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医療討伐隊  作者: 邪燕
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初任務:疥癬の卵

「疥癬ですか?」

 討伐隊になって二週間が経った頃、スメラヤに始めての依頼が来た。対象は疥癬ヒセンダニの卵の回収。患者は高齢のゴールデン・レトリーバーで薬を使うリスクが高いため討伐隊でできる限り回収することになったらしい。

「皮膚の表面は消毒してあるけど、成虫や孵化した疥癬に会う可能性はあるから気を付けてね」

 本日の最後の授業が終わって帰り支度をしている時に立花先生から直接言われた。依頼のことは意外と軽い感じで伝えられることが多いらしい。

「明日の午前8時から12時までの予定だから、遅れないようにね」

 それを伝えると先生は教室から出て行った。

「随分あっさり言ってきたな」

「それだけ簡単な任務ってことかな?」

「疥癬かぁ……動き遅いらしいし、家に帰って少し復習しておけば大丈夫そうね」

「襲われても散り散りに逃げることもなさそうだな」

「とりあえず必殺技とか考えとく?」

 皆、特に緊張した様子もなく普通に雑談していて、心配はなさそうだ。とりあえず鈴には任務中はモニタリングされていることを教えておく。

「モニタリング?どうやって?」

「鈴、前の授業聞いてなかったのね?」

 これはいつものことだった。鈴は座学の時は半分は寝ているかぼーっとしている。それでも休み時間とかに説明すると比較的早く覚えることができるから授業には付いていけるらしい。

「任務中に着る装備の頭の部分にカメラが付いてるんだよ。それを見て司令室にいるサポーターや医者が意見を出したりこっちに指示を出す。僕達はその意見と実際の病変部の様子を考えて行動する」

「そういえば、サポーターによっては自己主張が強い人もいて、その人に当たると大変らしいね」

「サポーターの言うことを聞かない討伐隊は無能って思ってるのもいるらしいな。病変なんて秒単位で変わるっての」

「確かサポーター個人で無線を切れるんだよね?」

「できれば切りたくないんだけどね。できる限り多くの人の意見を聞いたほうがいろんな考え方を知ることができるし、自分だけの考えで動くことが無くなるから」

「今日は明日に備えてもう帰りましょう。簡単な任務でも初めてなんだから、体調は万全にしておきたいわ」

「そうだな。今日はゲーセンも行かないでおくか」

「家で疥癬の復習もしないとね」

 それぞれ、明日に備えて帰った。


「大、疥癬って卵何個産むんだっけ?」

 翌日、任務開始30分前。待機室には討伐着に着替えたスメラヤの5人が集まっていた。ここには教科書等は持ち込めるため、最後の確認ができる。

「一匹につき一日2~3個。疥癬の数にもよるけど、百は超えるんじゃないかな?」

「それでも一人20個、もっとあったら30とかいきそうだな」

「一人二桁ですんだら運がいいほうじゃない?」

「回収自体は転送装値持ってるからいいけど、戦闘になったら初陣だし一人だと危険だよね」

「チーム分けしておくか?」

「そうね…バランスを考えて近接戦闘の鈴と近接・遠距離戦闘の大、私と進、伸は近接も遠距離もできるかわりにずば抜けて得意ではないから3人でいいんじゃない?」

「まぁ、そうなるな」

 立花先生が部屋に入ってきた。何かの連絡だろう。

「みんな、あと10分で任務開始よ。5分前には隣のマイクロ転送室に入って準備してね。準備方法は部屋の中に説明図が置いてあるから」

 そう言って立花先生はすぐに部屋から出て行った。

「最後にいろいろ確認しておこうか」

 寄生虫病学をまとめたファイルを取り出して皆に説明する。寄生虫病学は僕の一番の得意分野だ。

「疥癬の成虫は約400μm、幼ダニは約200μm。僕達は多分500μmに設定されるだろうから、僕達よりも少し小さい位かな。卵は抱えて運べる程度になると思う」

「疥癬は確かトンネルの中に卵を産むんだよな?」

「うん。疥癬トンネルは僕達がぎりぎり通れる程度の幅だけど奥に行き過ぎると経験の浅い僕達には危険だから2、3個転送したらその先は卵か体内にイベルメクチンを一本ずつ投与してトンネルから脱出したほうがいいね。あとトンネルの外に一人、見張りもいると万が一成虫や幼ダニがトンネルに帰ってきたりしたときに安心できるね」

