深夜に追う
妖精を追って、森の中を駆けていた。
秋の深夜の肌寒い頃である。
近所の森を深夜にうろついていること自体は、実はそれほど珍しくはなかった。
僕はここ数ヶ月の間ずっと不眠症をわずらっていて、深夜に活動している日が多くなっていたのである。
寝付けども、耐え難い孤独に夜中目が覚める。
天涯孤独の僕にとっての唯一の拠りどころであった恋人が突然の失踪をしてはや一年、僕はずっと生きた心地がしていない。
彼女が居なくなったあの恐ろしい朝からちょうど一年が過ぎ――
例によって夜中に目が覚めた僕の枕元に、蛍のような小さな光が点灯していたのである。
光は次第に大きくなり、僕を誘導するようにゆっくりと家の裏の森へと進んだ。いつしか僕は、光に魅入られて後を追っていた。
「ま、まってくれ! どこへ……どこへ行くんだ! 妖精さん!」
光の正体が何であるのかがわからず、僕はとりあえず妖精と呼ぶことにしている。
しかし呼んだところでそれの進路は止まらない。
追う。呼ぶ。追う、つまずく。
よく知っているはずの森が、木々が、音を立てて踊っている。歪んでいる。
やがて僕らは崖に出た。
突然の眩しさに、眩暈がする。
陽がいつの間にか昇っていたのか。僕は愕然となって、妖精さんが消えた方向を見つめた。
妖精さんは地平線に消えたのだ。
僕は崖を見下ろした。
そこに、骨の白さが見えた。
お題:知らぬ間の朝日