子猫にゃん
書いたZ
父親(仮)と一緒に玄関を出て、広くもなく狭くもない道端へ出る。
(よしゃ!取り敢えず金をさっさと入れて学校じゃ!)
そう心のなかで意気込み、銀行へと行き先を決めた時、
「ナ~ン」
と足元から声が聞こえた。
下を見てみる。するとそこには小さくこじんまりとした手の平に収まる位の白い毛の子猫がいた。
さわり心地の良さそうな毛並みをしており、目がくりくりでとても愛嬌抜群である。
(きゃー!これはこれは!可愛い子猫ちゅわぁんじゃなーいですかぁ!!)
子猫ちゃんはこちらに寄ってきた。
(足にスリスリしてきてるよぉ!)
むふっ、萌え。
「おい、そんなのに構ってないでさっさと行くぞ。」
すると横から声がかかった。父親(仮)だ。
「…はぁ、これだからお前と言う奴は。ほれしっしっ」
父親(仮)は子猫ちゃんを足で追い払う。
にゃーー!っと言って子猫ちゃんは足早に去って行ってしまった。
(あーあ、行っちゃった。…こいつマジで鬼かよ。)
「ほら、さっさと行くぞ」
「…はいっ、すいません」
父親(仮)が何かぶつぶつ言ってる。しかしそんなことはどうでも良い、スルーだ。
(くそっ、こいつが居なかったら今ごろスリスリし放題だったのに!最高の褒美を逃してしまった…!!しかも、あの猫毛がふわさらっていう感じだったな。誰かにブラッシングしてもらってんのかな?)
(よし、決めた。次こそは絶対にもふってやる。)
所詮は子猫、そう遠くへは行けはしまい。
子猫ちゃんが行ってしまった方を名残惜しく眺める。
あっちは確か車が多く通る3号線道。幅は広く通行量も多い場所だ。
そしてそこまでの思考に至り一旦停止してしまう。ある考えが浮かんでしまった。
(い、いや、でも)
否定はしてみたが不安は消えない。むしろ大きくなっていくばかりだ。
(……い、いや、でもまだ、そーなるって決まった訳じゃないし…)
嫌な想像ほどどんどん大きくなる。
(……でもあの道路を子猫ちゃんが渡ろうとすれば?)
その結果どうなるか。
(…………。本当に渡れるか?)
その思考に至る。
(あの大きな道路を?あのちっちゃい体が?)
ある程度想像して結論が出てしまった。
瑞樹は足を止める。
「おい。どうした。さっさと歩け」
父親(仮)がイライラとした口調で言ってきたが、今はそれを気に止められない。
(……いや、どう考えても無理だろっっ!!!)
瞬間、今さっきまで歩いていた方向と逆に全力で走る。目指すは子猫ちゃんが走って行った方向だ。
「おい!!何処へ行く!!」
父親(仮)の声を再び無視して走る。一瞬だけ転びそうになるが体勢を立て直す。
(何処だ!!!!!)
先ほど瑞樹が思っていた大きな道路に着く。急いであの小さいシルエットを探すが何処にも見当たらない。
渡っていない、と思いふぅっと少し気を抜いた息をはいた時、
トテトテトテッ
「っ!!!!」
数メートル離れたところから白い毛玉が道路へと入っていく姿が見えた。
白いふわふわした毛玉が道路を進んでいる。それはまるで先程見た子猫ちゃんのようで…。
(いや!てか子猫ちゃんじゃん!!)
そう思った瞬間、パチッっと信号が青になり数台の車が走り出した。
(ヤバイヤバイヤバイ!車が来てる!!)
「おい!急にどこに行く気だ!」
声の正体父親(仮)だ。
瑞樹の肩を強く握ってきた。これでは子猫ちゃんを助けにいけない。
「す、すいません…!でも、あの猫がッ!」
「…あ?あぁ。あんな小汚ない猫ほっとけ。それより早く行くぞ。俺はお前の違って時間がないんだよ」
焦っている瑞樹を余所に清々しく言ってのけた父親(仮)。
その言葉を聞いてブチッと何かが瑞樹の中で切れる音が聞こえたような気がした。
(仕事か。仕事の話をしてるのかこいつは。今。それとも何か?金か?後で入れといてやるっての。それと?時間がない?は??じゃあとっとと行けよ、一人で。)
「ーーーけよ。」
「あ?何だ?」
「じゃあ一人で行ってろ!!!!」
堪忍袋の緒が切れて瑞樹は言ってしまった。しかし後悔はない。
そして持っていた鞄を投げ捨て瑞樹は子猫ちゃんめがけて突っ走る。
「っ!!ぉ、おいっ!」
父親(仮)が止めようと叫ぶが瑞樹は止まらない。
(うるせぇっ!こちとら子猫ちゃんが大事なんだよ!)
