6.攻略対象その2。データしゅうしゅう!
6.攻略対象その2。データしゅうしゅう!
その名前にはかすかに聞き覚えがあった。
ユーリス・フォン・ストロガノス。
だが、直接会ったとき、また脳裏に映像がフラッシュバックしたのだった。
ユーリスは類まれなる美貌の少年だった。
輝くような銀の髪、美しい水色の瞳。
肌は驚くほどの白さで唇は何も引いていないのに艶やかだ。
お人形のような美少女、と言われても驚かないほどの美しさだった。
…はい、私よりもよほど美しいです。
「私がユーリスだ」
「はじめまして、ユーリス様」
「お前が私の婚約者か」
冷たい目で私を見るユーリス。
ああ、そうだ。彼は、彼こそが。
あのクソゲーの攻略対象その2。女装癖のある変態だ。
私は、あのゲームのキャラクターと再び対峙したのだった。
ユーリス・フォン・ストロガノスはあのゲームでは1学年上の先輩だった。
白皙の美貌に優美なる姿。
下級生からも上級生からもその美しさは一目を置かれていた。
そんな彼の趣味は夜な夜な姿鏡に女装した自身の姿を映すというもの。
その姿を主人公に見つかってしまい、彼はそれから虐げられることとなる。
『こんな女のような姿をして、興奮しているのか?』
主人公は彼を苛む。女性用の下着に身を包んだ彼を虐げ蹂躙していく。
その責めたては次第に彼の心を折り、人形のような姿へと変える。
ユーリスエンドは人形のように虚ろな顔をして、意思もなく、主人公に従う道具となるというエンドだった。
いや、ひど過ぎるっしょ!そのエンド!!
終わったとき、なぜにそうなったし!と叫びそうになったのだ。
似合っている。似合ってはいるのだが、妻よりも女装が似合う夫は少し複雑な気持ちになる!
彼が女装好きになった理由というのは設定資料によると、次のようなことだった。
彼には最愛の母がいた。
だが、彼が11歳のとき、母は死産をしてしまう。
生まれるはずだったのは娘。
母は、そのショックに耐えることができなかった。
娘を死なせてしまったことを、母は嘆いた。
そして、次第に狂っていった。
――息子を、娘だと思うようになったのだ。
娘の代わりに息子を着飾るようになる母親。
その虚ろな表情に、彼は、これで母が幸せになるのならばと耐える。
だが、どんどんとエスカレートしていく母の要求。
彼は、女でない自分を恥じるようになる。
だが、その苦痛にも満ちた二人の関係は突如途切れることとなる。
そう、彼が成長し始めたのだ。
わたくしのユリアはそんな低い声をするはずがないわ。
――彼は口を閉ざすこととなる。
わたくしのユリアはそんな喉のふくらみがあるはずはないわ。
――彼は、喉元を隠すような服ばかりを着るようになる。
わたくしのユリアはそんな大きくなるはずがないわ。
とうとう、彼は、母に捨てられてしまう。
お人形をユリアと呼んで着せ替えをしていく母。
……もう、その目にはユーリスは映ってはいなかった。
もっと綺麗にならなくては。
ユーリスは夜な夜な鏡の前に立つ。
もっと華奢でなければ。
食事の量が減る。
もっと、もっと母の望む姿でなければ。
彼は、女性の姿で鏡を覗き込む。
――そこに映るのは、母の愛情を求める悲しき人形だった。
ねえ、このBLゲーム。
設定と本編にえらい温度差があるのだけれど。
設定の、無駄使い!!!
本当にそう叫びたくなる。
ユーリスは今11歳。
もしかしたら、妹は死産してしまっているかもしれない。
だが、今なら、まだ間に合う。
彼をかわいそうなお人形にしないためにも、今なら変えられる。
「ユーリス様よろしくお願いしますわ」
「ふん、せいぜい邪魔をしないようにな」
ユーリスはふいっと目を背ける。
う、可愛くない。
だが、彼を救うためにも、私が頑張らないと。
第二の調教が始まろうとしていた。