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2.ゲームすたーと!

2.ゲームスタート



どうやら、あのフラッシュバックで思い出したのは、前世が別の世界の女性だったということと、クソゲーたるあのBLゲームのことだけだった。


クソゲーだなんて言葉使いが悪い。お父様に知られたら叱られてしまう。

けれども、彼女が使っていたであろう言葉は妙に馴染んだ。

……馴染んでしまった。


ナターシャ・フォン・ヴォルデリックである自分の知識はそれ以上にあるのかを思い出す。

……端役過ぎて記憶にない。

悲しすぎるでしょう……。


ただ、えーと、彼女が修道女になるスチルには、彼女の護衛の青年が映っていたはず。

そう、妙に美形だったことを思い出す。

たしか設定資料集にその存在のことが書かれていたはず。


たしか、ナターシャが10歳のときに買い与えられた奴隷の青年で、買われたことに恩義を持ち彼女に仕え続けた。片手が使えない。彼女が修道女になるのに付き添った。


なんでこんな気になる設定にしたし!!

設定の無駄使いかよ!!とも思った。気になる存在なのに、出てくるのその最後のスチルだけなのだ。

設定資料集にはナターシャ以上に詳しく書かれていた。

前世の私は、実は登場人物の中では一番その護衛が気に入っていた気がする。


私にはまだそんな存在はいない。ということは、これから買い与えられるのか?


それよりも、私の婚約者の彼の情報はないかと記憶をたどる。


グランツ・フォン・カスケード。

さわやかな青年。整った容姿と鍛え抜かれた剣術を持つ。しかし、趣味はアナニー。

10歳の夏に従兄の青年から強姦され、それ以降お尻の穴をいじらないと達することができなくなる。

そんな自分に嫌悪感を持ちつつ、やめることのできない性癖に悩むことになる。


そう、たしかそんなことが設定資料集に書かれていたはず。

どの人物も変態になる理由がひどかった気がするのだ。


ということはだ。

その理由さえなくなれば、まともに育てることができる、ということか?


今はまだ――春だ。

まだ間に合う、アナニー好きな設定を変えられる。

そう思うとがぜんやる気になるのだった。




その日、ナターシャは両親と買い物に出かけた。

市場への買い物である。

両親はナターシャに「なんでも買っていい」と約束してくれた。

きっと、この時に護衛が買い与えられるのだろう。

いつその護衛と出会えるのか、わくわくとしていた。


だが――一向に奴隷と出会う気配がない。

まさか、こんなところで前世のゲームとの差異を感じるなんて。


「ナターシャ、もうそろそろ帰りますわよ」

「え!あ、お母様!」


これは……もしかして。


私が、行動しなければ、いけないということか?


「お母様、もう少しお待ちになってください!」

「あら、ナターシャ、そっちは危険ですよ!!」


私は走った。そうして、裏路地のようなところに入っていく。

もし奴隷を扱っているとするならば、こういう陰に隠れた場所に違いない。


はたして――その予想はあたった。


(う、酷い匂い)

悪臭に鼻がもげるかと思う。

虚ろな目に絶望に染まった表情。

そこには、幾人もの奴隷たちが鎖でつながれていた。


「ナターシャ、こんなところに来てはいけない」

追いかけてきてくれた父親が眉をひそめる。


「お父様、『なんでも買ってくれる』とお言いになりましたよね?」

「そうだが…」

「私、あれがいいです」


なぜだろう、それが、彼だと、わかったのは。


奴隷たちの中でも一等酷い長身の男性。

全身ぼろぼろで、腕がちぎれかけている。

身に纏う服もボロ布のようだ。

なぜだろう。

それが、あの彼だと私にはわかるのだった。


「……奴隷ならいくらでも買い与えるが、よりにもよってあれはないだろう」

「剣ダコがあります。護衛として使えるかも」

「だが、あの腕では……」

「お父様、一番酷い奴隷です。きっと、このあと処分されてしまうのでしょう。だからこそ、私はあれがよいのです」


それは、前世の記憶だったのか。それとも、ナターシャの直感だったのか。


一目見て、あれがいいと思ってしまったのだ。


長身の奴隷は、虚ろな目でこちらを見つめる。


「お譲ちゃん、本当にこいつでいいのかい?安いが、もっといいのは他にもいるが…」

「あれでかまいません」

「仕様がないな。めったにないナターシャのお願いだ。きちんと面倒をみるのだぞ。ああ、最低限の礼儀を教え込まなければ」

「お父様、ありがとうございます!」

父親に飛びつく。


奴隷は銀貨50枚で買えた。他の奴隷は金貨がほとんどだ。破格ともいっていい。

それほどまでに衰弱し、使えものにならなさそうだった。


「おい、立て!新たなご主人様だぞ!!」

奴隷の首にかけられた首輪を引っ張る商人。どうやら、立つこともままならないようだ。

「おい、この奴隷きちんと歩けるのか?途中で死なないか?」

「大丈夫ですわよ。お父様。きっと」


きっと、この奴隷は私の一番の護衛になる。


私のこれからの計画には、きっと協力者が必要になる。

そのためにも、きちんと回復してもらわないと。


「あなた、お名前は?」

奴隷に名前を尋ねると、彼はしばらくぶりに言葉を発するのか、ゆっくりと、しかしはっきりと答えた。


「…………クラ…ウス……です……お…じょう…さま」

「クラウスね」



こうして私は、スチルにちらりと映る後の護衛を、手に入れたのだった。



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