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甲姫の即興小説集  作者: 甲姫
即興小説トレーニング編
8/21

まっさらに、やり直せる

 求めてもいなかったものを、得られたと思った。

 私だったものは限りなく広がる。その中に「私だったもの」を形成する断片を拾う。

 それは産声を上げた瞬間に見た光景だったり、三十二年の人生の間に辿った軌跡だったりした。

 そして最期に拾った情報。


 ――頬に触れていたアスファルトのでこぼことした触感、焼き付けるような熱さ。

 ――私を心配する通行人の気配。

 ――元凶を作ったトラック運転手の、ひたすらに泣きながら謝罪する声……。


 つまり私は生と死の境目を越えたのである。

 悲しいという感情は無かった。あったのは、微かな驚きだったかもしれない。

 今の私を包む感覚が意外だったからだ。この包み込むような暖かな風、明るさ、横たわる私を支える綿菓子のような柔らかさ、これらの意味するところは何か。

 起き上がると、すぐ傍に小さな人影がしゃがんでいた。輪郭はぼやけていて、髪型も服装もよくわからないが、笑い声からして女児だと推定した。

 よくきたね、と女児は言った。

 ここは天国なのか、と私は訊ねた。

 そうであって欲しければね、と彼女は答えた。


「意味がわからないが」


 私はあるかどうかもわからない眉を寄せた、つもりだった。


「支払い次第だよ」

「何を支払うんだ」

「心がけ、だよ」


 理解ができないと私は訴えた。彼女は、私がこれからの時間で何をしたいのか、次の人生に何を望むのか、を今から決めなければならないという。その返答次第で私の行き先が決まるらしい。


「天国は私に全てを与えてくれるのではないのか」

「まさか。生きた人々が思い描いたような、純粋な天国なんてあると思ったのかい? きみは。人は死してなお、人でしかないのだよ。それ即ち、多面性を持った魂が残る。それを裁くのが、天国だよ」


 なるほど、と私は慎重に答えを選んだ――

お題:純粋な天国

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