大使一家の家族写真
夫の過去について、まだ知らない部分がある。
職場で出会い、なんとなく意気投合して、気が付けば籍を入れるまでに、約一年。すでに三十路に足を踏み入れている私よりも十は年上である彼にとっては再婚だった。
そして結婚してから初めて迎える私の誕生日の折、夫に実家に来てくれないかと誘われた。私は快諾した。
それが、先週の話である。
「まさかあなたの実家に行くまでに、飛行機に乗るとは思わなかったわ」
空港に向かうタクシーの中で、私はふとそう漏らした。
トンネルに入ったため、突然視界が暗くなる。
「きみを驚かせたかったんだ。ゆるしてくれ」
オレンジ色の薄闇の中、彼は私の手を握りしめて笑った。表情は見えないが、声音がどこか不安そうだったのが気になった。
――しかし驚くのはまだ早かった。
到着した先はどうやらプライベート空港で、あれよあれよとジェット機に乗り込んだかと思えば、数時間後には、異国の地を踏んでいた。島の名前を聞かされても、私には発音できないような名だ。
時差があるため、着いた時も朝だった。なじまぬ体内時計を持て余し、私はおぼつかない足取りになっていた。
夫に手を引かれ、巨大な建物に入っていった。何やら周囲に人が集まってきている。
そういえば彼は優れた容姿に恵まれている。他民族の血が混じっているのは知っていたが、まさか現在進行形でその国と縁が残っているとは思わなかった。
巨大な広場、見たこともない大きなトロピカルな木々を通り、屋内噴水の前に立った。
ふいに夫が足を止める。
「あれをみてくれ」
「なに?」
目を瞬かせると、何やら大きなパネルに家族の集合写真があった。
「それがなに?」
「オレだよオレ、あそこ」
お題:オレだよオレ、あそこ




