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8.攻略対象その2。こうぼうせん!

8.攻略対象その2。こうぼうせん!



「まぁ、やっぱり薄ピンクのドレスが似合うわね。でも、こちらのコサージュと合わせて…。ああ、やっぱりこちらのコサージュかしら」

「え、ええと、お義母さま?」

「なあに、ナターシャ。ああ、こちらのドレスも似合うわ!この靴と一緒に履いてみて!」



拝啓、お父様。お母様。


私は今、人様のおうちで――着せ替え人形になっています。



次第に元気になっていったユーリスのお母様。クラリスさんは、元気になると衣服商人を何人も家に呼んだ。

そして、ドレスや小物をどっさりと持ち込ませると、私に次々と着せ替えさせた。

『わたくし、娘ができたらたくさんお洋服を着せてあげるのが夢だったの』

て言われたら、否定できまい。


ええ、私も女のはしくれ。

ドレスは好きよ?

でもね。限度があるわ。


一回に50着も着せかえるなんて、正気の沙汰じゃない。


「ナターシャはかわいいわね。さらさらの金髪に美しい紫の瞳。ああ、本当にかわいらしいかんばせ。どれを着ても似合いますわ」

「あ、ありがとうございます。お義母さま。でも、お義母さまのほうが、何を着ていらしても似合っていますわ」

「まぁ、ありがとう。でもそうね、やっぱりこのドレスのほうが、ナターシャには合うかしら」

「ま、まだお着せになるの……!?」

夕方である。

朝から着まわしているのである。もうそろそろ……勘弁してもらいたい。


こんな調子でユーリスも着せられたのだろうか。

そりゃ病むよ。病みまくるよ。


「そうね。では、これとこれとこれとこれと、ああとその靴とそのコサージュ一式とそれをお願いね」

「畏まりました」

「え!?そ、そんなに買うのですか!?」

「あら、付き合ってもらったお礼よ。ナターシャへのプレゼントだわ」

ドレス一着でも最高級な品。はっきりいって、このコサージュ一つでクラウスが三人買える。

「そ、そんなにもいただけませんわ!」

「何をおっしゃっているの。大事な娘だもの。これくらい当然だわ。それに、旦那様はいくらでもナターシャのために使っていいとおっしゃっているわ」

そりゃ、妻に甘い伯爵だ。

お願いされたら断れないだろう。

それにしたって、それにしたってである。


もらいすぎなんですよおおおおお!!


「母上、ナターシャが困っています」

「あら、ユーリス。仕方ないわね、これとこれだけにしておくわ」

ナイスフォローユーリス!

だが、ユーリスは冷たい目で私を見るばかり。


そう、クラリスさんと仲良くなりはじめてから、彼の態度がかわった。


あ、そうだった。そうだよ。そうに違いない。


彼は、マザコンだ。それも重度の。


だから、あれだけ母の期待に答えたかったのだろうし、母の愛を失うことを恐れていた。

その彼から、母親を奪ってしまうようなことになってしまった――



将を射んと欲すれば先ず馬を射ようとして将に嫌われたパターンじゃないですかー。



あああああ。もう、上手くいかない!!!!

帰りの馬車の中でバタバタしていると、先ほど送られたプレゼントを確認していたクラウスがどうしました?と聞いてくる。

「私、ユーリスに嫌われたかもしれない!」

「まさか」

「あーもう、どうすればよかったの!?」

頭を掻き毟りたくなった。

本当、どうすればよかったの!





さて、今日も今日とてユーリス宅で着せ替え人形。

疲れた……まだやっと12着め……。


「ナターシャ、次はこのドレスですわ!」

「は、はい、お義母さま……」

私のほうが目がうつろになってくる。


その時だった。普段は冷たい目でこちらを睨みつけてくるユーリスが耐えられない!とばかりに動いた。


「ナターシャ!」

「は、はいぃぃ!」

目が据わっている。あかん。これ、完璧に母上をとるなって言ってくるパターンだ。

私は、覚悟をした。

ごくりと喉が鳴る。



「母上!ナターシャにはこのドレスにこのコサージュが似合うと思います!」


………。

…………はい?