「子猫ちゃぁああぁあん!!!!そっち車道おおぉぉぉ!!!!!」
(我ながらすげぇ走り方してると思うわ…!けど、そんぐらい必死なんだわ!!)
ガシッ!と瑞樹はその小さな子猫を捕まえた。
小さな小さな命。これを守ることができるのだと瑞樹は歓喜する。
急いでお父さん(仮)がいる方へ引き返そうとするが…
『プーー!!』
車のクラクションだ。車は瑞樹の走りよりも何倍も速いためもうすぐ目の前まで迫っていた。
(ヤッバッ車来てるやん!アアァアァ!!取り敢えず子猫ちゃんだけでもぉおぉお!!)
「とぉさぁぁあぁあんんん!!!受け取ってえぇぇえ!!!」
猫を父さん(仮)の方へぶん投げる。今は動物愛護とかそんな場合ではない。
(そのまま無事に行けえぇぇ!!!)
『ブップー!!!!!!』
車のクラクションがすぐとなりで聞こえた
(…あ、死んだわ)
ーーーーー
鉄の塊に体がぶつかる。おそらく骨は砕け顔は潰れ血みどろになった肉がそこらに散らばっているだろう。
私の近くで止まった鉄の塊にはなにか赤いものが付いていた。
(いや……あれは私の血か……)
朦朧とする意識のなかそんなことを思った。
体が焼けているように熱い。
ふと、子猫ちゃんは無事なのかと思った。
顔のパーツで唯一死んでいない左目からは白い塊とそれを抱いているらしいスーツのような人形の姿が掠れて見えた。
(良かったでふ)
痛々しい自分よりも子猫のことを心配した。
自分はもう助からないだろう、と頭の隅で思った。
しかしそれでも良いと瑞樹は思った。
徐々に暗くなる視界に反し、周りが騒がしい。
あぁ、自分のために騒いでくれているのか、と。
自分の事を心配してくれている人かいるのか、と。
最後に瑞樹はそう思ったのであった。
ーーーーー。
(………………………………………………。あー、自分はこれから天国へ行くんだろうなぁ。)
(いや、浮気との子だから地獄だろうか。)
(まぁ、いいや。可愛い子猫ちゃんのために死ねたんなら本望!)
………………。
(あーー、けどあのもふもふをもう一回味わいたかった。…あぁ、それとゲームのSOUL伝記。今朝宅急便で来たけど結局中身さえ開けてねぇしなぁ。無念。)
(…後、部屋をもうちょっと綺麗にしたかった。以外と、ねぇ。部屋があれなもんで。へへっ。)
………誰に言ってんだろ…
………………。
(てか、ここマジで何処よ。てか、何で意識あんのよ。あ、取り敢えずあれ言っとこう。)
(せーのっここは何処、あたしはだr)
「あの、もう目を開けても大丈夫ですよ」
あれ、人の声?
てか目を開けるって、何。
「目を開けるんですよ」
ほうほう目を開けるのねソォーレワッショーイ!
パ…チ…。
(あれ、ほんとだ。目が開いた。え、けど自分死んだじゃん?車に引かれてぐちゃくちゃに…。)
「こんにちは瑞樹さん」
再度声がした。そちらに視線を向ける。
そこにいたのはなんとまぁ可愛らしいおねいさんだった。自分より二つか三つ?いや四つ?ぐらい上の。自分は16才だから、18、19、20位の。
「まぁ、私こう見えて瑞樹さんよりも相当年上なんですよ!そう言っていただけて嬉しいですわっ」
(えっ、そうなの?…相当って…じゃあ十才くらい上?)
「いいえ、300才くらい上です」
おねいさんはにこやかに言い放つ。
(………。???、、、、ヘー、ソーナンダー)
瑞樹は考えることをやめた。
(………てか、ここにどっこやねん!)
辺りを見てみる。
真っ白な部屋だ。部屋なのだから当然ドアはある、そのドアは木製。
その部屋には机一つに椅子二つ、そして形は黒電話のような形を模したやつ。そんでもってなんか緑の石?みたいなのが浮いてる。
そして綺麗なおねいさんと自分。
何かの面接のような感じだ。
「ああ、それはですね。んんん。」
ふぅ、っとおねいさんが一息吹く。
「ようこそ転生所へ、篠原瑞樹さん。ご希望の転生先はありますか?」
……………???
……まったくもってイミガワカラナイデース。
テンセイ?ナニソレ、オイシイノ?
………。
「……は?」
取り敢えずこう言うしかないだろう。マジで。
(…うん。わ、わぁ!なぁんて自分、あったま良いんだろう!!!)