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ポラリス 2章  作者: susan
3/13

謎の男

 紅子がストレッチマットでストレッチをしていると、金のネックレスに金の指輪の、気の良い土建屋の社長風のオヤジが来て

「ヨッ、なに、アンタ、店変わったの?」


「えっ」


「最近、見なくなったから」


「は?」


「あそこはママが意地悪だから、女の子皆辞めちゃう」


 そう言いながら、腕のストレッチを始めた。

 ヤクザな風貌に、似合わないストレッチ風景。


 ホステスじゃねぇぞ。



 紅子は、先程の阿部寛が気になっていた。

 でも、ス―ザンが随分積極的。

 今夜、楡木とジャズバ―へ行くのが、憂鬱になっている。

 結局、彼とも友達として繋がっていれば、広告が取れる。無下に出来ない。


 ス―ザンがやって来た。

「ちょっと、阿部寛と飲まない?お酒好きらしいの。楡木さんと少しジャズ聴いたら合流するか、解散して、私と阿部寛の三人で飲もう」


「会員さんを誘うのアリなの?」


「クラブによってはダブ―のところもあるわ。ここは物凄く自由な会社よ」


「了解。頃合い見計らって連絡するわ」


 紅子は一度帰宅した。

 グレンは昼夜関係なしにメ―ルをくれる。

 「直ぐに返信しないとダメ」という決まりを作り、イタリアへ旅立った。

おまけに、必ず写メールを送らなければいけない。

 何かを疑うような感じ。

 紅子はそう思われていると感じていた。


 『ハイ、グレン。お仕事お疲れ様です。私は今から取材になっちゃいました。忙しいです。』

 紅子はカメラ機材のバッグを肩に掛けた写メールをグレンに送り、ジャズバ―へ出掛けた。

 本当の事なんて、グレンに言ったら大変。

 だから、全部仕事にしておく。



 グレンは紅子からの写メールを受け取った。

 「紅子サン、日曜日も仕事?ホントウ?」

 まだイタリア7日目。

 フィレンツェで、常務理事が体調を崩した。

 オリーブオイルが合わないのか、五十代後半で、毎日イタリア料理では、体に負担が大きいのだ。

 連絡をもらった本社は、助っ人として後藤をフィレンツェへ送る予定だ。

 後藤が来てくれるのでグレンは安心した。山田課長とは、性格が合わないどころか、紅子の事を色々言ってくるのが、ストレスになっていたから。

 本社も、グレンと山田課長が仲が良くない事を理解していた。


 

 楡木は地下鉄ススキノ駅改札口近くで待っていた。

 パティシエだけあって、お洒落のセンスも抜群だ。もうすぐ三月。春らしくベ―ジュのオーバ―コ―トにグリーンのチェック柄のスト―ルを首に巻き、ヘアスタイルは完璧に整えられていた。

 

 素敵だわね。

 でも、何だろう、何もシンパシィ感じない。

 彼は私に、本当は興味ないかも。

 

 紅子の本能的な部分で無意識に感じる相手のフェロモンを、楡木からは感じ取れない。

 ジャズバ―に着いて、ウイスキ―を飲みながら全く会話を交わさずに、ブルーノ―トの調べに身を任せている楡木は、謎だ。


 店の客、誰もしゃべらねぇ。

 だいっきれぇ、ブルーノ―ト


 紅子はイモトアヤコになっていた。

 「すいません、私、実はこれから友人と約束しているんです。飲む約束なんですけど、もし、良かったら楡木さんもご一緒しませんか?」


 「いいんですか?僕も付いていって」

 「勿論ですよ」


 二人は、ス―ザン達と合流した。

 阿部寛の本名は、大森という。

 

 四人は韓国焼肉屋で呑み始めた。

 すでにス―ザンと大森は意気投合している。

 

 ス―ザン、凄いね。

 師匠かと思うよ。

 気に入った男は逃さないんだね。

 手が早


 楡木は余り話さず肉を焼いている。

 紅子は、楡木の手つきが少し女性的なことに気付いた。


 去年、ホモとは知らず3ヶ月アプロ―チしてたけど、この楡木さんも怪しい。

 でも、関係ないから知らんぷりしてよう。

 

 大森とス―ザンは二人の世界に入っていた。

 入り込めないバリヤ―を張り出した。


 楡木が口を開いた。

 「紅子さんにお願いがあるんですよ」


 「何でしょうか?」


 「オヤジが末期癌であと少しなんです。紅子さんに僕の恋人の振りをして、父親を見舞って欲しいんです」



           続く

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