知らなかったんだ
若気の至りとは便利な言葉だと思う。
俺は学生時代に、くだらないことを結構してきた。
不法侵入、万引き、喧嘩、それくらいなら誰もが通る道だろう?
そんな俺にもひとつだけある――大人になってからも、誰にも語ることのできないエピソードが。
あれは、廃墟となったビルが取り壊される直前のことだった。あの夏は無駄に暑かったのを覚えている。
俺はいつもの悪友どもとつるんで町を徘徊していた。それまでにも数か所の廃墟を巡って根城にしてきた俺たちは、その場所でも遊んでみることにした。
ところがそこには先客が居た。
全長一メートルの小柄でまだら模様の体躯をした、木にも似た未知の生き物だった。俺たちは一目散に逃げようとしたが、そいつの触手、いや、枝? に捕まえられて、嫌々「話し相手」にさせられた。
遥か彼方の宇宙からやってきたというそいつは、密かにゴミ捨て場から人類の情報を集めていたという。言語も覚えていた。そいつは、俺たちに地球の面白いものを見せろとせがんだ。
喰われたくなかった俺らは、ポケットの中身をあらかた見せてやった。
「その箱はなんでぃ」
生き物が興味を持ったので、俺たちは箱の中身の細いものを取り出して見せてやった。更にライターで火を点け、そいつに煙草を吸わせてやった。
知らなかったんだ。
煙草は生き物にとって毒だった。
奴は残らず溶けて、そうして俺たちは自由になったが。
何だか悪いことをしたなと、今でもたまに思い出して罪悪感を感じる。
お題:マイナーな過ち