ヨリは戻るのか
グレンは紅子に手招きされるまま、スタジオに入る。
ひんやりした空気、独特の匂い。
「紅子サン、会いたくて来てしまいました」
グレンの気持ちがあの頃に戻り、紅子を抱き締めてしまいそうになった。
彼女は全く変わっていない。
「グレン、貫禄ついたね」
紅子は彼のお腹を軽く触った。
そう、彼は結婚したのよね
「忙しいの?出張ばかりなの?」
彼は頷いた。
うっとりするようなナイスミドルになった。
格好良く歳を重ねていくタイプ。
「そこに座って待ってて。終わったら、隣のカフェ行きましょう」
紅子のお茶の誘いに、グレンはとても嬉しそうにした。
出された丸椅子に座り、撮影が終わるのを待つ。
紅子は相変わらずスタイルが良くて、それでいてグラマ―。
耳には、いつかプレゼントしたダイヤモンドのピアスが揺れている。
彼女への封印していた愛が、今、一気に溢れ出したのだ。
グレンは瞳を閉じ、小さく頭を振った。
フォトスタジオ隣の洒落たカフェは、北大生の溜まり場のよう。
焙煎したコ―ヒ―の薫りがグレンをリラックスさせた。
「今日は土曜日よ。家族サ―ビスしないの?」
「午前中は仕事デシタ、本社で」
二人は見つめ合った。
お互いを確認するかのように。
「子供も産まれて、幸せでしょう?」
グレンは少しだけ微笑んだ。
彼は紅子の左手薬指に、指輪がない事を確認した。
「紅子サンは、今、パートナ―は?」
「なし」
いないわ、もう、仕事だけ。
グレンは次の言葉を探した。
だが、見つからない。
自分は妻帯者だ。
でも、紅子を愛してる。
「前は、よくデ―トしたわね、私達。あれは一生の思い出よ」
グレンと楽しかった。
本当に楽しかった。
「紅子サン、僕達元に戻りたい」
グレンの瞳は涙で潤んでいる。
「どうしたの? どうして?奥さんは?」
「ノ―」
それっきり彼は黙り込んだ。
苦しんでいるように見える。
「よく考えて」
「また会って。オネガイシマス」
「ダメよ」
「アイシテマス」
グレンはテ―ブルの上の紅子の手の上に、自分の手を置いた。
温かい手。
「奥さんを裏切れないわよ」
「方法、考えてマス。正しいやり方ネ」
グレンは真顔で言った。
そんな、まさか。
紅子は、グレンと妻がそこまで冷えているのか、信じられないと思った。
まだ、結婚して三年くらいで。
「ヨカッタ。今日、会えて」
「そうね」
「ずっと会いましょう」
紅子は答えない。
「僕、早いデス。迷う事ないデス。紅子サン、一番大切。それ、前も今も同じ。どうして別れた、理由判らない。でも、気持ち同じでしょ。あなたも」
気持ちは同じ。
あのとき、連絡くれないグレンに意地張って別れた記憶がある。
「Say yes. Oh please.」
「急な話よ。Yesと答えるのは、グレン、相変わらず強引」
「強引しないと、アナタ逃げる」
奥さんと別れる覚悟なのね
子供が可哀想だけど。
「Noとは言わないわ」
続く