「まぁ!それでは目の色とかぶってしまっていてよ!」

「だからこそ調和がとれるのではありませんか!このドレスにこの靴では調和が乱れます!」

「でも、この靴はこのリボンがかわいくて…」

「だとしたら、こちらの靴のほうが上品で美しいでしょう。ああ、どれも既製品ばかりでしっくりこない!おい、衣服商人!」

「は!」

「このスケッチ通りに来週までに作ってこい!」

「かしこまりました!」

え、スケッチってなにさ。

ユーリスはどこからかスケッチブックを三冊ほど取り出して、商人に渡している。

え、三冊。三冊!?


「ナターシャ、これとこれを組み合わせて、あとこれを着るんだ」

「え、あ、あの」

「いいから早く!」

「は、はい!」

あわてて部屋を移動し、ドレスを試着する。


「まぁ、そんな組み合わせ、思いつかなかったわ!」

「やはり、彼女にはこれが似合う」

ユーリスが得意げにしている。


まさか。だけど。

あの冷たいまなざしは……。睨んでいるのではなく、もどかしい気持ちでいた?

私ならもっと似合うコーディネートをできるのに、と?



それからは、地獄だった。


ただでさえ、クラリスさんの要求は多いのだ。

なのに――それにユーリスが参入してくる。


長い上に解放されない。



私は、ぐったりとして、毎回屋敷に帰るのだった。





「ナターシャ、ありがとう。わたくし、娘のユリアが死産だったとき、本当に人生のおしまいだと思ったの。でも、あなたが来てくれてそうではないとわかったわ。あの子の死は悲しい。今でも胸がちぎれてしまいそう。でも、ちゃんとユーリスのことを見てあげないと。わたくし、お母様ですものね」

クラリスさんは、以前の美貌に戻ったようだった。


多大なる犠牲(主に私の精神的な意味で)を払ったが、クラリスさんが元気になってくれた。

これで、現実逃避にユーリスに女装をさせることはあるまい。

今は着せ替え人形(残念なことに私)がいるものね。



ああ、朝日がまぶしい。

でも、これで女装趣味の変態という道を防ぐことができた。

これで私の将来は安泰だ。ユーリスは私を着飾らせることになんかすごい熱意を込めているけれど、いい旦那さんになりそうだ。

ふふふ。

私、これで幸せになれる――はずだった。





「ナターシャ、ちょっと来なさい」

「なんでしょうか、お父様?」

お父様がすごく難しい顔をしている。

…なにかあったかしら。




「ナターシャ、ストロガノス家から、婚約破棄の申し出があった」


―――は?


婚・約・破・棄?


ま、まって、私、こんかい飛び蹴りしてない!

それどころか気に入られていたはず!?


「代わりに、養女に迎え入れたいとの要請が来ている」

ふぁ!?


「確かに、気に入られるようにしろとはいった。だが、そこまでしろとは言っていない!」

「ま、まってください!だって、そもそも結婚したらあちらの娘になるのですよ!?」

「夫人の話では、結婚したら、『ユーリスの妻』が最優先されるのだろうと。それでは物足りないそうだ。本当の娘として、ずっと一緒にいたいそうだ」

それ私結婚させてもらえないフラグじゃないっすか。


「お前、ストロガノス家に行くか?」

「ま、まさか」

「当然断っておいた」

ありがとうございます!お父様!!

「だが、もうこの手紙で5通目だ」


うわー。

うわーーー。


「おまえは、いったい何度騒ぎを起こせば気が済むのだ!!謹慎しておれ!!!」



ああ、そんな。


ユーリスは救った。

救えた。でも、かわりに婚約者としての地位を失った。

ていうか、クラリスさんによるヤンデレ監禁フラグが立ってしまった。



ああ、神様。

クソすぎるBLゲームに転生したようですが、幸先が悪すぎて萎えまくっています。


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