第二話 事故
朝、目を覚ましてすぐに学は周りを見回した。
部屋に自分以外誰もいないことを確認し、ほっと小さく息をつく。
もしかしたら寝ているうちにアケミが戻ってきていないかと思ってしまったのだ。
(本当、なんだったんだろう)
朝食後、インコの餌と飲み水を取り替えて学校へと出発してからも胸のもやもやは晴れなかった。
死神、それからアケミと名乗った変質者のことも気になるし、彼女が住所を知りたがっていた同級生のことも気になる。
何か変なことにならなければいいけど、と学は心配になった。
まあ昨日のあの様子だともう学に用はなさそうではあったし、だとしたらもう会うこともないだろうが。
住宅地を出て大通りに出て角を曲がるとアケミがいた。
「!?」
学は息を詰まらせて物陰に隠れた。
コンビニ駐車場の端に、彼女は昨日と全く同じ格好で立っていた。
ポケットに手を突っ込んで、見るからに退屈そうなタルいぜオーラを周囲に放射している。
明らかにスーツや学生服といった朝の風景からは浮いていた。
学はしばらく隠れたまま様子をうかがったが、彼女は一向にその場から動く気配がなかった。
仕方なしに道の反対側に回って、顔を伏せるようにして通り過ぎようとした。
しかし。
「なんか落ちてんの?」
「わっ!?」
突然視界に現れたアケミに、学は小さく悲鳴を上げた。
学の足元をしばらくじろじろ眺めながら彼女が言う。
「なんだろ。何もないように見えるけど」
「は、はあ」
「でもあんたにはなんか見えるわけ?」
「……いえ何も」
「ふーん、見えないのに見てたんだ。変なやつ」
あなたほどじゃありませんよ。
思わずこぼれそうになった言葉を飲み込んで学は彼女に背を向けた。
「すみませんが僕、学校があるので」
そそくさと逃げようとする学だったが襟首を引っ張られて後ろによろめいた。
「なにするんですか!」
ぞっとして今度こそ叫び声を上げる。
だが慌てる学と反対に、アケミはあっけらかんと言った。
「いや、危ないから」
「あ、危ない?」
確かに変質者に捕まっている今はとても危険な状態かもしれないが。
「うん。わたしの仕事の時間なんよ」
「仕事って……」
「死神の仕事。邪魔しないでね。手間増やすのも禁止」
その時けたたましい音がした。
鼓膜を刺すような高い音。それから腹に響く衝撃。
角を曲がるのに失敗した車が、対向車にはじき出されて学の視線の先でコンビニの塀に激突した。
それだけはしばらくして理解できた。
それ以外の全ては何も頭に入ってこなかった。
学は突然降ってきた静寂の真ん中で呆然と立ち尽くした。
アケミはいつの間にかいなくなっていた。