「一人が守って一人が回収するって事?」

「なれないうちはそうの方がよさそうだな」

「そうね。そろそろ時間だから行くわよ」

 京の呼びかけで僕達は装備を付けてマイクロ転送室に移動する。その部屋は待機室からセンサー付きの自動ドアを隔てた先にあり、部屋の中には円錐上のロッカーのような機械が5個並んでいる。これがマイクロ転送装置で人間の身体を500μmや500nmなど、一定の大きさまで縮小することができる。現在は最高で100nmまで可能らしい。僕達はそれぞれ装置の前に立った。

「なんか緊張するな」

「マイクロ装置も訓練で何回か使ったけど……全然感じが違うわ」

《全員揃ったわね?一人ずつマイクロ転送装置に入って。操作方法は授業でやった通りよ。細かい設定はこっちで操作できるから確認して決定するだけだけどね》

 頭部装備の内装無線で立花先生が指示を出す。言われた通りに装置に入る。扉を閉めても頭上の照明と壁に列になって並んでいる照明で中は意外と明るい。広さは人二人入れる程度で、入って正面にモニターとボタンがいくつか。このモニターで設定を見ることができる。今回は想像通り500μmで設定されている。モニターの右にあるボタンのうち、実行と書かれたボタンを押して目を瞑る。壁一面に付いた小さな穴からミストが噴出し、照明とは違う光が強く光る。僕はそのミストと光に包まれた。このミストと光によって装置内の物質を変形させて手術室に転送・物質の収縮ができるらしい。かなり複雑な技術であり国家機密レベルの情報のため、詳しい仕組みは知らされない。ただ安全だけは保障されていて、万が一マイクロ転送装置の事故で負傷・死亡した場合は多額の慰謝料が払われるらしい。ちなみにそんな事故は今まで一度も起きていない。身体が軽くなる感覚を感じてから目を開ける。目の前に装置のモニターはなく、白く教室くらい広い部屋の壁際にあるパネルの上に立っていた。部屋の真ん中には人が10人は入れそうな円形のパネルがあり、反対側の壁には大きなモニター、左右の壁には棚があって様々な装備や薬剤が並んでいる。ここが手術室。正確には、手術室の上にある30cmくらいの滅菌された箱の中。巨大なパネルに乗れば指示室の操作で箱の真下にいる患者の病変部に行くことができる。何らかの事情で病変部から撤退する時もここに来る。もちろんここも指示室から監視されている。

「早いな、大」

 他の装置から皆が出てくる。僕が一番早かったらしい。

「全員揃ったわね」

 京に続いて中央のパネルに乗る。

「準備できました。先生お願いします」

《了解。全員気を付けてね》

 パネルが光って、僕達は病変部に移動した。


「本物の病変部は始めてね……今までは訓練用のケースの中とかだったし」

「足場が少し柔らかいな。皮膚だから当然だけど」

 周りにはベージュ色の体毛が天高く生えている。薄ピンク色の足元には剥がれた角質がいくつも落ちている。足元が皮膚だから弾力があり、少し歩きづらい。

「高齢で薬剤の影響が出やすいから皮膚に攻撃を当てないようにね」

「地面に当てないようにか……難しそうだな」

「横に攻撃すれば足元にはそうそう当たらないよ」

《皆聞こえる?皆は今横向きに寝た犬の左前肢部分にいるわ。疥癬トンネルはそこから後肢の方向で確認されているわ。左手に付けた篭手で地図を見れるから、地図で位置は確認してね。頭部のカメラの向きで方向はわかるわ》

 立花先生からの通信だ。左手の装備には長方形の篭手と呼ばれる装備が付いていて、蓋を開けると蓋にモニター、下にボタンが付いている。そのモニターで自分や仲間の位置、任務内容、各薬剤の詳細、緊急時の連絡、指示室にある小型転送装置への転送などができる。さらに蓋に付いた小さなスコープで望遠鏡にも使える。

「じゃあさっき決めた通り、鈴と大、私と伸と進の二手に分かれていくわよ」

「回収は篭手の転送装置でやるんだろ?」

「確か指示室の無菌ケースに繋がってるんだっけ?」

「そうよ。それに何かあっても指示室でどうにかしてくれるから私達は特に気にする必要はないわね。それと、一時間毎に全員集合して情報供給しましょう。出来る限り確実に任務を遂行させたいわ」

