日本人も素敵
「あの、すいません。お名前何ておっしゃいましたっけ?」
紅子はおそるおそる聞いた。
「楡木です」
はっ、ニレキさんね。
楡木は紅子を連れて、クラブ近くのバ―へ行った。
「何飲みます?」
「何でもいいです」
「生でいいですか?」
「はい」
これで、運動した分、パーだわ。
「紅子さんは独身ですか?」
楡木は、ストレートに聞いた。
「はい、独身です」
「理想高そう」
そう言って、生ジョッキをがぶ飲み。
お酒強いわ、この飲み方だもの。
紅子は控えめにしていた。ニキロ痩せるのが目標だから。
「ちなみにどういうタイプが好みですか?芸能人で言えば」
「えっ、タイプですか?」
タイプ、ないんだよね。
私の言うこと聞いてくれるハンサムな人が好き。
「面食いですか?」
「そんな、全然違います」
「リ―ドする方ですか?」
「逆です。男のヒトに尽くしたいほう。俺に付いてこいタイプが好きかも」
何言ってんの、私。
楡木は紅子に興味を持った様子。
色々、聞き出そうとする。
紅子は、適当くさい事ばかり言う。
それを真に受ける楡木。
「パティシエさんですから、きっと、お料理もなさるんでしょう?」
「料理は、やらないです。紅子さんは?」
「そうですね、パスタとかちらし寿司とか、ビ―フシチュ―とか作りますけど」
嘘。
楡木は紅子をじっと見ていた。
紅子は嘘がばれたかと思った。
「明日の夜とか、空いてます?」
「明日の夜?」
「生演奏のジャズバ―あるんですよ。行きましょうよ、もし、嫌でなければ」
「そうですね、行きますか?」
紅子はその夜、ス―ザンに電話した。
「あの平井堅そっくりの人、名前が楡木さんっていうの。帰りに誘われて、明日も会うんだけど大丈夫かしら」
『紅子、早いわね、さっそくじゃないの。あの人は真面目そうよ』
だけど、会ってどうなるものでもない。
時間の無駄かも。
それなら、行かない方が無難。
でも、行くって言ってしまったから、一回だけ、行こう。
翌日、日曜日の朝も紅子はクラブへ行った。
ス―ザンの指導通り、エアロバイクでウォーミングアップしてから、マシントレーニング。
どのマシンも苦しい。
いかに運動してなかったか。
そのとき背の高いナイスミドルがジムへやって来た。
阿部寛そっくり。
もしかして、このひとが?そうなの?
するとス―ザンが、バイクを漕ぐ彼の側へ行き、「背が高いんですね。
お子様も大きいでしょう?」
と声掛けした。
「いやいや、子供なんて居ませんよ。それにバツイチですから」
ス―ザンは、紅子に目配せをした。
続く




