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甲姫の即興小説集  作者: 甲姫
即興小説トレーニング編
18/21

訪問者

「ここに〇△という者はいないか?」


 早朝に戸を叩かれて開けてみたら、私は遠慮がちな問いに迎えられた。

 知らないと答えると、相手は困惑気味に目線を巡らせる。

 しかし彼には何が見えているのだろうか。私の膝までもない身長では、随分と視界が限られていることだろう。

 失礼だとは思うが、彼を今一度じっくりと見つめた。大きさを除けば、構造も服装も私の知る人類とそう変わりがない。

 私に小人の知り合いはいない。この家は古い森の縁に建っているが、こういうおとぎ話の存在の訪問を受けたことはなかった。


「残念ながら、覚えがありませんね。なにぶん150人と住んでいない小さい村ですので、全員の顔も名も把握しているつもりですが」

「そうか……出口をまちがえたかな」

「出口と言いますと」

「いやね、この世界とつながる通路を選び違えたかなと。かの地とは気候も景色も違うようだ」


 小人は短い髪をなでながら説明した。彼らの住む世界とこちらの世界をつなぐ通路は七つあると。その昔、間違えて入ってきた者を友と迎えたことを。そして折を見てその者の家にも遊びに行くと約束したことを。


「うーん、素敵なお話ですね。出口はどれもお互いに遠いのでしょうか」

「そうと聞くね。行き来するにはこの世界での数週間という時間がかかるらしい」

「では一度戻って出口を選び直すというのは」

「王が我らの往復を許すのはそう頻繁なことではないよ。もう一度申請し直していたらいつになるかわからない……」


 肩を落とす小人に、私はつい手を差し伸べた。


「力になれなくてすみません。代わりと言ってはなんですが、我が家でお茶でもしていきませんか」

「いいのかな」


 うつ伏せた彼の声に喜びがにじみ出ている。


「ええ。私も、あなたの世界のお話が聞きたいです」

「では失礼するよ」


 ぎぃ、とゆっくりと音を立てて戸が閉まる。

お題:間違った土地

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