「そうだね。いっぱい体動かしそうだし、休憩にも丁度いいかも」

 僕達は二手に分かれて行動を始めた。僕と鈴は左から、他の3人は右から回収していくことになった。分かれてから5分位して、皮膚に空いた穴をいくつか見つけた。中は少し下に掘ってから横に続いている。

「トンネルには僕が入るよ。鈴は疥癬が来たときのことを考えて外で待機してて」

「わかった。疲れたら交代もできるからね」

「うん。ありがとう」

 守りは鈴に任せて、僕はトンネルに入る。トンネルの壁は犬の皮膚なので少し柔らかく、多少無理に広げることもできた。内出血等を考えてあまり出来ないけど。

「大、どう?大丈夫?」

「うん。普通に入れる」

 外から鈴の声がする。トンネルの中でも奥に行かなければ外の声も聞こえそうだ。僕はそのままトンネルを進んだ。数秒進むと、前方に丸く白いものが3つ並んでいるのが見えた。疥癬の卵だ。一応無線で指示室と他の4人に知らせる。

「こちら氷崎、疥癬の卵を3つ発見しました。これから転送します」

《了解。卵の回収も難なくできそうだし、任務中最初の1回以外の転送の知らせはいいわ。疥癬に気を付けて任務を続行してね》

「はい」

 左手につけた篭手を操作して卵に向ける。篭手から青白く光る細いレーザーが出て、それが卵にあたると卵を光が包んで、卵が1つ消えた。無事転送されたらしい。続いて残りの2つも転送して、さらに奥に進む。疥癬は少しずつ卵を産みながらトンネルを掘るため、あと2、3箇所の卵なら転送しに行っても大丈夫だろう。それよりも奥は怖いから皮膚に新薬イベルメクチンを少量打っておく。これでこれより奥にいる卵は孵化できなくなるらしい。

「外に出るか」

 鈴に今から出ることを伝えて、後ろに下がる。潜った時よりも少し時間をかけてトンネルから出る。

「穴からお尻が出てくる光景って斬新だね」

「女子は入らないほうがいいかもね……特に問題もなさそうだね」

「うん。周りは何も変わらない体毛の森だよ」

「まだ10個近くトンネルがあるね……それでも今のトンネルの時間から考えて10数分で終わるかな」

「今度は私もやるよ」

「……うん。あまり見ないようにする」

 鈴の羞恥心は討伐隊としての意思に負けたらしい。討伐隊としては正しいけど鈴がトンネルに入って行く。穴からお尻だけ出ている光景は確かに斬新だった。


「こんなところかな」

 20分くらいで周りのトンネルを全て処理し終わって、その場で少し休憩を取ることにした。立花先生に連絡をして、周囲に気を配りながら休憩することを指示された。こういった任務では、休憩できるときに休憩するのが大事だ。休憩すれば体力もスタミナも回復できるし。精神的疲労も和らぐ。

「で、なんで鈴は素振りしてるの?」

「んー……なんていうか、体を動かしたくて。出ないほうがいいのはわかるんだけど、せっかくの任務だし疥癬一匹くらい出てきて実戦してみたいなーって」

「わからなくはないよ、その気持ち。出来る限り経験はしておきたいもんね。僕も銃の射程距離とか確かめたいな」 

そんな会話をしながら数分休憩して、他のトンネルを探す。京達が向かった方向とは違う方向へ地図を見ながら向かう。

「なんか、思ってたよりもトンネルの数が少ないね」

「繁殖する前に投薬できたのかな?少ないなら僕達が楽できるからいいんだけど」

「トンネルに入るあの体勢、結構辛いね」

「進むのも戻るのも腕の力を使うからね。明日は皆筋肉痛かな?」

「え?そこまでは辛くないと思うよ?」

「鈴は僕と鍛え方が違うからね……どうかした?」

 不意に鈴が前方を見て止まった。鈴の視線を追うと、前方に何かが大量に落ちている。

「何だろう、あれ」

「行ってみよう」

 近付いてみると、落ちていたものはかさかさに乾燥した物体だった。

「これって角質?」

「角質ってよりも落屑フケのことだね……この量は異常だけど」

 すぐに立花先生に連絡を入れる。

《大量の落屑……何かストレスを受けていたのかしら?何があるかわからないから気をつけて。他の3人にはこっちで連絡するから、一度集まって話し合うのもいいわよ。任務中の異常事態は出来る限り全員で共有するの》

