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ポラリス 2章  作者: susan
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遺言状

「楡木さんは、彼女と別れたばかりなんですって?じゃあ、劇団員を雇うと良いですよ。そういうサ―ビスありますよ」


「紅子さんにお願いしたいんです」

楡木は真剣だ。


「無理ですよ、私は……………」


「そのお礼として、月刊札幌ライフに1年契約で広告お願いしますよ」


「じゃ、やります」


 1年契約で広告とれるなんて、凄いよ。

 よし、やろうか。



 楡木と妙な取引をした紅子は、彼に指定された日に、身なりを整えてお見舞いを持って病院へ行った。待合室に楡木が待っていた。

 

 「あの、僕が話しますから、紅子さん、何も話さなくていいですよ。一応、婚約している事にしておいて下さい」


 「はい」


 病室のドアを入ると、個室内は花だらけ。甘いお花の香りが、病室の薬臭さを消してくれている。


 呼吸器を付けた楡木の父親が、かすかに目を開けた。

 

 紅子は楡木の父親に見覚えがあった。

 かなり衰弱しているとは言え、額の真ん中にあるホクロ、右頬の大きな火傷の後。


 「こんにちは」だけ挨拶した紅子は、病室内の女性達の険しい視線にさらされた。

 

 「博司、その人は?」

と母親らしき黄色いワンピ―ス姿の女性が、楡木に聞いた。


「前に話した、紅子さん。」


 紅子は会釈した。


 母親は紅子に会釈を返した。

「父さん、結婚相手連れて来たよ。お腹に赤ちゃん

も、居るんだよ。まだ、三ヶ月に入ったばかりだよ」

と楡木は父親の耳元で話した。


 ちょっと、私妊娠してるの?

 お母さんは、私がサクラだと知ってるの?

 椅子の三人の女性達は何なのよ。

 それよりも、楡木さんのお父さん、見たことあるわ。


 「まぁ、赤ちゃん。お父さん、そしたらアレだわ、遺言状書き換えなくちゃね。何と言っても、孫の父親になる長男に財産のほとんどを残さないと、可哀想よ」


母親がそういうと、父親は小さく頷いた。

 

とたん、丸椅子に座っていた女達がざわついた。

「ワタシ、社長の子供産ンダヨ。財産権利アルヨ」

 フィリピン人ホステスの愛人?

「私も、社長の子供産んでます。貰う権利あります」

 これは日本人ホステスかな?


「弁護士に相談しますよ。私の娘だって今度大学受験ですから。社長の娘なんですから」

 この中年女は、事務員っぽいな。


 何なの?

 昼下がりのテレビドラマ観てるみたい。

 楡木さんの家、大変ね。

 あっ、思い出した。

 この社長、『シャクシャイン』っていう北海道土産のベストセラー菓子の会社の社長さんだよ。

 そしたら、楡木さんは会社継がないで、ケ―キ屋さん開いて、パティシエやってるのね。

 財産ありそう。


「そこで、粘っていても、これはどうしようもないですから、もう、お帰りください。主人も余計に悪くなりますから。でも、婚約者の紅子さんがお見舞いに来てくれたから、おなかの赤ちゃんも。これで、主人も持ちますよ、少しは長く」


 母親はドアをあけて、三人の愛人を追い出しにかかった。


 フィリピンホステスが

「アンタ、どこの店?」

 と紅子に話しかけて、病室を出た。


「失礼よね、紅子さん」

 廊下で母親はそう言いながら、のし袋を紅子のバッグの中にねじ込んだ。


「あっ、待ってください。何ですか?これは」


「タクシ―代にもならないわ。お忙しいのにすいませんね」


 楡木も病室から出てきた。


「紅子さん、ありがとうございました。メシでも食いましょう」


 母親は、病室に戻った。


 父親はかすれ声を出した。

 「今の女、俺、知ってるぞ。本当に博司の嫁さんなのか?」


           続く

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