器用な
笑われた。
クラスの友達に、女子に、果てはひそかに憧れていた間島さんにまで、俺は今日笑われてしまったのだ。
みんな口元を隠すなり顔をそらすなりしてたが、その気遣いが余計に辛くて。間島さんのお上品な、こらえたような「くすり」がますます痛かった。俺は背中を丸めて自分はいないもののように必死に振舞い、しかし残らず問題の弁当を完食した。
放課後、帰宅部の俺は真っ先に主犯の姿を求めて家の中をズンズンと突き進む。そして台所に入るなり怒鳴った。
「おいおふくろ! どういうことだ!」
「お帰り、かっちゃん。どうしたのお」
エプロン姿の母がおたまを持ったまま、のんびりと返事をする。とぼけられると、もっと腹立たしい。
「どうしたのじゃない、弁当だよ! 俺の気持ちがわかるかっ! 高校生にもなって、人前で開けた弁当が、イタ弁だった時のショックが!」
俺は持ち帰った弁当箱をがばっと見せつけてやった。
黒光りのするシックでクールな外観とは裏腹に、中には俺がついに口に入れることのできなかった、アニメのキャラクターの髪形を模した海苔とかまぼこが残っている。他のおかずやごはんはもちろん食べた。どんなに変な形でも、もったいないからな。唯一食べ残したこの中身も、まあ後で食べてやるつもりだ。
「あらぁ、ごめんなさいね」
「あ、謝ったって許さねー! なんだよこれは!? 何考えてたんだよ! こんな……小学生の時にハマったアニメのキャラ弁なんてさ! どうしちまったんだよ急に」
普段の弁当は至って普通で、こんなことはない。母が突然の奇行に走るには何かしら理由があるのだろう。俺はなんとか怒りをおさめて、母の弁明を待った。
「でもそれ作ったの、お父さんよぉ。久しぶりに単身赴任から帰ったから、かっちゃんの為に何か特別なことしたいって」
俺は弁当箱を取り落とした。
お題:許せない弁当




