訪問者
「ここに〇△という者はいないか?」
早朝に戸を叩かれて開けてみたら、私は遠慮がちな問いに迎えられた。
知らないと答えると、相手は困惑気味に目線を巡らせる。
しかし彼には何が見えているのだろうか。私の膝までもない身長では、随分と視界が限られていることだろう。
失礼だとは思うが、彼を今一度じっくりと見つめた。大きさを除けば、構造も服装も私の知る人類とそう変わりがない。
私に小人の知り合いはいない。この家は古い森の縁に建っているが、こういうおとぎ話の存在の訪問を受けたことはなかった。
「残念ながら、覚えがありませんね。なにぶん150人と住んでいない小さい村ですので、全員の顔も名も把握しているつもりですが」
「そうか……出口をまちがえたかな」
「出口と言いますと」
「いやね、この世界とつながる通路を選び違えたかなと。かの地とは気候も景色も違うようだ」
小人は短い髪をなでながら説明した。彼らの住む世界とこちらの世界をつなぐ通路は七つあると。その昔、間違えて入ってきた者を友と迎えたことを。そして折を見てその者の家にも遊びに行くと約束したことを。
「うーん、素敵なお話ですね。出口はどれもお互いに遠いのでしょうか」
「そうと聞くね。行き来するにはこの世界での数週間という時間がかかるらしい」
「では一度戻って出口を選び直すというのは」
「王が我らの往復を許すのはそう頻繁なことではないよ。もう一度申請し直していたらいつになるかわからない……」
肩を落とす小人に、私はつい手を差し伸べた。
「力になれなくてすみません。代わりと言ってはなんですが、我が家でお茶でもしていきませんか」
「いいのかな」
うつ伏せた彼の声に喜びがにじみ出ている。
「ええ。私も、あなたの世界のお話が聞きたいです」
「では失礼するよ」
ぎぃ、とゆっくりと音を立てて戸が閉まる。
お題:間違った土地




