5.攻略対象その1。そのご!
5.攻略対象その1。そのご!
「お嬢様……」
「言わないで……わかっているから……」
はい。皆さんこんにちは。
お元気でしょうか?
私は今――大変に落ち込んでおります。
攻略対象その1であるグランツのお尻の平穏を無事守ることができた私ですが、その代わりとなる代償が酷かった。
婚・約・破・棄!
うわああああ、まさかそう来るとは思わなかったわ!!!
でも、そうよね、そうよね。
まさか先方さんも思わないよね。
令嬢が、飛び蹴りくらわすような女の子だとは!!
カスケード家としては、え、従兄のアンドリューを蹴った?
どんな凶暴な娘なの?うちのかわいいグランツの嫁としては怖くない?
ってなるわよね!!!
グランツを襲った、って件知らなかったら。
グランツからはあの後、お手紙が届いたわ。
あの一件を非常に悔いていた。
自分の力不足のせいで、私を危険にさらしてしまったこと。
そして、あなたに相応しい男になるために修行してまいります。と熱心な手紙だった。
え、婚約破棄のこと、知らなくない?
そこでわかってしまった。
あ、カスケード家、今頑張って訓練しようとしてる息子にこの残念な結果を教えるのは後にしよう。とか思っちゃっている気がする。
教えてよおおお!
そしたらグランツからの口添えくるかもしれないじゃない!!!
ただ、私からはグランツに言うのは憚られた。
だって、そうじゃない。あの優しい子だもの。自分のせいで、婚約破棄だなんて知ったら、責任を感じてしまうわ。
そして、あの不名誉な件を言おうとするかもしれない。
グランツにとっては思い出したくもない、あの一件を。
それは、どうしてもできなかった。
だから、私からの手紙も。
拝啓グランツ
お元気ですか?
私は――元気です。
と書くほかなかった。
「よろしかったのですか?お嬢様」
「くどいわ。クラウス」
クラウスは、あの件で私が罰せられるのが納得できないらしい。
本当に私のことを考えてくれている。
けれども私は決めたのだ。
あのことは口を閉じると。
さて、お父様に命じられた勉強がまだ残っている。
刺繍や礼儀作法のお稽古もたくさんしなければ。
あの一件から3カ月。
お父様が再び私を呼び出した。
「なんでしょうか。お父様」
「おとなしくやっているようだな」
ええ、この3カ月、令嬢としておとなしくしていましたわ。
お勉強もお裁縫も礼儀作法ダンスもすべて頑張ってやってましたわ。
「やっと縁談が決まった」
「まぁ!」
どうやら、新たな婚約者を見つけてくれたようだ。
「相手の家はあの一件を知らぬ。きちんとするのだぞ」
「わかっていますわ。それで、相手はどなたなのですか?」
「ユーリス・フォン・ストロガノス。伯爵子息だ」
再び、波乱が訪れようとしていた。