「わかりました、連絡お願いします。僕達のほうに来るように伝えてください」

《了解》

「地図を見る限り、そんなに遠くにいるわけじゃなさそうだね」

「数分で来てくれるよ」

 落屑を観察しながら京達を待つ。想像通りに数分で来てくれた。

「うわ……なんだこれ」

「確かに異常ね……」

 大量の落屑を見て伸と京が感想を言う。進も顔を少し歪めている。

「可能性があるとすれば何らかのストレスだね」

「疥癬の影響か、新しく生まれたのか、それとも他の寄生虫か……」

「ここに連れてこられたことにストレスを感じた可能性もあるね」

「大、もし疥癬にあった時は何を使うと効果的なんだ?」

「駆除するなら卵と同じでイベルメクチンかな。でも初めて戦うし、不安ならプロポフォールを使うといいよ」

「プロポフォール……即効性のある麻酔薬だな。薬銃にセットしておくか」

「ねえ、イベルメクチンってたしかフィラリアの駆虫薬だよね?」

「主にフィラリアの駆虫薬として使われてるけど、疥癬にも効果はあるんだ」

 伸と鈴の疑問(鈴の疑問は昨日授業で習っていた)が解けてから、もう少し詳しくみんなから情報をもらうことにした。

「他に何か異変とかはあった?」

「特にないよ」

 とりあえず全員が銃にイベルメクチンのほかにプロポフォールをセットする。

「疥癬なら動きは遅いしプロポフォールなしでも倒せるだろうけど、疥癬以外の外部寄生虫の可能性もあるよね」

「ノミとか動きが早いのは誤射に気をつけないとな」

 さっきと同じように二手に分かれて作業を再開する。僕と鈴は大量の落屑に近い位置のトンネルで卵の改修をすることにした。トンネルの周囲を見ても疥癬や外部寄生虫の姿はない。

「また僕が潜るよ。鈴は警戒よろしく」

「うん」

さっきと同じように疥癬トンネルに潜り込む。同じように卵の回収をしたけど、トンネル内に疥癬の姿はなかった。このトンネルでは孵化していないのかもしれない。

「お、出てきた」

 トンネルから出ると鈴が待っていた。僕が潜っている間、何も起こらなかったらしい。

「ねえ大。私達、今日中にトンネル全部調べるの?」

「時間いっぱいやるけど、多分全部は終わらないだろうね。僕達は事前の検査で判明した疥癬トンネルを調べてるけど、検査でわからなかったトンネルがある可能性を考えて他の部位での調査もするだろうから」

「それも私達で?」

「さぁ?学生だし連日はないと思うよ。多分いくつかの討伐隊で順番にやると思う」

「じゃあ私達がまたこの犬の調査に来る可能性もあるんだ」

「うん。だから出来る限り今日の卵回収で体表の情報を集めないと。他の討伐隊の危険を減らせるかもしれないし、僕達自身の安全にも繋がるからね。トンネル外で何か気になることがあったらすぐに調べたほうがいい」

