9.攻略対象その2。そのご!
9.攻略対象その2。そのご!
「………お嬢様」
「言わないでちょうだい……わかっているから………」
はい。皆さんこんにちは。
お元気でしょうか?
私は今――大変に困っております。
攻略対象その2であるユーリスの女装癖を回避できた私ですが、その代わりとなる代償が酷かった。
婚・約・破・棄!
まさか。まさかユーリスのお母さまが、将来の娘だけでは飽き足らず、本当の娘にすべく画策しはじめたとは思いもしなかったわ。
今、我が家には何通もの私の養子縁組の申し込みが届けられている。
父が必死に拒否してくれているけれど、その手紙は無情にも届けられる。
「まぁ、ナターシャ。いつでも私の娘になってくれてもいいのに」
今日も今日とてユーリス宅でクラリスさんの着せ替え人形になっている私。
「いえ、私にも両親がいますので」
「残念ねぇ。いつでもいいのよ?あ、次はこのドレスとショールね」
クラリスさんの言うがままに着替える私。
そしてそこに介入するのが――
「やっと仕立て屋からドレスが届いた」
元婚約者となってしまったユーリス。
彼は、非常にデザインをするのがうまかった。
私に似合いそうなドレスをなんとスケッチブック3冊にも渡って考えていたというのだから驚きだ。
「……ユーリス様はデザイナーにでもなるのですか?」
「まさか!私は父の後を継ぐにきまっている。これはほんの息抜きだ」
息抜き、でスケッチブック3冊分ですか。
「ユーリス様は、婚約破棄のこと、どうお考えですの?」
「ん?そうだな。母上がナターシャのことを本当の娘にしたいのならば止めはしない」
あ、そうなんだ。
「私にはどちらでもいいからな」
……それは、嫁にしようが妹になろうがどっちでもいいということなのだろうか。
というかユーリス。……こいつ、完璧に恋愛感情未発達系男子だ。
「そんなことより、次はこの薄紫のドレスとショールだ」
そんなことより、ですか。
溜息をつく。
この二人。私を着飾ることに命かけてる。
今日も今日とて、夕方まで拘束されるのだろうな。と私は着替えるのだった。
「お嬢様、衣装箪笥がもう一杯です」
「わかっているわ…」
「旦那さまにお願いしてもう一部屋衣裳部屋にいたしましょう」
クラウスは私の衣装などの管理もしてくれている。
…ユーリス家に行くようになって、私の衣装箪笥はいっぱいいっぱいだ。
「私の、私のやり方は間違っていたのかしら……」
またもや婚約破棄されてしまった私。
この年(10歳)でバツ2ってどういうことよ。
「お嬢様が危惧されていたことは回避されたのでしょう?」
「ええ、そうね」
最悪なのは、壊れてしまった母親によって、ユーリスが壊されてしまうこと。
「ユーリス様も、ユーリス様の御生母も、今はお元気そうです」
「ええ、とてもね」
「ならば、お嬢様が果たされたいことは叶ったことになるのでしょう」
「ええ……そうね」
「お嬢様がどこまでをお読みになられていたのか、私には想像もつきません。ですが、あなた様が行動されたことで、未来は変わったのです。それが答えではありませんか?」
「………そうね」
そう、確かに結末は変わった。
それが、私の行動した結果だ。
きっと、いい方向に未来は変わった…と思いたい。
「ナターシャ」
また、お父様に呼ばれた。
「はい、なんでしょうか」
「養子の申し出を断るためにも、早急にお前の新しい婚約者を決めたぞ」
「まぁ…」
なるほど、牽制も込めて、婚約者を決めるということなのか。
「王宮騎士の一族、トルーガー・エト・カザフトロスだ」
また、聞き覚えのある名前がその口から出てきた。
……呪われてるのかしら。私。