「うっしできた!」

「解き方は覚えた?」

「多分だいじょぶ。ありがと、香奈大好きー!」

「それはいいけど毎回わたしに頼るのはやめてよね」


 香奈の答える声には苦笑いの響きが混じっていたが、だからといって嫌なわけではないようだ。


 才能に恵まれているだけではない。

 彼女は好かれている。

 好かれて、必要とされている。

 もちろん楽して宿題を終わらせるための道具としてではなく一人の人間として、ということだ。


「じゃあまたあとでね、詩織」

「うんおっけ」


 学はその声でようやくクラスメイトが詩織という名前だったことを思い出した。


 学はクラスメイトの名前をほとんど覚えていない。

 顔を見て名前を思い出せる人数となるともっと少ない。

 別に自分から周りと距離を置いているわけではない。

 ただ、埋めたくても埋められない距離があるのだ。


 放課後、昨日と同じようにテニス部の練習を眺めていると後ろから気配がした。

 振り返らずにつぶやく。


「なんで和泉さんが死ぬんだろ」

「さあ?」


 アケミは学の隣まで来て足を止めた。


「和泉さんは頭がよくて、部活でもいい成績残してて、人柄もよくて、好かれてるんですよ」

「頭がよくて運動神経もよくて性格は最高で、それで好かれてると死んじゃいけないってこと?」

「それは……いえそうじゃなくて」


 アケミを見るが彼女は肩をすくめるだけだった。


「わたしも知らないよー、クソジジイが決めるもん。そのクソジジイもなんかすっげ難しい決まりで決めてるらしいし。つか興味ねえわ」


 途方に暮れて学はコートの方に目を戻した。

 ちょうど香奈の打ったボールが相手の守備範囲外を抜けたところだった。


(僕の方がぴったり過ぎるほどぴったりだと思うんだよな)


 学はぼんやりと思った。

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