「また大が潜るの?」

「うん。もしも寄生虫がいるなら僕よりも鈴のほうが上手く対応できるだろうからね」

「そうかな……えへへ」

 褒められて嬉しいらしい鈴。鈴の戦闘能力は実際クラス一だし、嘘を言ったつもりはない。

「僕は鈴みたいに瞬時に動けないからね。どうしても一瞬考えてから行動しちゃうんだ」

「先生にも注意されてたっけ。場合によってはそれが命取りだって」

「素早い敵だと本当に命取りだからね……せめて逃げるときは考える前に行動できるようにしないと」

 恐らくこれは僕の一番の課題になるだろう。習慣や考え方はそうそう帰ることは出来ない。

「私は逆にもう少し考えて行動しろって言われるなぁ……」

「僕から見れば羨ましいんだけどね」

 雑談をしながらまたトンネルに潜る。そして卵を回収してイベルメクチンを投与。

「ん?この卵……」

 卵を一つ観察する。今までの卵よりも色が薄く、暗いトンネルの先が少し透けて見える。横に回転させると這って来た方向から死角になっているところに穴が開いていた・

「孵化したのか……」

 取り合えず卵のあった辺りにイベルメクチンを打って立花先生に連絡を入れる。確認のために卵を転送してからトンネルを出る。

「鈴、異常は?」

「特にないけど……何かあったの?」

「卵が一つ孵化してた。立花先生には連絡したよ」

「このあたりにはいないみたいだよ?トンネルの奥に行ったんじゃないかな?」

「イベルメクチンは打っといたし、奥に行ったなら出てくることはないと思う。だけど他のトンネルから孵化して出た個体がいるかもしれないから気をつけよう」

「落屑が増えたのはそれが原因なのかな?」

「まだわからないけど、可能性はあるね」

 引き続き僕がトンネルに入って外で鈴が警戒する役割分担をしたが、見つけた一つ以外は孵化した卵はなく、寄生虫も現れなかった。


「こっちは孵化した卵も寄生虫も見なかったわ」

 さらに1時間経ち、5人でまた集まって休憩を取る。

「こっちも見つけたもの以外は何もないよ」

「たまたま1つのトンネルだけが早かったのか?」

「孵化したトンネルが一番最初にできたトンネルで、それから時間が経ってから周りのトンネルができたなら孵化のタイミングはずれるだろ」

《その可能性もあるわね。十分気を付けて任務を続けてね。何かあったらすぐに連絡すること》

 立花先生との通信はそれで切れた。基本的に僕達に任せるらしい。

「今は気を付けて、としか言えないわね」

「だろうな。寄生虫も見てないし」

 5分ほど休憩してから、また同じように回収を再開する。さっきとはまた別の場所にあるトンネルを見つけて、そこで作業を開始する。トンネルの数も少なくなってきた。

「また大が入るの?」

「うん。いざというときは鈴に頼ることになるだろうし、できることはやらないとね」

 そう言ってトンネルに潜る。卵を転送して先に進み、また卵を転送する。少し進むと壁が見えた。

「このトンネルはあまり掘ってないのかな?」

 壁に近寄る。少し暗かったから頭部装備のライトをつけてみると、壁は白かった。壁からは剛毛が数本生えていて、ゆっくりと動いているのがわかる。体長は恐らく200μm程度、壁の下から左右に3本ずつ脚が生えている。

「……これ、もしかして」

 指示室に緊急連絡を入れる。緊急連絡は何よりも最優先で繋がる通信機能で、それを使うということは何らかの異常が起こったことになり、指示室と他の任務実行中メンバーにも伝わるようになっている。

「大です。疥癬トンネルの中で剛毛の生えた白い壁に遭遇しました。顔などは見えませんがすぐに転送します」

《プロポフォールで弱らせてから転送して。トンネルの中で戦闘になったら危険だわ》

「わかりました」

 少し下がってから銃でプロポフォールを撃つ。それが刺さった瞬間、疥癬が大きく揺れた。その場で数秒暴れたがトンネルの大きさと体の大きさがほぼ一緒だったため殆ど動けず、しばらくしてその場で崩れた。即効性の麻酔が効いたらしい。ゆっくり様子を見ながら進み、改選を転送する。

《転送、確認したわ。予想より早く患者が覚醒しそうだから、今回はここまでにします。全員トンネルから出て》

 言われたとおりにトンネルから出ると、鈴が心配そうな顔で僕を見ていた。

「どうかした?」

「いや、疥癬と遭遇したって聞いて、心配で」

「大丈夫だよ。疥癬はこっち向いてなかったし、上手く方向転換もできてなかったから」

「そっか……よかった」

 篭手からアラームが鳴った。転送の合図だ。

「後で詳しく聞かせてね」

「うん」

 僕達は強制転送され、犬の体表から撤退した。


「結構疲れたな」

滅菌室。任務を終えて転送された。ここからは自分でマイクロ転送装置を操作して戻るだけだ。

「トンネルに入るのは疥癬くらいだし、他の寄生虫なら走り回ることになるよ」

「それはそれできつそうだな」

「トンネルでひたすら這い蹲るよりは楽だと思うよ。そうゆう訓練をしてきたんだし」

「雑談してないで戻るわよ」

 京はさっさとマイクロ転送装置に入って行った。遅れると先生達に怒られるので僕達も京に続いて転送装置に入る操作は来たときと同じ、ボタンを押すとミストと光に包まれ、若干体が重くなる感覚がする。画面で無事に転送されたことを確認してから外に出る。外には既に京と進がいた。僕が出てから数秒後に鈴と伸も出てくる。

