イケメンの溜まり場
グレンのイタリア出張で、週末暇になった紅子。
高校の同級生のス―ザン(日本人)が、ボディビル・インストラクタ―として働く大手スポーツクラブの会員になる事にした。
「アンタ、ちょっと、いいタイミングに来たわよ」
と、ス―ザンは美川憲一風に言った。
彼女は、ムキムキの腹がブロックに割れている。 上腕二頭筋、三頭筋、大腿主頭筋、広背筋をフルに強調するハイカットレオタ―ドにトレーニングベルトにグローブ。
冬でも、タンニングマシンで健康的な小麦色。
不健康なライフスタイルの紅子には、ス―ザンが眩しい。
「いいタイミングって、どんな」
紅子はまず、エアロバイクに挑戦している。
「今月から春のキャンペーンで、入会金無料でしょ。そしたら、アンタ、ちょっと、いい男一杯入会したのよ、あとで、こっそり会員カルテ見せるわよ、顔写真入り」
いつから美川になったの、ス―ザン。
「いい男一杯?……………本当?」
「夜八時にいらっしゃい」
「平日夜八時はキツいわぁ。まだ仕事やってるわ」
「運良けりゃ、土日も会えるわよ」
「へぇ、ちなみに芸能人で言うと?」
「阿部寛、TOKIOの松岡、EXILE、平井堅、城田優、斎藤工」
「うっそでしょ。信じない」
「毎日、誰かは来てるよ」
でも、今回は真面目に運動するんだ。
「ス―ザンみたいになるには、どうしたらいいの?」
「10年かかるよ」
そう言って、ジムの鏡向かって、ダブルバイセップス、サイドチェスト、トライセップスの3ポ―ズを決めた。
トレッドミルでランニング中の外人が、嬉しそうに見ている。
「ねぇ、今度、写真撮らせて。モデルにしたい。完璧ボディだもの。食べ物気を付けているの?」
「夜は、炭水化物を取らないの。あとは、油ものを食べない。お腹空いたら無脂肪ヨ―グルト」
彼女はそう言い終わると、紅子に目で合図した。
そして小声で言った。
「平井堅来た」
紅子は横のエアロバイクに座った長身の男性を何気に見た。
平井堅そっくり。
「凄い、似てる」
紅子も小声で言った。
ス―ザンはバイクを漕ぐ平井堅に話し掛けた。
「土曜日は、トレーニング頑張り過ぎない方がベストですよ。夕方のデ―トまでに疲労回復しませんから」
すると平井堅は
「アハハ、相手居ないんすよ。別れたばっかで」
ス―ザンは紅子に目配せした。
上手い❗ス―ザン流石!
そうやって、接客しながら、さりげに聞き出すのね、プライベ―トを。
いやぁ、これは、美味しい仕事だわぁ。
自分も磨けるし。
私、なんで、こんな編集の仕事なんてやってるんだろう。
ス―ザンがうらやましいよ。
すると、違う男性が首にタオルを巻き、ジムへやって来てウォーミングアップせずに、いきなりベンチプレス台へ。
「松岡来たよ」
とス―ザンは小声で教えてくれた。
「一緒にウォーミングアップしませんか?あっでも、奥さん来るの待ってます?一緒に入会されましたよね」と松岡に声掛けした。すると、
「違いますよ。一人です。独身ですから」
ス―ザンは紅子に目配せをした。
やるぅ、尊敬!
プロだね!
何のプロか判らないけど。
紅子はス―ザンの頭の回転の速さ、体の動きのキレ、気の利いた接客態度、全てが、目からウロコであった。
トレーニングが終わり、紅子はクラブのラウンジで、スムージ―を飲んでいた。
すると先程の平井堅が風呂を終えてロッカ―ル―ムから出て来た。
彼は、オレンジジュ―スを一気飲みした。そして横に居る紅子に話し掛けた。
「覚えてませんよね、僕の事」
「えっ?」
「店に取材に来てくれましたよね。二年くらい前」
「あっ、そうでしたか、失礼致しました。すいません、どこのお店でしたっけ?」
「ケ―キ屋です。駅近くの」
思い出した。
背の高いパティシエ!
「思い出しました。ごめんなさい」
紅子は軽く頭を下げた。
「いいんですよ。…………もう、お帰りですか?ちょっと、そこら辺でビ―ル飲んで行きませんか?」
続く