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甲姫の即興小説集  作者: 甲姫
即興小説トレーニング編
2/21

Nothing to lose

 5級のスピーキングテストを受けていた最中のことである。

 ――ブブブ

 ふと男は、隣の椅子に置いたスマホが振動していることに気付いた。表示を一瞥すると、別居中の妻からメールが届いているのだと知る。

 珍しい。内容を確認した方がいいかと思って手を伸ばした。


「Please look at the passage.」


 イヤホンから流れてくる指示が、男の手を止めた。


(今は試験中だ、余計なことに気を取られるべきではないな)


 ちゃぶ台に立てたタブレットと改めて向き直る。


「What is this man doing?」

「The man is looking for...」


 男は全ての問題を解き終えた後に、やっとメールを読んだ。


<離婚しましょう>


 件名を見て、男はみなまで察した。

 妻は一人娘を連れて実家に帰っている。曰く、仕事ばかりに精を尽くして、互いの顔も忘れそうになっているような夫に、これ以上付き合ってられないそうだ。

 男は返事を打ち始める。


<了承した。私はオーストラリアへの単身赴任も決まっている。タイミングがいいようだ、さようなら>


お題:いわゆる喪失

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