「お疲れ、皆」

「疲れたけど、なんか物足りないな。やっぱり寄生虫と戦ってみたかった」

「大は疥癬と会ったんだよな?どうだった?」

「トンネルの中だったし、プロポフォール撃っただけだから戦ったわけじゃないよ」

 皆と話しながらマイクロ転送室から待機室に移動する。待機室には立花先生がいた。

「皆、お疲れ様。今回回収した疥癬と卵は寄生虫病学の研究に使用されるらしいわ。やったこと自体はそこまですごいことじゃないけど、ちゃんと貢献できてるわ」

「僕は実際に改選に会いましたし、経験できただけでも大きいです」

「そうね。会ったのが一人だけなのがちょっと残念だけど、トンネルに入ったこと、卵を見たこと、薬剤を使ったこと、転送したこと、全て大事な経験よ。それを忘れないで」

 今回の任務はこれで終わった。午前はずっと任務の予定だったがお昼までにはまだ時間がある。着替えたら食堂に行って時間をつぶすことになった。

「大、お前もう少し筋肉つけたらどうだ?」

 更衣室で進に言われた。僕は元々やせ気味で体に肉が付きにくいらしく、こうゆう事はよく言われる。

「食べても付かないんだよ。脂肪が付かないのはいいけど筋肉も付かないのは嫌だなぁ」

「太りやすい俺からしたらただの嫌味だぞそれ」

「僕だっていろいろと苦労してるんだよ。愚痴を吐きたいときもあるよ」

「太るのが羨ましいとか、女子には言うなよ。大と進の巻き添えで俺にも被害がでるからな。死ぬなら一人で死んでくれ」

「それは討伐隊の仲間として薄情すぎない?」

「誰だって命は惜しいだろ」

「大も伸も馬鹿なこと話してないで着替えたらどうだ?待たせると京に殺されるぞ」

 着替え終わった進が冗談交じりに言ってくる。それを聞いて僕も伸も慌てて着替える。今の話、冗談として笑えない。流石に殺されはしないが、殴られるかもしれない。

「惜しいわね。あと1分遅かったら殴ろうかと思ってたのに」

 着替えて更衣室を出ると鈴と京が待っていた。

「冗談に聞こえないぞ?」

「冗談じゃないもの」

 京が食堂に向かって歩き出し、それに続いて僕達も食堂に向かう。

「多分すぐに次の任務が来ると思うから、今日の反省会しないとね」

「そんな頻繁に来るものなのか?」

「試験期間とか就職活動期間とか長期休暇を抜いて平均で一週間に1回はあるって。あ、でも休暇中でも緊急任務があれば任意で召集もするみたい」

「へぇ、大変だな。毎日の基礎的な筋トレとか復習は必須だな」

「そのうち遊ぶ暇も殆どなくなるわよ。その代わり秋頃から本格的な任務が任せられるようになれば任務をこなした分給料ももらえるって」

「お金もらえるならやる気もでるよね」

「まあその分危険もあるってことだろうけどね。京と鈴がいれば大抵の寄生虫は楽勝じゃないかな?」

「私と鈴だけじゃないわよ。伸は射撃、大は寄生虫の知識と斬撃、進は射撃と斬撃両方をバランスよく使える。我ながらバランスのいい討伐隊よ?」

「なんか俺だけ微妙な気もするが……あれ?誰かいるぞ?」

 進が言うように、食堂には既に数人の人がいた。

「他の討伐対ね。一日に任務が一つだけとは限らないし、他の患者の任務をしてたんじゃない?」

 その討伐隊がこっちに気付いて近付いてきた。任務について話したいらしい。

「いいわよ。私も他の討伐隊の話、聞きたかったし」

 食堂にいた討伐隊は男子4人で結成された「ヴェテロク」という討伐隊だった。ヴェテロクもスメラヤと同様、旧ソ連の宇宙犬の名前だ。意味は確か「小さな風」だったと思う。ヴェテロクは小型犬の体表にできた炎症の調査をしていたらしい。僕達が寄生虫を回収したことを聞いて驚いていた。4人とも優しそうで話しやすかったが、リーダー

は僕達よりも年上らしく、元は看護師だったらしい。若い医者や看護師が討隊にあこがれることがあると聞いたことがあったが、実際にそうゆう人を見たのは初めてだった。ヴェテロクとの話で、炎症の様子や討伐隊以外の医療現場についても知ることができた。他の討伐隊との繋がりも大事にしていかないといけない。これは医者でも看護師でも同じだろう。

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